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ミミズクの街道



 ミミズクの鉱山はエクスペインの街から東に20キロほど離れた場所にあった。


 どうやらこの鉱山は以前までは貴重な魔石が発掘されるということでエクスペインの商人たちに重宝されていたのだが――。


 魔石が掘り尽された後は、誰も寄り付かなくなり、そのまま魔物たちの住処となってしまったらしい。



「それにしても……主君とこうして二人で出掛けるのは久しぶりだな!」



 エアロバイクの後部座席に乗ったシルフィアは上機嫌に呟いた。


 今回の探索ではスピカを屋敷の中に留守番させている。


 それというのもリリナが主導で行っている『温泉作り』が佳境を迎えて、どうしても人手が欲しいと言われたからである。


 今回のミミズクの鉱山は、悠斗が初めて訪れることになる適性水準シルバーランクの狩場であり出現する魔物の脅威レベルも上がっている。


 そういう経緯もあって今回の探索は、悠斗&シルフィアの二人で行われることになっていた。



「今日は他でもないこの私が主君のこと守ってみせるぞ! 主君は大船に乗った気持ちでいるといい」


「ああ。期待しているぞ」



 シルフィアは思案する。


 ここ最近の自分は悠斗に守られていてばかりで全く良いところがない。

 二人きりで高難易度の狩場に向かう今日こそ、自分の実力を主人にアピールできる最大のチャンスである。


 気分が高潮したシルフィアは、前座席にいる悠斗の体をギュッと抱きしめるのであった。



 ~~~~~~~~~~~~



「ようやく来たか。待ちくたびれたよ」


 悠斗がミミズクの鉱山の入口まで足を運ぶと、見覚えのある女性がそこにいた。



(なっ。どうして貴女がここに……?)



 その女性――ラッセン・シガーレットの姿を見たシルフィアは不機嫌な表情を浮かべる。

 せっかくの悠斗と二人の遠征だというのに水を差された気分であった。



「どうしてラッセンさんがいるんですか?」


「ふふっ。キミの昇格試験を手伝ってやろと思ってね。ユウトくんがミミズクの鉱山を目指していると聞いたから先回りをしたのだよ」


「感動しました……。そこまで俺のことを想って……!?」


「気色の悪いことを言ってくれるな。キミには以前のダンジョン探索で受けた借りがあるからな。ここの辺で一度、貸し借りを清算したいと思っていたのだよ」


「…………」


(相変わらずブレない人だなぁ……)



 ラッセンの言動は「そろそろフラグが立っても良いでは?」という悠斗の期待をことごとく裏切るものであった。



「それにしてもユウトくんはラッキーだよ。アタシが来たからにどんな脅威からもキミを守ってやるからな。大船に乗ったつもりでいるといい」



 ラッセンの放った何気ない一言はシルフィアの神経を逆撫でする。



「……必要ない」


「ん? えーっと。キミはたしか……?」


「私の名前はシルフィア・ルーゲンベルク。誇り高きルーゲンベルクの家に生まれた騎士である!」


「……クク。アハハハハ!」



 シルフィアの言葉を聞いてラッセンは何を思ったのか唐突に笑い始める。



「何が可笑しい?」


「いや~。すまない。ユウトくん。キミの奴隷は随分と面白い冗談を言うんだね」


「冗談だと……?」


「だってそうだろう? ユウトくんの腰巾着でしかないキミが『騎士』を名乗るなんておかしな話じゃないか」


「き、貴様……!」



 苛立ちがピークに達したシルフィアは、ラッセンに向かって掴みかかる。



「やれやれ。ユウトくんもユウトくんだ。奴隷の教育も出来ていないようでは《シルバーランク》の冒険者にはなれないよ」



 おそらくラッセンも悪気があって言っているわけではないのだろう。


 男に頼らず『女1人で自立して生活していること』に対して、プライドを持っているラッセンがシルフィアを見下す言動を取ってしまうのは分からない話ではなかった。



「私だけならいざ知らず……主まで愚弄するというのか。今すぐに武器を取れ! いざ尋常に決闘しようではないか!」


「ほう……。面白い。よもやキミは奴隷の分際でアタシに勝つ気でいるのかな?」


「おい。二人とも! 落ち着けって」



 悠斗はシルフィアとラッセンの間に入り込んで仲裁する。



「しかし、主君! このままバカにされたまま引き下がるわけには……」


「だからって仲間同士で争っていても仕方がないだろう! 俺たちの敵は鉱山の中にいるモンスターなんだからさ……」


「しかし、ユウトくん。ここまで大口を叩かれたからにはアタシも簡単に引き下がるわけにはいかないよ。アタシにもプライドというものがある」


「…………」



 ラッセンの言葉は尤もである。

 主としての命令権を行使してシルフィアに謝罪をさせることは簡単であるが、そんなことをすれば絶対に尾を引く結果になってしまう。


 事態を穏便に修めるには『決闘』に代わる何かしらの対案が必要であった。



「ならこうしよう! 今回の探索では俺はピンチになるまで手を出さない。どっちが『俺のことを守れるか』勝負ってことで……どうかな?」



 悠斗の放った苦し紛れの提案は、意外にも二人に受け入れられることになる。



「その勝負、引き受けた!」


「異論はない。主君を愚弄したことを後悔させてやろう」



 ラッセン&シルフィアはそれぞれ互いに顔を向き合わせながらも、バチバチという火花を散らしていた。


 こうしてシルバーランクの昇格試験は一転して、女同士の熾烈なバトルに発展するのであった。








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