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VS 強欲の魔王2



 魔眼によって《帰還の魔石》の効果を確認した悠斗はあることに気付く。


 どうやらこのアイテムで元の世界に帰ることが出来るのは1名までらしい。


 即ちそれはこの魔石で元の世界に戻ることになれば、仲間たちをトライワイドに残しておかなければならないということである。



「ちなみにこの魔石って1つしか在庫がないのか?」



 厚かましいことを聞いている自覚はあったが、こちらはマモンの部下に命を狙われた立場である。


 少しくらいは強気に出てもバチは当たらないだろう。



「ああ。それは間違いないよ。その魔石はボクの所有する鉱山から出た希少な品でね。かれこれ20年は鉱山の運営に関わっているが、出てきたのはそこにある1つだけだよ」


「そうだったのか……」



 悠斗は思う。

 おそらくマモンの言葉は事実だろう。


 この《帰還の魔石》というアイテムが、マモンにとっては利用価値の低いものである可能性は高い。


 そうでなければこれほどまでにアッサリと渡せるはずがないのだから――。


 ならば嘘を吐いてまで《帰還の魔石》を出し渋る必要はないだろう。



「分かった。俺からの要件は以上だ。邪魔をして悪かったな」


「貴様……本当に要件はそれだけか? ボクの命を狙いにきたのではなかったのか?」



 カネにものを言わせて現在の地位を築き上げてきたマモンは人間・魔族を問わずに敵が多い。


 マモンにとっては自分のことを殺す絶好のチャンスを見逃そうとする悠斗の言動は、腑に落ちないものであった。



「ああ。元々、俺は魔族と人間の争いなんかには全く興味がねーんだ。どちらか一方の肩を持つ気もサラサラねえ。

いわゆる『絶対中立主義』ってやつだ。そっちに戦う気がないんなら、俺からお前に危害を加えることはないだろうよ」


「…………」



(どうやら嘘は言っていないようだ。やれやれ……どうやらボクの悪運は尽きていなかったらしい)



 魔族たちの中でも最強の兵力&財力を有するマモンであるが、本人の戦闘能力は特別に高いというわけではない。


 何より頭脳派と称されるマモンにとっては、1対1の直接戦闘など避けるに越したことのないものであった。



「マモン。私もお前に聞きたいことがある……」


「えーっと。キミは……?」


「私の名前はシルフィア・ルーゲンベルク。誇り高きルーゲンベルクの家に生まれた騎士である!」



 シルフィアの姿を見たマモンは顔をしかめる。



(なんなんだ? この雑魚は……?)



 人間にしては体を鍛えているようだが、何か特別な力を持っているようには思えない。

 マモンの眼から見てシルフィアの実力は、明らかに場違いも甚だしいものであった。



「えーっと。こいつは俺の仲間なんだけどマモンに聞きたいことがあるらしい。よかったら少し時間をくれないか?」


「……やれやれ。仕方がない。乗りかかった船だ。ボクは忙しいから手短にお願いするよ」



 悠斗に促されたマモンは観念して椅子に座る。



(やはり飛び抜けて強いのは……この少年か……)



 1万人を超える部下を保有するマモンは、相手の戦闘能力を見抜く技術において他の追随を許さないものを持っていた。


 グレータデーモンを打ち破ったのも頷ける。

 武闘派ではない自分が戦ったところで勝つことは困難だろう。


 マモンの眼から見て悠斗の戦闘能力は、《四獣》と比較しても遜色のないものであった。



「貴様はルーメルという国のことを覚えているか?」


「……ルーメル。はて。そんな国があったかな」


「惚けるな! 私は貴様とルーメルの王……ガリウス様が接触した現場を目撃しているのだ!」


「ガリウス……ああ。その名前を聞いて思い出したよ。ルーメル。はいはい。あのバタ臭い田舎のことだね」


「クッ……」



 自らの祖国を侮辱されたシルフィアはギリギリと唇を噛み締める。



「第13代国王ガリウス……。ボクの命令に従っていれば命を落としはしなかったものを……。まったくもって愚かな男だったよ」


「貴様……? それはどういうことだ……?」


「強力な固有能力を持った異世界人は、現代戦争にとっては必須の人材だ。だからボクは各国の王族に《召喚の魔石》を売却するビジネスの指揮を取っているのだよ。

 しかし、あの頭にカビが生えた男はボクの取引に応じないばかりか……無礼にもボクの部下を国から追い返したんだよ」


「当たり前だ! 誰が好き好んで魔族と取引をするものか!」


「はははっ。だからボクはロードランドの王族たちをけしかけて、国ごと滅ぼしてしまったよ。

いや~、実に滑稽だったね。目の前で娘がオークの兵たちに犯された時のガリウスの表情は……!

