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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

とある進学校の日常

作者: RS



今日、彼はどうやら落ち込んでいるらしい、と男は思った。



騒がしい朝の時間。次々と元気のいい学生たちが登校し各々決められた時間まで好きに過ごしているこの時。一際人の視線、特に異性の視線を集める男はその視線になど目も暮れずとある男子生徒を見つめていた。その男子生徒はどこにでもいそうな黒髪黒目の平凡――名を、斉藤悠太サイトウユウタという。


対して男――名を瀧柴暁タキシバアカツキは、進学校として名高い男女共学の学校で、学校一モテる男、の3本指に入る人物だった。残り2人のことはここでは割愛するとして、瀧柴暁は天からすべてを与えられたような男である。

進学校であるこの学校で瀧柴暁の成績は入学当初から学年5位以内に組み込まれ、何をやらせても出来る男といわれるほど運動神経もいい。異性から慕われすぎるのはもちろんのこと、瀧柴暁は同性からも慕われていた。

普通異性に騒がれるというだけで、多少クラスメイトたちなどから妬まれそうなものだが、彼の場合それがない。人気者、ありきたりなその一言に尽きる。決してクラスのムードメーカーという訳ではない。だが近寄りがたい訳でもない。事実、瀧柴暁には共に騒げる親しい友人が複数いる。彼らも彼らで、瀧柴暁には及ばずとも目立つ人種だ。

ただ彼の発する独特な雰囲気が、不意に浮かべられる微笑みが、涼やかに鼓膜を揺らす声音が、決して自分を特別などと思わない態度が。異性だけでなく同性をも惹きつける。

何をするにも人の視線を奪ってしまう瀧柴暁だが、何とも可笑しい事に彼は高校に入学して以来異性と付き合ったことがない。親しい友人たちの話だと、中学時代にちょっと面倒なことになり刃傷沙汰にまで発展して以来、興味本位で異性と付き合うことはやめたとか何とか。

しかも可笑しい事に、刃傷沙汰の被害者も加害者も、瀧柴暁と付き合っていた女だった。多少遊んでいたので、彼女が刃物を持っているのを見て「まぁしょうがないかな」と瀧柴暁は思った。何があっても滅多に動揺しない彼も、さすがに彼女が自分自身の腹に刃物を突き刺した時はぴくっと眉毛が動いたらしい。

「女の子って可愛いけど、ちょっと恐いよね」と話の最後に苦笑して言った瀧柴暁に、話を聞いた友人たちは「目の前で彼女が自殺行為してるのにそれだけの反応しかしないお前の方が恐い」、と呆れ顔で言った。


そんな瀧柴暁がじっと視線を向けている人物に、友人たちはすぐに気付いた。

「斉藤がどうかしたのか?」と瀧柴暁に問えば、「別に」という言葉が返ってくるだけ。返事と共に斉藤悠太への視線も外れるがそれも一時だけ。すぐに瀧柴暁の視線は斉藤に向かう。

今までにない瀧柴暁の行動に、友人たちはこれは面白いと満面の笑みを浮かべそれ以来頼んでもいないのに瀧柴暁に斉藤の情報を持ってくるようになった。

情報といってもほんの些細なことで、やれ斉藤は昨日犬の散歩をしたとか、やれ斉藤には中学生の生意気な弟がいるとか、やれ斉藤は英語が苦手だとか。そんな話を瀧柴暁は「興味ない」と一言いうが、友人たちにはわかっていた。瀧柴暁が、斉藤の話に興味津々であることを。

途中で変に会話を切れば、瀧柴暁は無言で先を即す。その普通の人間らしい行動に、友人たちは面白く感じながらも嬉しく思い嬉々として斉藤の情報を彼の目の前にぶら下げた。


別に情報だけで何かをする気は友人たちにはなかった。斉藤に自ら接触もせず、瀧柴暁との接点を設けることも。出来れば斉藤と瀧柴暁が友人にでもなればいいな、とそんなことを思っていたのだ。

