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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

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作戦会議(1)

「ユーウ。ねぇ、ユーウー」
「ん……」
「こんなとこで寝てたら、風邪引いちゃうよぉ」
「……ああ」

 ユウは、薄く目を開けた。
 母の胎内とは、こういうものをいうのだろうか。
 柔らかい光。身体を包む程よい圧力。ため息が出るほどの暖かさ。身体に受けるすべての刺激が、どれひとつ取っても心地よい。

 ……もう少し寝かせてくれ。

 ユウは、丸めた手足に顔を埋めるようにして、再び眠りへと誘いこまれていった。

 ……が。
「ユーウー!」
「う……」
 ララの声は激しさを増し、どこからか、ドンドンゴンゴン、耳障りな打撃音まで聞こえてくる。
「ね、起きて!……起きて!」
「……」
「ユウ!」
 ユウの幸せな時間は、無理やり破られてしまった。

「おっはよ!」
「……ああ」
 どうやら昨夜は、あのまま格納庫で寝てしまったらしい。
 不思議なことに、ユウはN・Sカラスの握られた手の中におり、ララの顔は、覆いかぶさる巨大な指の間からのぞいている。
「器用だね。どうやって入ったの?」
「……覚えてない」
「ホント?アハハッ、バッカぁ!」
「どいてくれ」
 ユウは、カラスの指を押し上げ、外へ這い出した。
「……寒い」
「だから言ったじゃない。風邪引いちゃうよって」
 あのぬくもりを返してくれと言いたい。
 ため息混じりに頭をかいたユウの視界に、真紅の髪が、ちらりとかすめ、
「あ……」
 ここでようやく、ララの変化に気がついた。

「えへへ、どう?」
 以前は下ろされていた髪が、ひとつに結い上げられている。
 結び目は頭の左横。ユウの左腕にくっつきたがるララが首を見せるには、これ以上ない位置だ。
 ませた素振りで指に髪を巻きつけながら、
「ほら、うなじぃ」
 と、身を寄せてくるララのそこは、驚くほど白い。
 首筋の辺りに、今まで見えなかった小さなホクロを発見して、ユウは正直、どきりとした。
「ね?」
「……ああ」
「それだけ?」
「他に、なにを言うんだ」
「もぉ、ユウのためにしたのに!感想ぉ!」
 ララは足を踏み鳴らした。
「ああ」
「ああ、じゃなくて、ほら!ちゃんとこっち見て!」
「……」
「ね?」
「……いいんじゃないか」
「ホント?」
「ん……」
「やったぁ!」
 意外にあっさりと満足してくれたようで、ユウの口から、長い安堵のため息がもれた。
 これ以上の感想を求められたらどうしようかと思っていたのだ。
「じゃ、行こ!みんな探してるよ?」
「え……?」
「ユウはどこ行った!って、アレサンドロ真っ青」
「馬鹿!そういうことは早く言え!」
「あ、ちょっと待ってよぉ!」

 急ぎブリーフィングルームへ駆けつけると、筒に丸めた地図の束を手に、部屋をせわしなく歩き回っていたアレサンドロが、飛び立つようにユウの肩をつかんだ。
 あまりに危険な今回の作戦に、皆を巻きこむ。それを申し訳なく思うあまり、カラスさえ残して独断先行したのではないか、そう思っていたというのだ。
 それが、
「すまない、寝てた」
 と、聞き、
「ッ……自分の部屋で寝ろ!」
 ユウは、げんこつを食らってしまった。


