チャプター・20 ほーりゅう(完)
昼間の文化祭は盛況に終った。ちょっと午前中にアクシデントもあったけれども、それはそれ、この高校の文化祭とは別口だし。
後夜祭。出場しない私と夢乃は、京一郎とジプシーとは別行動だから遅めに行って、全体が見渡せる講堂の一番後ろで見ることにした。ライブは嫌いじゃないけれど、私も夢乃も最前列を取って観たいタイプじゃないし。
まだ時間はかなりあるのに、既に講堂の中は熱気というものが溢れている感じがした。後夜祭を楽しみにしている子達が、それだけ多いって事なんだな。
伝統的に毎年こうなんだって聞いた。だから、後夜祭のライブで舞台に出られるグループは、すごい競争率なんだそうだ。そんな中でよく出られたもんだ。メンバーの三年が役員を脅しでもしたんだろうかと思っちゃう。
「オリジナルの曲じゃないって。二曲ともカバーらしいわ。だって、京一郎が作ったら軽すぎる歌詞になるし、ジプシーが作ったら聴いていられない程根暗な歌詞になりそうだからって」
夢乃がそう言ったので、後夜祭用に入り口で配られた一枚モノのパンフを見る。ふ〜ん。最後から二番目ね。あ、でも私の知らない曲名だなぁ。聴いたらわかる曲なのかな。
……本当にパンフではメンバーの所、ジプシーの名前がなくて、偽名の千葉君になってる。今日の出来栄えによっては、名前を騙られた千葉君は校内で有名人になるかもね。
外はすっかり暗くなった頃、後夜祭の舞台が始まった。
競争を勝ち抜いてきただけあって、どのグループも皆うまい。
私も夢乃も、充分に楽しんでいた。当然、この中の何処かで、明子ちゃんも楽しんでいるんだろうなぁ。あれだけ後夜祭ライブを楽しみにしていたんだもん。
そして、京一郎達のグループが出てきた。
ちょっと照明を落としぎみで逆光っぽくしている。顔がわからないように、わざとかな。
京一郎が持っているのは、あれはエレキギターっていうのかな。よくよく見て、ドラムとキーボードとベース……皆、少々京一郎の先輩っぽい族の雰囲気が入っているから、きっと三年。じゃあ、ジプシーがボーカルなんだ。サングラスかけて、髪の色や形を変えて。確かに、あれなら誰かわからないや。
曲が始まる。……どこかで聴いた事のある様なノリ良い曲。
歌が始まる。
知らなかった。ジプシーって、歌が上手いんだ……。
私も夢乃も、曲と一緒になって歓声を上げた。
まだ短い付き合いだけれど、京一郎は、あの年にして充分自分の人生を楽しむ術を知っている感じがする。
辛くて語れない過去が、他にもまだ彼にあるんだとしても。
どうか、ジプシーの未来に、明るい光あれ!
「文化祭、終ったねぇ」
そろそろ、暖かい日差しを浴びても肌寒く思える屋上で、私は伸びをする。これからは、雨の日にだけお弁当を食べる為に使っている自習室で、昼休みを過ごす事になりそうだ。
「ジプシー、演劇部の勧誘がすごいんだって? 逃げ回ってるらしいね」
私は、ぼんやりと柵越しに街並みを眺めているジプシーに言った。
「演劇部の連中って、男としてのジプシーが欲しいんだろうか、それとも女装したジプシーが欲しいんだろうか?」
とっても嫌そうな眼で、ジプシーが私を一瞥した。
あれから千葉君は、訳もわからないままモテていた。あの様子では、後夜祭に出たのが千葉君ではないとバレるのは時間の問題かな。
もう一人、文化祭直後から、とてもモテ始めたのはジプシー。舞台のジュリエットを観て、皆一目ぼれしたんだろうなぁ。それも男女を問わず、毎日ラブレターが届くようになってしまった。机の中に入っていたり、校門で手渡されたり。
毎日届く手紙が、いい加減一日で二桁を越すようになる頃、騒がしさを嫌うジプシーの為に、ある日、わざわざ皆の前で、京一郎が大声で言った。
「おっ! ジプシー、手紙が沢山来るなぁ。護摩木の代わりに、手紙を燃やす気かぁ?」
一斉に、場が凍りついた。
それからは、手紙はばったり来なくなった様子。さらには、今までの手紙を返してくれと泣きついてきた男子もいたらしい。
でも京一郎も、もっと言い方があるのにな。もともと変人扱いだったのに、ますますジプシーが怪しい人だと思われちゃうよ。
ぼんやりと日向ぼっこをしていたら、ふと思い出したかのように、京一郎が私に向かって言った。
「ほーりゅう」
「? 何」
真剣そうな顔の京一郎。真面目な話なんだろうか。
……なんだろう。
「とりあえず、文化祭も終った事だし、期末試験に向かって勉強するかぁ?」
「……ぇえ? 試験なんて、まだまだ先じゃん!」
「お前の前回のペースを見ていたら、今からやらねぇと試験範囲が終んねぇの! 大きなイベントが終わった事だし、今日から学校退けたら試験勉強始めるぞ! この俺様が責任持って、みっちりと叩き込んでやるからさ」
……そんなの、いやだぁぁぁ!
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