チャプター・5 京一郎
「あのさ、今までジプシーに聞こう聞こうと思って、聞けなかった事があるんだけど」
ほーりゅうのその言葉に、俺は少々驚いた。この女に今まで、聞くに聞けなかったという、そんなつつましい態度があったとは。
ジプシーも心外だったらしい。思わず皆で注目して、ほーりゅうの次の言葉を待つ。
「……前にジプシーが言っていた、私と同じ超能力を持つ知り合いって、誰?」
……ほーりゅう、こいつは遠慮をしていたんじゃない。絶対この話題を、今の今まで忘れていたんだ。俺はそう確信した。そして、ジプシーの方へ振り返ってみると、奴は露骨に嫌な顔をしていた。
普段、表面上の浅い付き合いの表情しか浮かべない奴を見慣れている俺は、ここまで、はっきり感情を顔に出している所を見たことがない。
なので俺は、この話題をそらすタイミングを、つい逃してしまった。
同時に、思った事をそのまま直に口に出せるほーりゅうが、ちょっとだけ羨ましく思った。あくまでもちょっとだけだ。
相手が話したがらないとわかっている事を、俺は聞けねぇよ。
何か考えがあってか、夢乃も口を開かない。
さすがに、自分が何か言わなければ、この状況が終らないと思ったらしい。適当に誤魔化しても納得するまで、この女は繰り返し聞いてくる性格だと、これまでの経験でわかる。
ジプシーは嫌そうな顔をしたまま、気が進まない感じで答えた。
「一度だけしか会っていない。……我龍と言う奴だ」
「どんな超能力を持ってる人?」
ジプシーはすぐに答えない。傍から見ていると、奴の心の内が良くわかる。如何に少ない言葉や文章で、このほーりゅうを納得させることが出来るかを考えているんだろう。……それだけ、我龍って奴の事を話したくないって事か。
「……あれは、PK・サイコキネシスか。能力の制御がきかないお前と違って、時間の溜めもなく正確でパワーもあった」
そう言った後、ジプシーの表情が、ふっと、いつもの無表情に戻る。
「なるほど……。前に、ほーりゅうの力を見た時、どこかで体験した感覚だと思ったのは、奴の能力と種類が同じだったからか」
それを聞いたほーりゅうが、思いついたように言った。
「能力もだけれど、私と名前も似てるよね、龍つながり! 何か親戚関係ありそう?」
「奴の名前は下の名前だ。お前は苗字だろ。……母親違いで兄がいたはずだが、今の奴の親戚関係に十代の女はいない。あと、奴の背中には龍の刺青があると聞いた位だ」
龍の刺青? 一般市民には縁のないものだ。一瞬、組や暴力団関係者かと思ったが、俺は口に出さない。
もういいだろうという感じで、切り上げようとする雰囲気のジプシーに、ほーりゅうは更に聞いた。
「ジプシーと我龍、どんな関係なの?」
俺はジプシーの無表情の瞳の中に憎しみの光を見た。どんなにポーカーフェースをしていても隠しきれない憎悪の色。
「それは、お前には関係のない事だ。話す必要はない。……生徒会室に書類を出してくる」
取り付く島もなく、身を翻してジプシーは扉を通り、屋上から出て行った。
追いかけようとしたほーりゅうの襟首を、夢乃が、むずと後ろからつかむ。
「夢乃、何すんのよ」
今まで黙って成り行きを見ていた夢乃が、ほーりゅうと俺に無言のまま、その場に座るように合図する。
なので、ほーりゅうは不服そうにしながらも、その場でしゃがみこんだ。
「ほーりゅう、本当は私が話すべきではない事なんだろうけれども。この調子なら、いつかはあなた、ジプシーの地雷を踏んじゃうわ。だから、私の知っている事を先に話しておこうと思うけれど。……まだ京一郎にも話していない事なんだけれども」
夢乃が俺を見る。
あのジプシーの顔をみたら、既に先程の会話で、充分奴の地雷を踏んでいそうなのだが。夢乃の今の言い方なら、他にも地雷はあるということか。聞ける時に聞いておくべきだろう。
「俺は今まで聞かなかったから奴の過去は知らねぇが、その過去が今の奴を作ってんだろ。言葉で奴の過去を聞いた所で、現在の奴が変わらなかったら、俺と奴との今の関係も変わらないさ」
頷いた夢乃は、何処から話そうかしばらく考えていた。
ほーりゅうも、ジプシーの後を追いかける事はすっかり忘れて、夢乃の話を聞く気になっているようだ。
「もうジプシーには、いろいろ聞かないでね」
夢乃は、ほーりゅうに念を押してから話し始めた。
「ジプシーの両親が亡くなったのは、彼が小学校一年の最初の頃らしいわ。そして、私の家に来たのは、中学一年の春。だから小学校時代は、土居さんって言うんだけれど、ジプシーの父親のお兄さんの所にいたそうよ」
「なんだ、てっきり天涯孤独だと思ってたけれど、親戚いるじゃない」
ほーりゅうは思わず言ったが、慌てて口を押さえて言った。
「……続きをどうぞ」
俺の中では、兄弟であるはずの土居という苗字が、ジプシーの苗字である江沼と違う事の方が引っかかったが、今回話の腰を折る程の事でもないだろう。まあ、父方というのであれば、陰陽師関係か。夢乃の話の続きを待つ。
「私の父と土居さんが、昔からの親友の関係で、ジプシーが私の家に来たんだけれども」
ちょっと夢乃は言い澱む。
「ジプシーの両親と妹さん、妹さんの年齢は彼の二つ下だったかな……事件があって。ジプシーを残して、一家皆殺しにあったらしいの。犯人は、まだ捕まっていない」 |