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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

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告白

「好きに使ってください」
 マンムート最上層の居住区へユウたちを案内してきたメイが、誇らしげに言った。
 有事には兵士だけでなく、メカニックやクルー、総勢数十人規模で乗り組む戦車だ。それと同じだけの部屋が、ここには用意されている。
 ずらりと並んだ扉の中から、ユウたちは各々、好きな場所を選び、陣取った。
 そして……。
「アレサンドロ。俺だ」
 ユウがその部屋を訪れたのは、まだ、深夜までは間がある時間帯だった。
「おう」
 スライド式のドアを開けたアレサンドロは、コートもブーツも脱ぎ、くつろげた襟元から、褐色の胸板がのぞいている。
「なんだ?」
「ああ、さっきは……」
「わがまま言って、すまない……か?」
「ん……」
「ハ、まあ入れよ」
 ユウは従った。

 この居住区では、部屋の作りはどこも同じだ。
 奥行きのある長細い部屋の右側にベッド。左側に机と椅子。収納は壁の中で、奥に、はめ殺しの小さなペアガラス窓がひとつある。
 洗面、風呂、トイレは共用だ。
 そのどれもこれもが金属製で、正直、ユウには居心地がいいとは言えなかった。
 ハサンが、豪華な指揮官室を選んだ気持ちがよくわかる。
 ユウはベッドへ腰を下ろし、改めて、そう思った。

「そんなに、気ぃ使うなよ」
 椅子の背もたれを、抱くようにして座ったアレサンドロが、切り出した。
「他の連中はどうだか知らねえが、少なくとも俺は、嫌々付き合うわけじゃねえ。嬉しいぜ?相棒が、腹割って話してくれんのはよ」
「……プ、ハハ」
「ん?……ああ、そうか、俺が言えることじゃねえよな」
 気恥ずかしげに、アレサンドロも苦笑した。
「でもよ、俺はあのとき、お前に全部ぶちまけて、よかったと思ってる。でなきゃ今頃……俺はまだ酒場の片隅で、くだを巻いてた。こいつを肴にしてな」
 と、指輪を見つめる目は、やはり哀しい。
「なあ、ユウ……」
「ん……?」
「ロストンから、ずっと考えてる。俺は、N・Sでなにがしてえのか。なにをすりゃあ満足なのか」
「……ああ」
「まだ……わからねえ」
 アレサンドロは、腕に顔を埋めた。
 医者としての道に充実感を抱き始めている自分と、鉄機兵団への恨みを捨てきれない自分。
 さらに、自ら背負いこんでしまった、リーダーとしての自分。
 その葛藤は、むしろロストンでいだいていた以上に、大きく、深く、ふくらんでいるのかもしれない。
「ハ……、どいつもこいつも、勝手なもんだぜ」
「……」
「一緒に行きてえ、お前がリーダーだ、なんて、簡単に言ってくれるがよ、俺はまだ、なにも決められちゃいねえんだ。行き当たりばったりで……ただ、逃げてただけだ」
 それが帝国からなのか、結論からなのかは、ユウにはわからない。
 だが、アレサンドロの問題だからと、今まで共に悩もうとしなかった自分を、恥じた。
「でもよ……今回の騒ぎで、俺はなにか、つかめそうな気がしてる」
「そう、なのか?」
「ああ」
 顔を上げたアレサンドロは、笑っている。
「少なくとも、帝国の邪魔はできる。それだけでも、やる価値はあるだろうぜ」
「……そうか」
「だから、気にすんな」
 ユウは、小さくうなずいた。
「アレサンドロ」
「うん?」
「俺にできることなら、なんでもする。遠慮しないで言ってくれ」
「……ああ、頼りにしてるぜ」
 嫌味のない言葉だった。

「そういやお前、とうとう神官になれたってな」
「准神官だ」
「ハ、別に茶化しやしねえさ。よかったじゃねえか、親父さんも喜ぶぜ?」
「……だと、いいな」
 神殿にくわしくないアレサンドロは、クローゼのように、世襲云々などとは言わない。
 窃盗や盗掘に身をおとしめていたユウだ。家族とは、まともな死に別れをしていないだろうと、おもんぱかってのことかもしれないが、どちらにせよ、ユウにとってはありがたいことだった。
 過去の話は、どうしても暗くなる。
「じゃあ」
「ああ、お疲れさん」
 ユウは、アレサンドロの部屋を後にした。

 もう少し、辺りを回ってこようか。
 そう思い立ったユウは、通路を戻り、各居住セクションへの分岐点が集合する中央ホールまで戻った。
 ふと視線を移すと、背の高い観葉植物の向こう、展望窓から外を望めるよう設置された長椅子に、ララが、背を向けて腰かけている。
 以前ならば、わずらわしさから、そっと逃げているところだが、
「ララ」
 ユウは声をかけた。
 そうするほどに、ララに対する印象は変化している。
 だが、振り向いたララは、機嫌が悪かった。
「どこ行ってたの」
 と、発する声にも、どこかトゲがある。
「アレサンドロのところだ」
「ふぅん」
 ララは立ち上がり、
「ちょっと付き合って」
 振り返りもせずに、階段を下りていってしまった。

 ユウの気分は、またか、である。
 また、なにか気に障ることをしてしまったらしい。
 この上、さらにヘソを曲げられてはたまらない。ユウはため息をはき、急いで後を追った。
 ララが向かった先は、屋外であった。

「寒ぅ……」
 夜間の、それも山中ともなれば、外気温は氷点下に近い。
 ハッチを降りたララは、肩をすくめ、身を震わせた。
 だがそのおかげで、天上の星は、まるでスパンコールだ。
 ララはユウに背を向けたまま、
「ねぇ、ユウ」
 寒風にさらされた、自身の腕をさすった。

「好きなの?」
「え……?」
「だから……その、ディアナって子のこと、好きなの?」
 ユウは脱力した。
「どうしてそうなるんだ」
「だって!助けたいって、なんかムキになってるし……あのときだって、勝手に、クローゼと行っちゃうし……」
「大祭主様だぞ?助けたいのが当たり前だ。好きとか嫌いとか、そういう見方をするのは失礼だ」
「だってぇ……」
「だってじゃない。もう、いい加減にしてくれ」
「あ!ま、待ってよぉ!」
 ララは、戻ろうとしたユウの腕に取りすがった。
「だったら、ユウは……!」
「……?」
「ユウは、あたしのこと……」
 皆まで聞かず、ユウは、ララを冷たい土の上へ押し倒した。
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