オルレアンの森林(中級)
片道90分という長旅の末。
悠斗たちはオルレアンの森林(中級)に到着した。
ラグール山脈と比べると移動時の傾斜が少ないからだろう。
体力の消費は思っていた程ではなかった。
オルレアンの森林は、耳を澄ませば川のせせらぎが聞こえてくる美しい自然に囲まれたエリアである。
悠斗は思う。
魔物さえ出てこなければ、のんびりとピクニックでもしたい気分であった。
(けどまあ、そういう訳にはいかないよな)
到着してから間髪容れずのエンカウントである。
スケルトン 脅威LV7
リザードマン 脅威LV10
数はそれぞれ1体ずつ。
スケルトンはその名の通り人骨の形を成した魔物であった。
(なんというか……小学校の理科室にあった骨格標本を思い出すな)
異なる点を挙げるとするのならば、右手に骨を研いで作られた棍棒を持っているという点だろうか。
全体的に夜道では会いたくない……薄気味の悪い魔物であった。
一方でリザードマンは2足歩行になった巨大トカゲと言った感じの魔物である。
スケルトンと違い武器は持っていないが、代わりに鋭い鉤爪を両手に有していた。
その全身は硬そうな鱗に覆われている。
攻守を両立したバランス型の魔物と言ったところだろうか。
「ご主人さま! 気を付けて下さい! 中級エリアから出現する魔物は初級エリアのそれとは比較にならないほど強くなっているそうです!」
ギルドから受け取った小冊子を片手にスピカは忠告する。
このところ魔物に関する解説は、すっかりとスピカの役割になっていた。
「え? なんだって?」
だがしかし。
スピカの解説が終わる前には既に――。
悠斗の足元にスケルトンとリザードマンの亡骸が転がっていた。
「あ……れ……?」
小冊子に目を通すことに集中していたスピカは、何が起きたか分からずに呆然と立ち尽くしていた。
戦闘の一部始終を見ていたシルフィアですら、悠斗の早技を全く眼で追うことが出来ずにいた。
「いや~。やっぱり人型の魔物が相手だと戦いやすいな。スライムなんかより俺としては断然こっちの方が弱く感じるよ」
その言葉は一切の誇張が含まれていない悠斗の本音であった。
全ての格闘技の長所を相乗させるというコンセプトを持った《近衛流體術》を修めるため――。
レスリング、ボクシング、サバット、合気道、柔術など古今東西で優に60種類を超える格闘技を習得している悠斗であるが、その中には不定形の生物と戦うものは存在しない。
それでもこれまで戦ってこれたのは悠斗の卓越した戦闘センスの賜物であるが――。
元来《近衛流體術》の効果を最大限を発揮することが出来るのは対人戦なのである。
スケルトンやリザードマンと言った魔物は、人体と近い構造をしているため、悠斗がこれまで培ってきた対人用の武術を遺憾なく発揮することが可能であったのだ。
スケルトンには相手の身体を外側から破壊する《剛拳》という打撃が有効であった。
筋肉の上からでも人骨を砕くほどの《剛拳》を有する悠斗にとっては、剥き出しの骨を折ることなど赤子の手を捻るよりも容易いことである。
反対にリザードマンには相手の身体を内側から破壊する《柔拳》が有効であった。
いかに強固な鱗に覆われていようとも、体内の臓器を破壊されてしまえば関係のないことである。
剛拳と柔拳。
悠斗はタイプの異なる二種類の打撃を刹那で放つことにより、周囲が唖然とするような神速の討伐を可能にしたのであった。
「流石はご主人さまです! 正直……凄すぎて何とコメントすれば良いのか分かりません!」
「恐れ入ったぞ! 主君の武術はもはや神の領域に達していると言っても過言ではないだろう」
「……んな。大袈裟な」
美少女たちから褒められるのは悠斗とて悪い気はしない。
けれども。
いつまでも浮かれていても仕方がないだろう。
そう判断した悠斗は、素材の剥ぎ取り作業を完了させた後。
次なる獲物を探しに森の中を彷徨い歩くのであった。