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1話 初彼・ジョージの巻
 私はベッドに仰向けになり、うつろな目で天井を見つめている。
 外は霧状の雨。こんな日は外出する気もうせる。
 今の私がハッピーなら、こんな雨に打たれたって構わない。むしろ打たれたい。
 映画のワンシーンのように傘を放り投げ、空を見上げながら満面の笑みで両手を広げる。
 こんなこと、一度はやってみたいけれど、人に見られたら単なるおバカ。
 化粧は流れ落ち、酸性雨に髪は痛み、5回払いで買ったコートは濡れ、道行く人に奇異の目で見られ、冷え性が再発する。

 そう考える前に、まずそんな気分になれる状況ではなかった。
 ここ数年、出会いと別れの繰り返し。人生、山あり谷ありの今は谷。

「(;-_-) =3 フゥ…」
 仕事は休みだけれど、リラックスしてるとは到底言い難い。
 私が後悔して来た過去。今もずっと継続して頭から離れない。
 今日もまた、私は今まで辿って来た道のりを回想シーンのように蘇えらせていた。

 初恋は幼稚園の年長組のときだけど、両思いじゃなかった。
 小4のときに、リレーでいつも1番の男子を好きになったけど、それも密かに自分で思うだけ。

 初めて男子と付き合ったのが中2のときのクラスメイト。
 彼はバスケ部で、球を自由自在に操るドリブル姿がまぶしかった。
 私はバドミントン部だったから、同じ体育館でよく練習していた。
 偶然にも家がワリと近くて、部活の帰りに一緒になることが多くなり、自然と付き合うように。
 だから特別これと言った告白なんてなかった。

 今考えれば、当時はまだ幼い中2の男子。
 面と向かって言葉を交わすなんてできないのも当然。
 ただ、体に関する性の知識はまともにあったようで、これが私の最初の失恋に拍車をかけた。

 熱射病になるくらい暑い真夏の帰り道、ジョージは自分の家に私を誘った。
「ウチの冷蔵庫にハーゲンダッツあるから食べようや」
 アイス大好きな私が即答するのは言うまでもない。
 それに当時中2の私に警戒心など全くなかった。
 まさかジョージが、あんな強引にキスを迫ってくるなんて…

 それはアイスも食べ終わった彼の部屋でのこと。
 私たちはベッドの下に置かれたテーブルに座っていた。
 ものすごく整理整頓がされている完璧な部屋。
 並べられている置き物や道具が全てタテかヨコ。
 ベッドやテーブルの位置はもちろん、机に置かれたエアコンやテレビのリモコン、筆記用具なども、ななめに置かれているものなどひとつもない。
「きれいな部屋だね。お母さんが掃除してくれるの?」
「いや、俺がするんだ。お母さんにやらせると、大事なものまで捨てられるんだ」
「あーわかる。アタシんちもそうだもん」
 お互い目と目が合って、二人で笑ったそのとき、今だと言わんばかりにジョージが私のそばに急接近。
「なぁ、キスしていい?」
 そう言って、ジョージは私の両肩をつかんで目を瞑った。

 ───え?

 迫りくるジョージのくちびる。その先は徐々に尖らせてきている。
 ギャグ漫画のように、タコのくちびるまではなってないけど、ほぼそれに近い。
 私は彼が迫ってくるのと同じスピードで、顔を後ろに引いてゆく。
 目を瞑ったままのジョージは、気にもとめずに追っかけて来る。
 クリームがくちびるの端っこに付着しているのに気付いた私。

 キャー(ノ≧◇≦ヽ)ノ

と心で叫びながら、更に私は態勢を引いて、徐々にエビぞり状態に…(^□^;
 よっぽど鈍感なのか、それでも彼は尖らせたくちびるで迫って来るものだから、ついに二人は床に倒れた。

「ヤダっ!もう帰るっ!」
 私は怒り心頭して立ち上がる。
「何でだよ?いいじゃんか。俺のこと好きなんだろ?」
 私はきっぱり言った。
「もうキライ!アタシ、いいよって言ってないじゃない!」
「ダメだとは思わなかったから…」
「だったら最初から聞く意味ないじゃない!」
「・・・・・」
「それに鏡で自分のくちびる見なさいよ。そんなアイスで汚れたくちびるで何考えてんのっ!」
 ジョージが指で自分のくちびるをなぞった。
「あ…」
「今度やったら先生に言うからねっ!」
 私が部屋を出て行くまでに、彼は乱れたテーブルや置物の位置を、元のように1ミリもずらさず正しく直していた。

 こんな度が過ぎる程の几帳面な男でも、性欲の前には心を乱されるもんなんだと、大人になってから気づいた私。
 でも彼ばかりが悪いんじゃない。
 私がキスに対して異常な嫌悪感を持っていなかったら問題なかったかもしれない。
 
 こうして私の初めての彼とはあっけなく終わった。
                  (続く)
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