ブックリスト登録機能を使うには ログインユーザー登録が必要です。
【一】 始まり -アレサンドロの過去編-
俺は……
「翌朝だ。格納庫に行ってみると、やけに騒がしかった」
 それまで淡々としていたアレサンドロの声が、感情的に震えた。
「カラスが。オオカミが。みんな口々にそう言ってるんだ。俺は野次馬をかき分けて、なにが起こったのか、見にいった。見にいって……」
 アレサンドロは声を詰まらせ、顔を覆った。
「見にいって……」
「なにを、見たんだ……?」
 答えがない。
「アレサンドロ……?」
「……あれだ」
「え……?」
 アレサンドロが指差したのは、あの、二体のN・Sである。
「じゃあ、あれが……」
「……カラスと、オオカミだ。ふたりは、殺し合って……」
「どうして……」
「知るかよ!俺に、わかるかよ……」
 そこから先は、嗚咽に消えた。

「……俺は、月影だ」
「?」
「言わなきゃよかった……オオカミに会えなんてよ……そうすりゃ、カラスは死なずにすんだ……この砦だって……」
 ユウはハッと息を呑んだ。
 アレサンドロが語った、『水底の乙女』の原典。
 カラスは水底の乙女。暁はオオカミ。
 月影の一言で、消えてしまった幸せ。
 アレサンドロはずっと、重ね合わせていたのだろうか。
「違う」
 ユウは強く、かぶりを振った。
「月影はどうか知らない。でもあんたのは、カラスの幸せを考えてしたことだ。自分でそう言ったじゃないか」
「ユウ……」
「黙って笑ってたわけでもない。誰もあんたを責めたりしない。カラスだって……!」
 しかしアレサンドロは、
「ハ……お前は本当に、素直だよな」
 呆れ顔に、笑った。
「なあ、ユウ。お前、女に惚れたことあるか?」
「え……」
 胸に、手を当てる。
「……わからない」
「だろうな。そんな感じだぜ」 
 思わず吹き出したアレサンドロは、のっそりと立ち上がり伸びをした。
 その顔からは、もう悲壮感は消えていた。

「さて、と。なんだか、サッパリしたな」
「ん……俺もだ」
「お前には、悪ぃことしたな」
「いや、いいんだ。それより……これから、どうする?」
「そうだな……」
 N・Sのことがある。
「俺が、ここで盗掘なんざやってたのは、あいつらの供養のためだった」
 アレサンドロと同じ、入れ墨の仲間。そして魔人たち。
「鉄機兵団より、他の連中より先に、あいつらの形見を見つけて……土に帰してやるために」
 その気持ちは、ユウにもよくわかる。
「あれも、そうしてやりてえな」
「……そうか」
 ユウはうなずいた。
「もちろん、つき合ってくれるんだろ?」
「え……?」
「なんだお前。ホントに、話聞いただけで満足してんのか?」
「いや……、でも、いいのか?」
「いいもなにも……」
 にやり、笑う。
「相棒なんだろ?こうなりゃ、とことんつき合ってもらうさ」


+注意+
・特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
・特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)
・作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。