まさか、想いもしない感情を深く深く、元来よりずっと暗い感情が、徐々に、徐々に。瀧柴暁の中で生まれているとは思いもせず。彼があんな行動を起こすとは誰にも、本人すら思ってもいなかった。






そして、話は冒頭に戻る。瀧柴暁が思った様に、今日斉藤は落ち込んでいた。理由はなんてことない、前回行われた英語の小テストが今日返却されるからである。

元々英語が苦手で、予習復習を欠かさず行い試験前に猛勉強してやっと平均点が取れる彼にとって、抜き打ちで行われた小テストは散々だったのだ。まぁ進学校での平均は、普通からみたら十分の点数なのだがこの学校ではそんなことはなく、ちょっと手を抜けば結果が赤点だらけになってしまう。手を抜いても満点に近い結果を残す奴らもいるが。

斉藤が今日落ち込んでいることはもちろん、その理由も彼の友人たちは皆知っていた。しかし瀧柴暁には知る術もない。ただのクラスメイト、話したこともないのだから当然だ。彼が落ち込んでいると気付いたのだって、毎日毎日毎日じーーーーっと斉藤を見ているからこそ、瀧柴暁はわかったのだ。

何故斉藤を眺めるというか観察するようになったのか。瀧柴暁は今でも脳裏に刻まれたあの言葉を思い出していた。



茜色に染められた空と人気のない校舎。瀧柴暁は自身の荷物を取りに、教室に向かっていた。彼はその日、今では恒例となった呼び出しを受けこれまたベタに校舎裏で愛の告白を受けていた。「ごめん」から始まり「付き合うというのを考えられない」「今は勉強を頑張りたい」「嬉しいよ、ありがとう」等々、思ってもいない事をつらつらと述べ、その告白を断った。相手は涙を浮かべながらも「こっちこそ聞いてくれてありがとう」と健気に微笑み去って行った。

そして教室が目と鼻の先にまで来た時、開けっ放しの教室から話し声が聞こえてきた。クラスメイトだろうと思い、まぁどうでもいいかと教室に入ろうとしたときだ、自身の名を聞いたのは。



「瀧柴のやつ、また呼び出しだってよ」


「へ~そうなんだ」


「いいよなぁ~羨ましいぜ!まぁモテるのもわかんだけどさ~」



うな垂れる友人の言葉に興味なさそうに答えていたのが、斉藤悠太だった。彼は日誌を書いている友人の手伝いをしていたらしく「どうでもいいから早く書けって」と友人を即す。

何故か、瀧柴暁は足を止めていた。そして無意識に壁を背にして彼らから隠れ、会話に聞き耳を立てた。

今でもわからない、何故あのようなことをしたのか。



「勉強も出来て?運動も出来て?男からも好かれる人気者?漫画のヒーローかよあいつはぁ~!」


「いーから書けって!帰れねぇだろいつまでも」



妬みとかそういう暗い感情で友人が言っている訳ではないと、斉藤はわかっていた。この友人は、瀧柴暁にちょっとした憧れを抱いているのだ。本当にちょっとした、かっこいいアイドルに憧れるような軽い感じ。近くではなく遠巻きに眺めていたいらしい友人は、同じクラスだというのに瀧柴暁に話かけることはない。

瀧柴暁は、自身のことを話す彼よりも、興味なさそうにその友人を即す斉藤を気にしていた。そろっと壁から顔を出して覗き込めば、友人に向かって苦笑する斉藤が視界に入る。

茜色が教室に差し込む。淡い紅、温かいオレンジの光に照らされている斉藤から、瀧柴暁は目を離せなかった。



「でも、瀧柴ってさ」



漸く日誌に真面目に取り掛かった友人から目を逸らし、斉藤は外を見る。

その角度だと瀧柴暁のいる位置からは斉藤の表情は窺えず、何故かもどかしい思いを抱いた。そして、次に彼が何を言うのかとても興味が出て彼の言葉を待つ。静寂を割いて斉藤は言った。



