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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

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頭痛のたね

 明かりの消えた中央ホール。その観葉植物のかげで、なにかが動いている。
 急な出発にともない、狩りを中断させられたモチが、止まり木の上で、与えられた牛の生肉をつついているのだ。
 と……。
 一心不乱に肉をついばんでいたくちばしが、ぴたり、と止まり、モチが、野生の目つきで、通路のひとつをにらみつけた。
「……アレサンドロ」
「ハ、さすが大したもんだな。この状態で見えんのか」
 アレサンドロは、どこかおぼつかない足取りで、脇のベンチに腰を下ろした。
 その手には、どこからくすねてきたのか、ウイスキーの瓶が握られている。
「ああ、気にしねえで、食ってくれ」
「フム……では、そうさせてもらいます」
 モチは再び、肉との格闘を始めた。
 薄ぼんやりとした非常灯の下、それからしばらくは、肉を裂く音、酒を飲み下す音が、回転するキャタピラの轟音にまぎれ、聞こえるだけだった。

「いろいろと取りまぎれちまって、いままで考えもしなかったがよ」
「ホ?」
「考えてみりゃあ、あのときからおかしかったんだ」
「あのとき……?」
「アシビエム。なんでバイパーは、俺たちがアシビエムを通ることを知ってた?なんで、あの山奥にいることがわかった?」
「……ホウ」
 そういうことか、と、モチは、くちばしにこびりついた肉脂を、腹羽でぬぐう。
「偶然とは、言えねえだろ。つけてやがるのか……、それとも……」
「内通者、ですか」
 アレサンドロは激しく舌打ちし、酒をあおった。
「疑いたくはねえが、あいつは……なにか知ってやがるふうだった。バイパーのことも、さっきの女のことも」
「ですが、狡猾なあの男としては、少々、手口がお粗末では?」
「……」
「もし仮に、あの男がそうならば、おそらく我々の誰からも、毛筋ほどの疑いも持たれないよう、してのけるでしょう」
「だから、その裏をかいてるのかもしれねえ」
「フム、あえてそう思わせることで、追及を逃れようと考えている。確かに否定はできませんが……」
「が……なんだ?」
「あれは、目的のない行動はとらない男です。そして、その達成のために、人の手を借りる男ではない」
「俺たちを殺すつもりなら、自分の手を汚す……」
「私は、そう見ました」
 アレサンドロの口から、太い、ため息がもれた。
「だったら……どうしてこう、タイミングよく俺たちを襲える?」
「さ、憶測の域を出ませんが……監視されていることは確かでしょう。なんにせよ、これより先は、監視も内通者も無意味です。この乱暴な乗り物は、嫌でも目立ちます」
「考えるだけ無駄、ってか」
「そうは言いません。ただ、結論を急ぐことはないのです。真実はいずれ明らかになる。今は内ではなく、外を見ましょう」 
「……ハ」
 行くべき方向が見つからない。ユウにそう打ち明けたのは、つい数時間前のことである。
「耳が痛えな……」
 アレサンドロは、味気ない金属の白天井へ、つぶやいた。
「頭も……痛え」
「ですから、アレサンドロ」
「ああ……?」
「仲間内の監視は、私が引き受けました」
「モチ……!そいつは……」
 驚いた目の先で、ベンチの背もたれへと飛び移ったモチが、かぶりを振る。
「あなたの背中はふたりで守ろうと、ユウと誓い合いました。これも仕事の内です」
「汚れ役だぜ……?」
「なに、トイレ掃除のようなものでしょう」
「……ハ」
 アレサンドロは笑った。
「便所掃除か……」
 伸ばした指先で喉をくすぐると、モチは、うっとり目を閉じた。
「……その気持ちだけ、もらっとくぜ」
「ホウ」
「そんなことは、させられねえ」
「……なるほど」
「うん?」
「あなたは、ハサンをも信じたいわけですか」
 アレサンドロは、酒瓶を持ち上げかけた手を止め、
「……そりゃあ、な」
 苦笑をにじませた。
 本当に、疑いはじめたらきりがないのだ。
 それを言えば、この戦車も、セレンたちも、ジョーブレイカーもあやしい。なにもかもが信用ならない。
 信用ならないが、やはり、信じてやりたい。