「……さて」
 全員が集まった、暗いブリーフィングルームのモニターに、トラマルからドーザ一帯の映像が映し出された。
 これは、各種平面・地形図を元に描き起こされたもので、三百六十度、どの方向へも視点を変えることができるようになっている。
 メイの操作により貼りつけられていたテクスチャが消え、アウトラインのみとなった立体図の内部に、一本の、細いラインが表示された。
「これが、俺たちが通ることになる、道だ」
 アレサンドロが立ち上がった。
「まぁ、言ってみりゃあ下水だな。トラマルを出て……」
 と、蛍光色の線を指示棒で追いながら、
「山の中を一周。地面の下から……ここだ。ドーザ近くの、この川に合流してる」
「そんな穴じゃあ、L・Jは無理だ。俺たちはお留守番ってことで、ねー、ララちゃん」
「好きにすれば」
「ありゃ」
 冷たくあしらわれたテリーだが、さして傷ついた様子もなく、カラカラと笑った。
「でも、L・Jが通れないってのは事実でしょ?どうするの、旦那」
「まあ待てよ。確かにこいつには、それほどの幅も高さもねえ。そこでだ」
 アレサンドロは再び、モニターへ向かい合った。
「俺たちは徒歩で、水道をさかのぼる。途中いくつかトラップがあるが、ジョーの話じゃあ、ここ十五年、改修された記録はねえそうだ。クジャクに案内を頼む」
 紹介を受けたクジャクは、軽い会釈をした。
 次に、とアレサンドロが目配せすると、カメラは視点を変え、城塞部外観を拡大表示する。
 ひらけた山の頂に建つ、巨大ドーム。
 敷地内にはそれ以外に、数本のパラボラアンテナ、燃料タンク群が見える。
 舗装された滑走路は絶壁へと続き、空戦用L・Jの存在を否応なしに植えつけた。
「予定じゃあ、戦艦が停泊するのも、この絶壁だ」
「ずっと浮いてんの?」
 とは、ララ。
「ああ。橋を渡して給油。そうだな?」
 ジョーブレイカーがうなずいた。
「待ってください。今、イメージ出します」
 メイの言葉と同時に、画面には飛行戦艦オルカーンの映像も追加表示された。

 全長四百メートル超の圧倒的な存在感。言ってみれば、海に浮かぶ艦船に翼をつけたような格好だが、いかにもスピードの出そうな、へさきの尖った鋭角的フォルムといい、今このときでなければ、ユウはこう言っていたに違いない。
 格好いいな、と。
 そうした男心をくすぐるものが、オルカーンにはあった。
 映像のオルカーンは主翼を収納し、絶壁に左舷を寄せ、止まった。

「でだ、俺たちはまず、ドーム外の地下処理場から、はしごを使い、外へ出る」
 その場所に、赤い光がともった。
「ここからはジョーが先導だ。すぐにオルカーンへ侵入」
 光点から伸びる光が、停泊中のオルカーンへ進む。
「二手に別れ、聖石の確保と、カーゴの強奪。合流して……正面から逃げる」
「L・Jのふりして?」
「そうだ。メンバーは、ここにいる男、全員」
「どうもリスクが大きいなぁ」
 テリーは頭をかいた。
「見張り云々はいいけどさ、巡回は来るし、きっとセンサーだってついてる。気づかれずに山を降りるなんて、まず無理だ」
「それ以前に、カーゴ一台で単独行動なんてある?」
「あー、ないない」
 元鉄機兵団のテリーとララだけに、ユウやアレサンドロでは気づかない部分にも目が届く。その言葉には、十分な重みがあった。
「まぁ、L・Jに見せかけてってのは悪くないかな。その石のダミーと、L・Jのハリボテ、あと命令書をいじったのがあれば、多少運まかせでもいける、かもしれない」
「……なるほどな」
「でも……」
 と、口を挟んだのはメイである。
「それをどうやって、山頂まで運ぶんです?」
「おっと、そりゃそうだ。……ねえ、これはやっぱ、やめた方がいいよ。どうしてもって言うなら、ほら、まあ、なんとか考えてさ」
 テリーはまだ、オルカーンを襲うことに踏ん切りがつかないらしい。
 すると今度はララが、
「じゃあいっそ、全部ぶっ潰しちゃえばいいじゃない。みんなで行ってさ」
「オルカーンごとか?」
「そうそう。クジャクだって増えたんだし」
 などと物騒なことを言い、テリーを戦慄させた。
 だが、
「俺に期待するな。N・Sは捨てた。十五年前にな」
 当のクジャクが言う。
「うっそ!」
「それに、聖石を戦闘に巻きこみたくない」
 ユウも、そこだけは譲れなかった。


「……さて、どうしたもんかな」
 一旦中座したメイが、新しいコーヒーを運んできた。
 脚に車輪のついた、移動できる止まり木に座ったモチは、寝ながらあくびしている。
「……ハサン」
「私に頼るな。お前の盗みだろう」
「わかってる。それでも……知恵を貸して欲しい」
 そう深々と頭を下げるユウを横目でみやり、
「フン」
 ハサンは煙を吐き出した。
「断る」
「ハサン」
「……と、言いたいところだが」
「え?」
「うなじという名のロマンに免じ、ひとつ、レッスンと行こうか」
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