「瀧柴って、つまんなさそうだよな」



その、言葉。斉藤のその言葉が、瀧柴暁の心に刺さる。

痛みも苦しみもなく、ただただ驚愕という感情だけが瀧柴暁を包んだ。



「はぁ?あんだけ何でも出来てモテてりゃ、人生バラ色だろ?」


「お前はそればっかだなぁ。……そうじゃなくてさ…、」



続きを、知りたかった。彼が何を言うのか、何を思っているのか、瀧柴暁は知りたいと思った。

けれど斉藤からそれ以上の言葉が紡がれることはなく、結局彼は「やっぱ何でもない。つか日誌!早く終わらせろって」と友人を即し、その会話を終わらせてしまった。

その後、やっと日誌を終わらせた友人と斉藤は立ち上がり教室を去ろうとしていた。その時何故か瀧柴暁は焦ってしまい、慌てて隣の教室に逃げ込んだのである。

そして、そっと隣の教室から顔を出し友人と談笑しながら去っていく斉藤の姿を、瀧柴暁はいつまでも眺めていた。


その日からだ、瀧柴暁が斉藤悠太を観察するようになったのは。

そして今日、見てるのはいつも自分だけで、こちらを見ない斉藤に合わない視線に、瀧柴暁は理不尽な怒りを覚えた。







茜色に染められた教室には今現在、日誌を書いている斉藤悠太以外、誰もいなかった。

静寂が包む教室には日誌を捲る音、シャーペンの芯を出す音以外何もしなかったが、突如机に放り出していたスマホのバイブが鳴る。

メールを知らせるそれを見ようと斉藤はシャーペンを置きメールを開く。母からのメールで、今日は家に帰れないこと、父も仕事で遅くなること、中学2年の生意気な弟は友達の家に泊まるということが記されていた。

よって、夕飯は自分で何とかしろという母からの無言の何かがメールから伝わってくる。斉藤はまたか…と日常茶飯事なメールを見て、さて夕飯はどうしようかと再びシャーペンを手に思う。

このまま真っ直ぐ帰宅せずにファーストフードかファミレスで済ませるも良し、家に帰って何か簡単に作るも良し。



「……金あったかな」


財布がすっからかんだった場合、必然的に大人しく家に帰り夕飯を作ることが決定する。

確認しようと鞄に手を伸ばしかけたが、とりあえず今は日誌を終わらせようと斉藤は再びシャーペンを握る手を走らせた。

その刹那、教室の扉が開く音が斉藤の鼓膜を揺らす。

反射的に顔を上げれば、扉に手を置き寄りかかる瀧柴暁の姿が目に入った。物凄く絵になる姿に一瞬見惚れ、はっと斉藤は正気に戻り慌てて視線を日誌に向けた。


ちょっと感じが悪かったかもしれないと思ったが、別に自分の態度が悪くても瀧柴は気にしないだろうと斉藤は思った。

瀧柴暁。同じクラスで話したことが一度もない斉藤でも、彼のことはよく知っていた。友人の一人が彼のちょっとしたファンというのと、瀧柴が本当に目立つ人物だからだ。

クラスだけでなく学園の女子の話題は大抵瀧柴、また男子の会話にも彼の名が出る。また勉強や運動で、数々の武勇伝を生み出す瀧柴の話題は入学してから今まで絶えることがない。

平々凡々な自分とは違い、顔も良くて勉強も運動もできる、ある意味クラスの人気者。彼が今、この時間に一人で教室に来たという事はまた何か呼び出しでもされたのだろう。

まぁ自分には関係ないと日誌を終わらせようとしたその瞬間、影が落ちた。




「…へ?」



何とも間抜けな声が零れた。顔を上げれば、無表情の瀧柴が斉藤を見下ろしている。

どきっと、意味もなく鼓動が跳ねる。別に男も落としたことがあると噂される瀧柴の美貌に胸が高鳴ったのではなく、何か、別の何かが、斉藤に何かを知らせた。

けれど斉藤はただ驚いただけだと、その何かを無視しへらっと締まりのない苦笑を浮かべる。



「どう、かしたのか?」



ちょっと吃ってしまったがしょうがない。まともに、というか話したこともないクラスメイトに突然無言で見下ろされたら誰だって驚く。

瀧柴が自分に何か用事があるとは思えないが、用事もないのに突然目の前に来ることはないだろう。日誌を先生に即されて斉藤に知らせに来たのだろうかとも考えたが、別にそこまで遅くはなってないし、先生だってわざわざそんなことを瀧柴に頼むとも思えない。



