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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【二】 逃亡 -ユウの過去編-

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悲鳴

『どこまでも、ムカつく野郎だぜ』
『ホンット』
 四人は今、ジラルドに、猶予を与えられている。
 相談し、この後も戦いを続けるか否かを決めろ、というのだ。
 だが実際は、
『どうやって、奴をぶっ壊すか』
 の、一択で、話は進んでいる。

『問題は硬さ、それだけです』
『関節も駄目だ。少なくとも、俺の剣は通らねえ』
『いや、そもそも脚をいくら斬っても、あいつは倒せない。胴体を狙う方法を考えないと』
『それも、内側まで届くような、か?堂々巡りだな』
『ハッチを開けさせるってのは?』
『相手から、というのは無理があります。必要がありませんし、兵糧にしても、あの巨体です。内部に蓄える場所はいくらでもあるでしょう』
『N・Sのカニはどうなんだ?』
『悪いが、俺は見たことねえな』
『じゃあ、カニは?生のカニ』
『生……、なるほど、カニはカニ、ということですか』
『カニの弱点、か』
『ひっくり返す……、いや、ありゃあ重そうだ』
『食べるとしたら……脚抜いて……』
 四人の考えが、ぴたりと重なった。
『腹か』
『駄目元だ。やってみる価値はありそうだな』 

『決まったか。では、答えを聞かせてもらおうか』
 円陣を解いた三体に、ジラルドは言った。
 こちらは当然、今度こそ、ユウたちは投降するものと信じこんでいる。
 命を助けるという条件の下、ひざまずかせ、散々辱めた後で、首を落としてやろう、などと、先ほどまで笑い合っていたのである。
 ゆっくりと開いたサンセットのコクピットハッチに、ジラルドは、ほくそ笑んだ。
「答える代わりに……」
『む?』
「こいつをくれてやる!」
 一三〇〇式のモニターに大きく映し出されたのは、中指を突き立て、べぇ、と舌を出す、ララの姿。
 一度ならず二度までも、
『き、き……、貴様ァァァァッ!』
 ジラルドの怒りが、頂点に達した。
『あ、な、なりません!』
 もがくようにサブシートへ飛びつき、操縦桿を奪い取ったジラルドは、従騎士が止めるのも聞かず、それをぐいと押しこんだ。
 加減を忘れた一三〇〇式の脚が空回りし、地面が深く掘り起こされた。
『ふ、う、う……』
 目をむき、唇をめくり上げ、鼻息も荒く歯ぎしりするその顔は、もはや貴族のそれではない。
『進め!この、ポンコツが!』
 ジラルドが叫んだ、次の瞬間。
 一三〇〇式の巨体が雪崩となって、サンセットへと押し寄せてきた。

『頼む!』
『無理すんなよ!』
 カラスとオオカミが飛びのく。
 ハッチを閉じたララは、胸の前にシールドを構え、
『上ッ等!』 
 一三〇〇式の突進に、自ら体当たっていったものである。

 轟音立てて激突する両者。
 サンセットの背部スラスター四機が、白色の炎をはき出し、陽炎が立った。
 後ずさる足跡が、地面に長い筋を引き、イエローサインが点灯する。
 が……、
『……ば、馬鹿な!』
 ついに、一三〇〇式が、止まった。

『いい仕事だぜ、ララ!』
『当ッ然!』
 すぐさまカラスとオオカミは、一三〇〇式の足下へもぐりこんだ。
 二体は左右に別れ、先頭で支える脚のつけ根に陣取ると、
『う、おおおおぉっ!』
 気合一声、それを押し上げた。
『重、てえぇぇ!』
 アレサンドロがうめき、ユウの腰も、ひざも、ミシミシと鳴る。 
 だが、一三〇〇式の平たい胴体は、尻を支点に、十メートルも開いた。
『おのれ!裏返すつもりか!』
 ジラルドはわめいたが、そうではない。
 ユウたちの目的は、当初から腹部。その一点である。
 ララは持ち上がった腹の真正面にサンセットを旋回させると、アザの残る唇をぺろりと舐め、

