挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

76/236

混戦

 こうした、L・Jにおける一対一の戦いの場合。ものを知っている者ならば、まず常識として頭部を狙う。
 コクピットや光炉と違い、失ったところで戦闘不能とはならないが、それでも、性能は格段に低下する。意欲も失する。
 そうなると、大部分の兵は投降するか、しなくとも、ほぼ百パーセント、捕らえられるのが常だからである。
 マリア・レオーネは当初から、ララを捕縛するつもりであった。
 では、それが友誼心や、仏心から出た行動か、と言われれば、少し違う。
 コクピットを狙うことは騎士道精神に反し、光炉を狙うことは、押収機流用の観点から国益に反する、と、上等学校や新兵教習などでは指導されてもいるが、今回の場合、マリア・レオーネは情けをかける余裕を持って勝利することで、おのれの才能を誇示し、生意気なギュンターを黙らせようと、もくろんでいるのである。
『どうだ!』
 と、サンセットの眉間目がけ、剣を突き入れたマリア・レオーネの顔は、まさに勝者のそれであった。

 しかし。

 その剣先が、ふれるかふれないかの、瞬間。
 まるで突風のように。いや、トビが、人の手から食物を奪い去っていくように。
 不思議な力によって羽交い絞めにされたアリオトは、再び空中へと引き戻されていた。
 N・Sカラスが、間に合ったのだ。

『き、貴様!』
 ユウの腕の中、アリオトはもがいた。
『おのれ、今ひと息のところで……!N・Sめ!』
『ユウ、そのまま手を放さないように』
『わかった』
『ふたり?ふたり乗っているのか!……うっ!』
 天高く舞い上がったカラスとアリオトは、勢いつけて落下する。
 地上寸前、ユウはアリオトを突き放し、
『あぁぁぁッ!』
 アリオトは防御姿勢を取ることもかなわぬまま、地表に激突した。


『ユーウー!』
『うっ!』
 翼をたたんだカラスを待っていたのは、サンセットの抱擁だった。
『苦しい、放せ……!』
『いーやー』
 ひと回りも、ふた回りも体格の違うサンセットに押し潰され、カラスの背骨がメシメシと鳴る。
『殺す気か!』
『ユウとなら死んでもいい!』
『巻き添えはごめんです……』
 モチの断末魔か。カラスの翼が、力なく、はためいた。
 だが、ユウとしては、どうしてもサンセットを押しのけなければならない。
 何故ならば、
『ララ、放せ……!まだ終わってない!』
『え?』
『後ろを見ろ!』
『……あ』
 カラスを抱いたまま、方向を変えたサンセットのメインモニターに映し出されたのは、今しも立ち上がろうとしているアリオトだった。
 その機体表面には、右のショルダーアーマーがひしゃげている以外、大きな損傷はない。
 コクピットのマリア・レオーネもまた、無傷であった。
『しつこぉい』
 ララはカラスを解放し、スピナーを、地面から引き抜いた。

『……なるほど、その男が、貴公出奔の原因か』
 歯噛みするマリア・レオーネのこめかみには、いつもの青筋が立っている。
『男にたぶらかされるとは、貴公には失望した』
『なに?ひがみ?』
『ひが……ッ!違う!貴公には、騎士としての誇りはないのかということだ!そのような、どこの馬の骨とも知れん男に……!』
『そんなこと言ってるから、行き遅れるんですぅ』
『だ、黙れ!』

 ……なにやら、話が妙な方向へそれてきた。

 遠巻きに取り囲む、リドラー軍のL・J部隊も、どうしていいやら戸惑っているようだ。
 ユウは、この機に乗じて、どうにか逃げられないものかと思ったが、それより早く、
『やはり貴様はここで斬る!構えろ!』
『フン!上ッ等!』
 アリオトとサンセット。二戦目の火蓋が、切って落とされてしまった。
『ララ!』
 と、叫びはしたが、またしても聞く耳持たず、ふたりは距離を詰める。
 サーベルとスピナーを振りかぶり、
『覚悟しろ!……む!』
『あ!』
 同時に飛びしさった。