「……た、瀧柴?」



何も答えず無表情で見下ろす彼に困り、斉藤はそっと彼の名を呼んだ。すると彼は、ふんわりと笑みを浮かべた。

見たこともない柔らかい笑顔に今度こそ斉藤は、女子が瀧柴相手に騒ぎ立てるのと同じ意味で胸が高鳴った。声には出さず脳内で―うわぁああああ~…―と騒ぐ。



「何?斉藤」



いや、こっちが何?なんだけど……つか瀧柴、俺の名前知ってたんだな。そっちにも驚いた。

にこにこと笑いながら見下ろしている瀧柴に斉藤は何も言えず視線が泳ぐ。しかしこいつこんな顔で笑うんだな、女子が放っておかないのがよくわかるぜ…と思った斉藤は知る由もない。口元を僅かに緩ませた微笑みではない、満面の、心からの笑顔を瀧柴が浮かべたのは、これが初めてだという事を。

もし瀧柴の友人たちがこの場にいたら、驚きに口を開け石化していたことだろう。



「斉藤、なんで驚いてるんだ?」



何も言えず視線を泳がせていたら、瀧柴が笑みを浮かべたままそう言った。

斉藤はびくんっと何故驚いていることがわかったのだろうと焦る。そんなに自分はわかりやすい態度だったのだろうか。

慌てて斉藤は口を開き、言った。言ってしまった。



「い、いや、あの……った、瀧柴が俺の名前知ってるとは思わなくてさ、なんか驚いた…」



その瞬間の瀧柴の表情、目、彼が纏う空気を、斉藤は一生忘れることはないだろう。

驚くことも言葉を零す暇も与えられず、強い衝撃が斉藤を襲った。



「あ、わっ……!」



何とも間抜けな声は机や椅子が倒される鈍い音に掻き消される。腕を強く握られててそのまま引き倒された斉藤の握っていたシャーペンが空しく床に落ちた。

背中への衝撃に眉間に皺を寄せながら涙目でそっと目を開ければ、先ほどの無表情とは違うもっと冷たい、無機質な顔で見下ろす瀧柴がいた。そして彼の背には天井。

瀧柴に腕を掴まれ押し倒された挙句、彼が自分の上に乗っかっているのだと斉藤は理解した。



「た、たき……な、なに?…ど、……え…?」



混乱のあまり、斉藤は上手く喋れなかった。とにかく何が起こり、どうして瀧柴が自分を押し倒しているのかを知りたいのだが彼の表情からは何も窺えない。

打ち付けた背中が痛い、瀧柴によって床に押さえつけられている両腕が痛い。

暴れている訳でもないのに、決して逃がさないとばかりに瀧柴は斉藤を押さえつけていた。



「……やっぱりな…」


「っ……!」



漸く瀧柴が口を開いた瞬間、押さえつける力が増した。

その痛みに表情を歪ませた斉藤を、瀧柴は嘲笑し言葉を続ける。



「俺だけだ。ずっと…見てたのは俺だけ。それに気づきもしてなかったんだよなぁ斉藤は」



淡々と紡がれる言葉の意味が斉藤にはわからなかった。ただ、温度のない冷たい声音が恐い。

状況も理解できず、瀧柴の行動の意図も読めず、言葉の意味も分からない。体が勝手に震え始めてきた。

そんな斉藤を見下ろし瀧柴の笑みは深まるばかりだ。



「ずっと見てたんだよ。授業の時も、体育の時も、学校にいる時はずっと!」


「っ、……た、き…しば……、」


「なのに、名前を知ってるかって?知ってるに決まってるだろ、ずっと見てたんだからさぁ」




くつくつと楽しそうに瀧柴が笑う。嫌な、嫌な笑い方だ。恐怖と一緒に嫌悪が湧いてきた。

