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【一】 始まり -アレサンドロの過去編-
意地
 ドッ
 ドドドドォォ……。

「う、おお?おお?」
 これには、さすがのアレサンドロも飛び起きた。
「な、なんだ?おいユウ!お前、なにやった!」
 と、衣服をかき集めて叫んだが、ユウの返事はない。ユウは、もはや遮るもののない月光の、その青白い光の中で、なかば放心したように立ち尽くしている。
「おい?ユウ……?」
 一点に注がれるユウの視線を追ったアレサンドロもまた、同じく言葉を失った。

 天井の落ちたドームに、どこまでも白く輝く満月。藍色の帳。
 かつての床は、雨水か川の支流を引きこんだのだろう。
 水につかり、そこはまるで、湖だった。
 その、かすかに波立つ水面。
 月光を受け、ビロードのように輝く水面に、もたれ合いながら立つ、ふたつの巨大な人影が……。

「N・S《ナハト・ズィーガー》……!」

 遠目ではあるが、おそらく間違いない。いや、それ以外考えられない。
 あれこそ、先の大戦において魔人が造り出したという人型兵器、N・S。
 一体で五千の兵からなる騎士団を滅ぼしたとか、ひと飛びで星の裏側まで行けたとか、とにかく噂だけならばユウも耳にしている。
 だが、その多くは十五年前に失われ、かろうじて残ったものも、ほとんどが帝国によって回収されたはずだった。
 もしこれが本物で、しかも完品ということになれば、誰であろうと惜しまず金を積むだろう。
 ユウの心は踊った。
「行こう。まず状態を……!」
 ユウは瓦礫を飛び越えるべく、岩のひとつに手をかけた。
 ……が。
「待ちな」
 何故だろう。その腕はアレサンドロにつかまれ、ぐいと引き戻されてしまったのである。
 かえりみるアレサンドロの顔は、険しかった。

「悪いが、お前はここまでだ、ユウ」
「え……?」
 ユウは、言葉の意味をはかりかねた。
「とっとと失せな。そして忘れろ。あれのことも、俺のことも」
「待ってくれ、アレサンドロ。あんた、なにを言って……」
「聞くな。……話したく、ねえんだ」
 語尾をかすれさせたアレサンドロの顔が、つらそうに歪められた。
「そういうわけにはいかない」
 と、ユウが尚も食い下がると、
「聞いてどうする。話によっちゃ譲ってくれるってのか?」
「それは……」
「いいから行きな。少しでも俺のことを思うなら、ただ口をつぐんでてくれりゃ、それでいい」
「……嫌だ」
 アレサンドロは荒々しく舌打ちした。
「なら勝手にしな。どっちにしろ、お前はここで退場だ」

 この男は一体どうしたというのか。
 考える間もなく、ユウは川べりまで、力ずくに引きずられてきてしまった。
 このままでは、また急流下りだ。
「アレサンドロ!くそっ、冗談じゃない!」
 ユウはアレサンドロを弾き飛ばした。
 自分の身がどうのという話ではない。
 わけもわからず、ただ流されるのが我慢できなかった。無性に腹が立った。
「俺にだって意地があるんだ!」
「だったらどうする?俺を殺すか?」
「なに……?」
「ああ、あれが欲しいならそうすりゃあいい。その方がいっそ、スッキリするさ」
「なにが、スッキリだ!」
 ユウの拳が、アレサンドロの左頬をまともに打ち抜いた。
「づ……」
「馬鹿にして!いい加減にしろ!」
「こ、の……ッ!」
 一歩も譲らぬ、殴り合いになった。

「ガキが、粋がってんじゃねえ!」
「歳をとっていれば偉いのか!あんたのがよっぽどガキだ!」
「そういう話じゃねえだろうが!」
「じゃあなんだ!どういう話だ!話せるのか!あんたに、なにが話せるっていうんだ!」
「ああ?」
「肝心なことを、いつもあんたは隠してる!今だってそうだろ!」
「うるせえ!てめえになにがわかる!てめえに、俺の気なんぞわかりゃしねえ!」
「ああ、わかるもんか!だから話せと言ってるんだ!」
「ッ……!」
「アレサンドロ!」
「うるせえって、言ってるだろうがよ!」
 アレサンドロの蹴りは空を切った。


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