 それから、二日後。
 とにかくも北へ向かうユウたちの元へ、予定通り、先発のジョーブレイカーから無線連絡が入った。

『輸送は、ホーキンス軍が担当する』

 その報告に、ララとメイは顔を見合わせ、
「うわぁ……いきなり面倒臭さ、上がったかも」
「このマンムートじゃ、正直……大変そうですね」
 がっくり、肩を落とす。
「ホーキンス軍てのは、そんなにヤバイのか」
 アレサンドロが身を乗り出すと、無線の向こう、ジョーブレイカーが、
『問題は、移送手段だ』
 と、答えた。
「回りくどい言い方はなしだぜ」
「戦艦だよ」
「戦、艦……!」
 そう、と、ブリーフィングルームの長机に、指で拍子を打っていたセレンが、話を継いだ。
「高機動飛行戦艦『オルカーン』。ホーキンス軍にはそれがある」

 帝国所有の飛行戦艦は三隻。使用される頻度も少なく、離着陸にはそれなりの施設を必要とするため、帝都民はともかくとしても、他の領民がお目にかかることは滅多にない。
 だが、それが鉄機兵団と並び、帝国軍の象徴的存在であることは、もちろん、ユウも知っていた。
 確かに、安全かつ迅速な空輸は、聖石の輸送手段として最適。ユウたちにとっては最悪と言わざるを得ない。
「バイパー、美しい暗殺者ときて、お次は戦艦か。ンンン、面白くなってきた」
「おい、笑いごとじゃねえぜ。飛んでるもんをどうやって襲う?ユウとモチにまかせんのか?」
 すると、
「あ!ほ、補給です!補給ですよ!」
 メイが、突然立ち上がった。
「……あ、す、すみません、でしゃばりました……」
「いいよ。説明して」
「は、はい!セレン様!」
 セレンを神と呼んで、はばからないメイは、鼻息を荒くした。
「ええと、空中戦艦の浮遊システムは、光炉で動いています。でも前進するためには、推進剤が必要なんです。移動速度にもよりますけど、トーエンから帝都までなら……」
 と、指を折り、
「最低でも一回は、補給が必要なはずです!」
「ジョー。その補給場所はつかめてるのか?」
 ユウが問うと、
『……トラマルだ』
 場に、ため息が広がった。

 今でこそ鉄機兵団の軍事基地だが、トラマル城塞は、かつての魔人砦だ。
 山岳地帯にあり、容易に近づけないところから、地元の人間は難攻不落を言い表す際に、トラマル、などと言ったりする。
「もうひたすら、お前らに楽させるかって感じ」
 ララが、ぶつくさと言った。
「だが、やるしかねえ。そこしか攻め手はねえんだ。……ジョー、戦艦のトラマル到着は?」
『一週間後。補給に二日だ』
「間に合うか?」
「問題なし」
 セレンが片眉を上げる。
「確か、トラマルの近くに、でかい町があったな。ジョー、そこで合流だ。砦の見取り図が手に入るようなら、それも頼む」
『承知した』
 通信は、そこで切れた。

「さ、て……」
 アレサンドロは向き直り、
「こんなもんでいいか?」
「ん、すまない。全部まかせて」
 ユウは頭をかいた。
 本来、指揮を取るべきは誰か。
 わかっているのだが、こうしたことは、どうも不慣れだ。
 情けなくも、アレサンドロがここまで段取りをつけてくれたのは、ありがたかった。
「後は、どうやって盗むか、どこに隠すか、だな」
「ああ」
 だが、それについてもまだ、これといった、いい手を思いついていない。
「盗む方法は、トラマルの下調べをしないと……なんとも言えない」
 まずは城塞へ忍びこめなければ、話にならないのだ。
 さらにその上、直径五メートルの巨石を運ぶ手段。逃げる段取り。アレサンドロの言う通り、盗んだ聖石の隠し場所。
 頭を悩ませるべきことは、山ほどある。
 大先輩ハサンへ目をやるも、
「フフン」
 小馬鹿にした笑みを返されるのみだ。
「まあ、これから、ひとつひとつ詰めていこうぜ。全員で考えりゃあ、なんとかなるさ」

 そのときだった。
 ピピピ、と、セレンの手元で、電子音が鳴ったのだ。
「セレン様……!」
「うん」
 顔色を変えたメイが、部屋を走り出ていく。
「なんだ?」
「鉄機兵団だよ」
「なに?」
 動揺したアレサンドロの指がかすり、コーヒーカップが倒れた。
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