瀧柴が何故笑っているのかはわからないけど、自分が笑われていることだけは斉藤にもわかった。

一頻り笑って満足したのか、再び瀧柴の視線が斉藤に向かう。もう、笑顔はなかった。



「…斉藤は、いつ俺を見るんだよ」


「……っ…」


「なぁ、どうすれば見てくれんの?」



すっ…と、斉藤の両腕を押さえつけていない瀧柴の手が斉藤の頬に添えられる。

思ったよりも優しい手付きに斉藤は困惑した。

指はそのまま斉藤の輪郭をなぞり、唇を掠めた。瞬間、ぴくっと斉藤の体が跳ねるが瀧柴はなんの反応も返さない。

瀧柴の冷たい指は、片方を固定し斉藤の動きを止める。



「んっ……」



無表情のままゆっくりと近づいてくる瀧柴の顔を馬鹿みたいに眺めて、見惚れて、唇を瀧柴のそれに塞がれる。

柔らかい感触に驚く暇もなく、ぱかりと開いている斉藤の口に瀧柴の舌が侵入する。



「ふ、ぅ……!ん、ぁ…っ」



くちゅ、と響いた水音にびくりっと漸く斉藤の体が反応する。

何とか瀧柴の舌から逃れようとするが、顔を固定され逃げることは出来ない。そのまま好き勝手に瀧柴の舌は斉藤の中で暴れ回り、最後に斉藤の舌を吸って瀧柴は出て行った。



「…ふは…、はぁ……ッな、なに、なに……!?」



荒れた息のまま斉藤が馬鹿みたいに同じ言葉で問う。

やっぱり瀧柴は無表情のまま、斉藤を翻弄した舌で自身の唇を舐める。その態度にかっ!と斉藤の頬が赤く染まった。

斉藤の目が滲む、けれどしっかりと視線は瀧柴に向けられている。ぱくぱくと口を開閉する斉藤に瀧柴は欲に濡れた笑顔を見せた。




「あぁ。こうすれば斉藤は、俺を見るのか」



え…? 斉藤が言葉の意味を理解する暇もなく瀧柴が動く。しゅる…と瀧柴の手が斉藤のネクタイを解いた。

驚きにただ瀧柴の動向を斉藤が眺めている間に、瀧柴の手で拘束されていた斉藤の手は今度はネクタイで固定される。



「……なにすんの…?」



ネクタイで固定されこれが一体どういう状況であるかも考えず、斉藤は瀧柴に問うた。

ぽけっと間抜け面で、平坦な少し子供のような声音で言う斉藤は、今の状況を理解していないばかりか、これから自分がどうなるかまったく予想できないらしい。

瀧柴は妖艶に微笑んで力任せに斉藤の制服のボタンを飛ばす。

肌が空気に触れその寒さに斉藤の体が震えた。



「気持ちいいこと」




瀧柴の手が斉藤の肌に触れる。さわり心地のいい肌に気を良くした瀧柴は笑みを深め、ゆっくりと手を下腹部に伸ばした。

蒼褪め始めた斉藤の瞼に軽くキスを落として瀧柴は満面の笑みを浮かべる。




「や、やだ……やめろ、やめろよ…、瀧柴…!」



全身が震えてか細い声しか出てこない。瀧柴が斉藤の声に堪えることはなく、誰も瀧柴の行為を止めてくれる者はいなかった。

斉藤が覚えているのは味わったこともない痛みと、それを凌駕する想像もしていなかった快楽。



今日この日、不気味なほど毒々しい夕焼けと共に斉藤と瀧柴の一方的な関係は始まった。






その後紆余曲折を経て斉藤と瀧柴は結ばれます。斉藤が瀧柴を心から好きだと思い、それを言葉にした瞬間、瀧柴はぼろぼろと泣くことでしょう。

でもそれも大分先でしばらくは体だけの関係が続き、瀧柴の執着も酷くなる感じです。


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