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【一】 始まり -アレサンドロの過去編-
お前は……
 空が白み始めている。
 ふたりの服はもう乾いていたが、このまま裸ついでにN・Sの様子を見にいこう、ということになった。

「聞いてもいいか」
 几帳面なユウが、いつもの、売りもののような丁寧さで服をたたみながら、言った。
「どうして俺と行動してたんだ?」
 一ヶ月前、盗掘中に出会ったふたり。
 共に行こうと誘いをかけたのは、他ならぬアレサンドロの方だった。
 パーティを組んでの盗掘は、単純な労働力の増加以上に、役割を分担することで、とにかく様々な利点がある。
 だからこそ、ユウも乗った。
 だが、生活をかけてやっている以上、分け前で血生臭い話になることも往々にしてあるのだ。
 特に今回の場合、大物中の大物でありながら、アレサンドロに売る気どころか譲る気もなかった。
 これは当然、もめる。
 でもよ、とアレサンドロは、自分の服をユウに投げてよこした。万事、こうしたことはユウ任せである。
「十五年だ。俺たちだけじゃねえ、鉄機兵団だって動いてる。大体の場所は掘り尽くされて、これ以上、大したものは見つからねえ。普通はそう思うさ」
 言われてみれば確かにそうだ。
「今まで、お前以外にも何人かと組んできたしな。商売っ気を出したわけじゃねえが……なにかと便利だろ?だからだな」
「そうか」
「それがまさか」
 アレサンドロは声を上げて笑った。
「今になってあのN・Sが出てくるとはよ。ツイてると言うか、ツイてねえと言うか……。お前も、よく見つけたもんだな」
「いや、運がよかったんだ。月が……」
 待てよ。
 ユウは言葉を呑んだ。
 天使と遠吠え……。
 カラスと、オオカミ……。
「ん?」
「いや、なんでもない」
 さすがにそれは考えすぎだろう。
「ただの、偶然だ」
 ふうん、と、アレサンドロはあごをかいた。

「俺もひとつ。……お前、金をなにに使ってる?」 
「金?」
「とぼけるなよ。お前は稼ぎがまとまった額になると、決まってどこかに持っていく。知ってるぜ」
 それは事実だった。
「単純に考えりゃあ、コレだが……」
 と、小指を立てたが、
「違うな。博打もねえ。仕送りって線も薄い。だとすると、なんだ?」
 腕を組み、完全に探偵気分である。
 ユウは、とりあえず見守ることにした。
「捨て犬にコソコソ餌をやってる……お前なら、あり得るな」
「それぐらいのことに、まとまった金はいらないだろ」
「そりゃそうだ。だったら……分割でなにか買った……おい、笑うな」
「ああ、すまない」
「で、なんだ?なにに使った?いさぎよく吐け」
 尋問みたいだな。ユウは思った。
 だが正直、秘密にしていたわけでも、面白い話でもない。
「神殿に、寄進してる」
「は?」
「寄進だ」
「……」
 滑稽な顔だった。
「マジかよ……、本物だな、お前」
「どういう意味だ」
「いや、ある意味お前らしいというかな……。しかし、なんでまた」
「ん……昔、ちょっと。それに、父が神官だったんだ」

 ユウの父が仕えた地母神メイサは、慈悲にあつい神である。
 父は下位神官で、裕福ではなかったが、自分たちが生きていける最低限の食料、衣料以外は、すべて困窮にあえぐ人々に分け与えていた。
「父のおこないは正しかったと思うし、尊敬もしてる。でも正直に言えば、俺はとても、そこまでにはなれない。わかってても、明日の自分にいくら金がかかるかなんてわからないし……全部なくすのは無理だ」
「それが普通だぜ」
「だから、必要な分を差し引いた残りで、その真似事をしてる。それに……」
「それに?」
「いや……たぶん、純粋な善意とは違うんだ」
 ユウは、最後の上着をたたみ終えた。
「純粋、ねえ」
 アレサンドロは肩をすくめ、
「お前の言う通りかもしれねえが、俺からすりゃ十分いい子ちゃんだぜ」
 大げさにため息をついた。


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