大人しくボクの言うことを聞いていれば猿山のボスを気取っていることが出来たのにね」


「~~~~っ!」



 ルーメルの王女ウルリカは、幼き日のシルフィアのたった1人の親友とも呼べる存在だった。


 予想外のタイミングで最愛の友の最期を聞いたシルフィアは、ショックで呆然としていた。



「それでシルフィアくん……と言ったか。キミは一体、滅びた国の何が知りたいというのだい?」


「…………」


(こんな気持ちになるのであれば……真実など知るべきではなかったのか)



 最愛の友の無念を想うと涙を抑えることができない。

 

 分かっている。

 本来であれば自分のするべきことは、親友が受けた屈辱を晴らすべく今すぐに剣を抜くことなのだろう。


 だがしかし。

 シルフィアの体には不思議と気力が湧き上がらなかった。


 彼女の中に芽生えた感情は怒りではなく、悲しみの方が強かったのである。



「なんだい? 急に泣き出して? これだから人間という生物は好かないね。あんな愚かな王が統治する国は滅びて当然だというの……グハァッ!」



 突如として悠斗の拳がマモンの頬にめり込んだ。

 マモンの体は大きく宙に舞って黄金で作られた部屋の壁に激突する。



「ゴボォ……ゴボッ。ゴボォォッ」



 折れた肋骨が内臓に刺さったのだろう。

 マモンの口の中からは泉のように血が溢れて出る。



(……痛い! 痛い。痛い痛い! な、なんだよ。どうしてボクがこんな目に遭わなくてはならないのだ!)



 戦闘に慣れていないマモンは、今にも意識を飛ばしそうな激痛に耐えながらも黄金の床の上に蹲っていた。



「……クズが。俺はお前みたいな外道には容赦しねえ!」



 マモンが視線を上げるとそこにいたのは、怒りの形相を浮かべる悠斗の姿であった。



「貴様ァッ……。先程言った……『絶対中立主義』の信念はどこにいった……!?」



 色々とツッコミたいことはあったが、マモンの口から最初に出たのはそんな疑問であった。



「関係ねえ! 男には……己の信念を曲げても成し遂げなければならねえことがあるんだよ!」


「…………」



 マモンは戸惑っていた。


 スキルを使って確認したが、悠斗の言葉に嘘はなかった。


 先程の『絶対中立主義』という言葉に嘘はないが、今回の『信念を捻じ曲げても成し遂げなければならないこともある』という言葉も真実である。



(理解不能だ! こ、こいつの思考回路は一体どうなっている!?)



 心の中でツッコミを入れるマモンであったが、今は相手の思考を分析している場合ではない。

 悠斗に胸倉を掴まれたマモンは、絶体絶命のピンチに陥っていたのである。



「テメェ……よくもウチのシルフィアを泣かしてくれたな?」


「ひぃっ!?」



 この状況では流石のマモンも大物振っていられる余裕はなかった。


 助かるためには手段を選んでいられる状況ではない。



「……わ、分かった! カネだろ? カネが欲しいんだろ? 幾らだ? 幾らほしい? それともアイテムか? ボクの金庫の中にはこの世界のありとあらゆるお宝が入れられている! どうだ? そいつを1つやるからここは穏便に手を打たないか?」


「…………」



 悠斗は無言だった。

 自ら力を持たず、カネで何でも解決できると考えているような男に仲間を傷つけられたことに怒っていたからである。



「そんなにカネが好きなら金の中に沈んでいろ!」



 そこで悠斗は黄金で作られた床の上にマモンの頭を叩き付ける。



「アギャバッァ!?」



 その直後。

 黄金の床は砕け、マモンの体は下の階に目掛けて落ちていく。



(バカな……! 魔族の頂点に君臨するボクが……こんな奴に……!)



 落下の勢いは留まることを知らず――。

 49F……48F……と次々に床をぶち抜いていってマモンの体はついに悠斗の視界から消失した。


 悠斗の一撃によって頭蓋骨が砕かれたマモンは次第に意識を消失させていく。



「帰るぞ。シルフィア。みんなが待っている」



 戦いに一区切りついたことを悟った悠斗は、泣き崩れていたシルフィアに手を差し伸べる。



「……すまない。主君。この借りは何時か必ず」



 たとえ怒りに任せて斬りかかっても自分の力では、マモンを倒すことが出来なかっただろう。

 自分の代わりに仇を取ってくれた悠斗に対して、シルフィアは更なる忠誠を誓うのであった。






 

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