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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

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フェティシスト

 そこからマンムートに到着するまでは、何事もなく過ぎた。
 外門の外でジョーブレイカーと合流し、ホバーバイクには、ユウ、テリー、クジャク。忍者ジョーブレイカーは、なんと、それと並走して山を登る。
 猛烈な夜の吹雪の中、マンムートの開けた穴は巨大なバルーンでふさがれ見えなくなっていたが、レーダーで帰還を知ったN・Sオオカミが大手を振って迎えてくれたため、迷うこともなかった。
 オオカミの押し上げたバルーンの隙間をくぐると、密閉された洞内は、驚くほど温かく感じた。
「あああ、寒かったぁ」
 と、ホバーバイクを降りたテリーが、グシグシと鼻をすすると、
「お疲れ様です」
 すかさず差し出されたのは、鼻紙と、メイお手製の熱々のココア。
「うわ、気が利くぅ。……ああ、生き返るなぁ」
「あの、鼻、かんだ方が……」
「メイちゃんが取ってぇ」
「す、すみません。自分でお願いします!」
 メイは鼻紙を押しつけ、マンムートへ逃げ去ってしまった。
「可ぁ愛いィ」
 と、テリーは目尻を下げた。

 その、同じココアを盆へ乗せ、ユウへ差し出したのは、もちろんララだ。
「はい、ユウ」
「ああ、すまない」
「ジョーも飲んで。……って、え、え?」
 ララは、ユウをもぎょっとさせる勢いで後ずさった。
 そこには、あの黒覆面がいると思ったのだろう。
 だが、のぞきこんだ最後尾の座席から降り立ったのが現実離れした美男だったのだから、驚くのも無理はない。
 フードつきのマントを羽織り、身の丈を越える六角の鉄棍を手にしたクジャクは、呆気に取られ、ぽかんと大口を開けるララの手からマグカップを取ると、
「もらおう」
 まるで冷水でも飲むように、湯気の立つそれを、なまめかしく喉へ通した。
「ジョーって、こんな格好よかったっけ……」
「なに言ってる。ジョーはあそこにいるだろ」
「あ、あれ、ホントだ」
 ユウがあごで示した先で、白装束の忍者は、ホバーバイクの雪を払っている。
「じゃあ……」
「彼はクジャクだ」
「ク、ジャク……?」
 ララは首をかしげた。
 南国シュワブに生息するその鳥を、帝国で見る機会はほとんどない。図鑑でならばユウも見たことはあるが、ララはそれさえもなかったらしい。
 ララはクジャクをまじまじと見やると、
「鳥?へぇぇ……」
 物珍しげな、ため息をもらした。
「食べられる鳥?」
「そういうことを言うな」
 外で尾行者の有無を確かめていたアレサンドロが、バルーンの下をもぐるようにして戻ってきたのは、そのときだった。

「よう、お疲れ。ひでえ吹雪だな」
「ああ」
「……こいつは?」
「クジャクだって」
「ク……!マ、マジかよ!」
 飛び上がったアレサンドロは、ララを弾き飛ばし、クジャクの手を取った。
「あ、あんたが、トラマルの砦長か!」
「ほぅ……?」
「俺はアレサンドロ。あの、あれだ、オオカミのところにいた、アレサンドロ・バッジョだ。あんたの噂は、いつも聞いてた!」
「どうせ、ろくな噂ではあるまい。あの男は俺を笑ったはずだ」
「まさか、なにを笑うってんだ」
 あのアレサンドロが、顔を真っ赤にして興奮している。
「そうか、生きてたのか……生きてたんだな……!でかしたぜ、ユウ!」
 と、ユウを抱きしめ、その頬へキスするのも、かつてなかったことだ。
「あんたが協力してくれるなら、これ以上はねえ。さあ入ってくれ。すぐ部屋も用意する。ああ、ジョー!後で報告聞かせてくれ!後でな!」
 クジャクの背を押すようにして、さっさとマンムートへ戻っていってしまったその後は、まさしく台風一過という奴だった。
「……魔人好きすぎだね、アレサンドロ」
「……そうだな」
 その勢いに圧倒されたユウとララは、しばらくものも言えなかったが、顔を見合わせるとなにやらおかしくなり、ぷっと吹き出し、笑った。

 と、さらにそこへ。
「ほぅ、誰だ。あの美形は」
 入れ違いに現れたのはハサンである。
 ハサンは、暑かろうと寒かろうとスタイルを変えることがない。すなわち、襟付きの夜会風マントに、例の刃を仕込んだステッキだ。
「クジャクだって」
 ララが言うと、
「クジャク!なるほど美しい鳥だ。あれなら億でも買い手がつく」
 ハサンは目を細め、舐めた指で口髭をなでつけた。
「上等な鳥カゴに押しこめて、力尽きるまで眺めていたい。ンッフフフ、そそられるな」
「あ、変態発言!」
 と、ララの手がハサンの胸を小突いたが、
「おお、ラーラー、なにを言っている」
 するりとかわしたハサンは、その腰を素早く抱き寄せ、背へ密着する。
「男は、すべからく変態だ。真性のマゾヒストで、サディスト。フェティシズムの塊。そうだろう、ユウ?」
「知るか」
「ンンン、知っているぞ。お前は、女のうなじが大好きだ」
「!」
「そ、そうなの?」
「ああ、そうだとも。今度、髪を結い上げてみるといい。こいつは一発で落ちる」
「う、うっそ!だ、誰か!ゴム紐持ってない?ゴムぅ!」
「ハサン!妙な知恵をつけるな!」
「ンッフフフ、嘘は言っていない。礼はいらんぞ?」
「誰が!」
 ユウの振り上げた拳はやはり空を切り、ララは誰かぁ、と叫びつつ、マンムートのハッチへ消えた。
「平和だねぇ」
 まだココアをすすっていた猫舌のテリーが、小さくつぶやいた。


 さて……。
 夜も更け、灯の消えた格納庫。
 そこには再び、ユウの姿があった。
 中指の指輪を見つめ、横たわるカラスを見上げ。
 そっと腕を伸ばし、カラスの手にふれる。
 無機質なようでいて、確かに感じる有機的な体液の流れに意識を乗せ、
「……カラス……」
 ユウは目を閉じた。
「カラス……」
 答えは、なかった。
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