 二機の中央を通過したのは、リドラー軍もろとも呑みこんだ、炎の奔流。
 覚えがある。
 これは……。

『ミザール!』
『ギュンターか!』

 全員が、視線を転じた。

 青の軍旗の向こう、黄の軍旗が迫っている。
 その先頭で、いかにも将軍然と軍を率いているのは、金のオリジナルL・J、『火炎のミザール』。
 脇には、紋章官サリエリの駆る一〇〇二式改『アルコル』。さらには、マリア・レオーネの紋章官、ササ・メスの六〇五式改『ムソー』も付き従っている。
『ササ・メス……あの役立たずめ……!』
 と、眉間にしわを寄せながらも、何故と問わないところを見ると、ササ・メスは、マリア・レオーネ自身の命令によって、ギュンターのそばにいたものらしい。
 マリア・レオーネは無線のコールを受け、回線を開いた。
 相手は、サリエリであった。

『作戦をお忘れですか、リドラー将軍』
『……いいや』
『でしたら、おわかりでしょう。どうぞ、ご進軍を』
 非はこちらにあるとはいえ、マリア・レオーネはさすがにムッとした。
『フン。シュトラウス機兵長と黒いN・Sは、貴公らが敗れた相手。同じ軍団長のよしみで、私が、けりをつけてやるのもよかろうと思ってな』
『そのようなお気遣いは、無用に願います』
 マリア・レオーネは、今一度、フンと鼻を鳴らし、回線を閉じた。
『仕方ない。……全軍転進!陣形を維持しつつ、敵戦車へ!』
 統率の取れたリドラー軍は、津波のように、マンムートへ押し寄せていった。
『……シュトラウス機兵長』
『え?』
『勝負はお預けだ。その首、ギュンターなどにはくれてやるな』
『え!ちょ、ちょっと!』
『行くぞ、ササ・メス!後れを取るな!』
 ひそかに、ララへささやきかけたアリオトとムソーも、戦域を移動した。


『俺たちも戻るぞ』
『う、うん!』
 と、カラスとサンセットも動いたが、まさか、それが許されるはずもない。
 二機は、入れ替わりに陣を張りめぐらせたヴァイゲル軍に阻まれ、再び、陸の孤島へ取り残された格好となってしまった。
『くそっ……!』
『……くそはこっちだぜ』
 と、ギュンターの声。
 L・Jの海がふたつに割れ、ミザールとアルコルが姿を現した。
 こちらが逃げられないと見て、今は悠々としたものだ。
 ギュンターは、メインモニター越しに、カラスとサンセットを交互に眺め、
『だから言っただろうが!』
 アルコルのすねを蹴った。
『やられてんじゃねぇか!ええ?』
『は……』
『こんな野郎叩きのめしても、勝ったことにゃあなんねぇんだよ、ボケ!』
『申し訳ありません』

 このときサリエリは、あくまで神妙に答えたが、内心舌打ちのひとつもしたかったに違いない。
 実は、サリエリの計画では、もう少し早く、ヴァイゲル軍は到着する予定だったのだ。
 しかし、いざ出発、と勢いこんで出たギュンターの前に、単機立ちふさがった者がいる。
 ササ・メスだ。
『さすがに予想外でした』
 と、サリエリが言うように、結局、マリア・レオーネの危機を察知したササ・メスが動くまで、ヴァイゲル軍は足止めされてしまったわけである。

『だから、俺が燃してやるって言っただろうが』
『他軍の紋章官を手にかければ問題になる。私も申し上げました』
『先に手ェ出したのは……』
『申し上げました』
 ぐ、と言葉に詰まり、それ以上の文句が言えなくなったギュンターは、
『……チェッ!面倒臭ェ』
 頭をかきむしり、負けの見えた言い争いを打ち切った。

『おい、サリエリ』
『は』
『テメェはシュトラウス押さえてろ。俺は鳥野郎とやる』
『はぁ?』
 と、これには無論、ララが食いついた。
『冗ッ談。あんたなんか、このくらいのハンデで丁度いいっての』
『あぁ?』
『怖いんだったら、最初から出てこなきゃいいのに』
『ッなわけねぇだろうが!上等だ!かかってきやがれ!』
 ギュンターにすれば、サリエリへの鬱憤もあったのだろうが、それにしても、ここまで単純な喧嘩文句もないものだ。
『サリエリ!』
 声を投げかけられたサリエリは、鼻梁へ押しつけるように眼鏡を正し、
『承知しております』
 吊りあがったアルコルのデュアルアイで、カラスをにらみつけた。
『どうぞ、ご存分に。こちらはおまかせください』
 遠く向こうで、マンムートの機銃音が激しくなったようだ。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