『逝ッけ!バ、カ、ガニぃぃ!』

 ホバージェットの咆哮も豪快に、そこへ、スピナーを突き立てた。
 激しい回転音と共に、橙の火花が、弾け散った。

『ええい!』
『な、なりません!転倒いたします!』
『鋏は!』
『届きません!』
『この、役立たずがぁ!』
 頭をかきむしり、腰の剣を抜いたジラルドは、ふたりの従騎士を斬り捨てた。
 とても正気の沙汰ではない。
 そうしている間にも、スピナーの先端と、一三〇〇式の腹部装甲とが、高熱を発し、赤くなっていく。
 だが……穴が開かない。
 ララはフットペダルを限界一杯まで踏みつけたが、それでも穴は開かなかった。
『こ、の……、いい加減にしなよ!』
 ララは素早くパネルを叩き、警告音が鳴るのも聞かず、リミッターを解除した。
 勢いを増したスラスターの炎に押され、機体が、半歩前へ進む。が、既定値以上の出力に、今度は全身の関節部が悲鳴を上げた。
 これ以上続ければ、光炉がオーバーヒートする。
 ララが感じた、そのときだった。

 ビシリ。

 一三〇〇式の装甲板に、亀裂が走ったのだ。
『やった!』
 嬉々としてララは、操縦桿を押しこんだ。
 が、ここにきてなんと、
『あっ!』
 突如、スピナーの先端が砕けてしまったのである。

 スラスター全開の状態で支えを失ったサンセットは、そのまま装甲板へ突き進む形となり、スピナーの損傷によって回転の緩衝を得られなくなった右腕が、まず、ねじ切れるように破損した。
 さらにその回転運動は全身に及び、サンセットは一三〇〇式の胴に激突。その上を飛び越え、二転三転しながら、地面へ落ちた。

『ララ!』 
『おい!生きてるか!』
 応答がない。
 パッ、とカラスを降りたモチが、サンセットの元へ向かった。

『ヒ、ハハ、ハハハハハッ!』
 狂喜したのは、ジラルドだ。
『ヒヒ、見ろ!こうなる運命だったのだ!お前たちなど……、ハハハハッ!』
 血に濡れた剣を握りしめ、傾いたコクピットの中、踊り回る。
『馬鹿だ、馬鹿だ、ヒャ、ハハハハ!』

 ……ユウは、全身の血が冷えつくのを感じた。
『くそっ!ちくしょうが!』
 吐き捨てるアレサンドロへ、
『……アレサンドロ』
『ん?』
『少しの間、頼む』
『……おう』
 答えるや否や、ふたりは、持ち上げたままの一三〇〇式を、もう一度強く、押し上げた。
『いいか!』
『いいぜ!』
 ユウが手を離す。
『ぐぉっ!』
 オオカミの身体が、ず、と沈み、ユウは、太刀を抜き払った。
 その切っ先を、サンセットの刻んだ亀裂へあてがい、

『うぉぉぉぉッ!』

 奥の、奥まで、突き通した。
 刃の向こうで聞こえたのは、ジラルドの悲鳴、だったのだろうか。
 わずかな沈黙の後。
『爆発するぞ!』
 転がるように飛びのいたふたりの目の前で、一三〇〇式は連続的な爆発を起こし、閃光に包まれた。


「おい!どうだ!生きてんのか?」
 仰向けに倒れたサンセットは、右腕以外大きな損傷はないものの、各所でスパークを起こしている。
 バックパックからは白煙も見えた。
 コクピットハッチをつつき、ララへの呼びかけを続けていたモチだが、
「わかりません」
 答えた。
「ハッチは?開かないのか」
「それもわかりません。私の力では開けられないのです」
「そうか」
 ユウはハッチの、向かって左側に設置されているハンドル式開閉レバーへ飛びつき、回した。
 幸い、ハッチは生きていた。

「ララ?」
 背を下にしたララの、後ろへ垂れた赤い髪が血のように見え、ユウはどきりとした。
 顔に血の気はなく、ぐったりとシートにもたれながらも、その手はまだ、操縦桿を握っている。
 コクピットへ入ったアレサンドロは、ララにまたがり、脈と頭部を入念に調べた。
「どうです?」
「ああ……」
 曖昧な答えに、ユウとモチは気を揉んだ。
「……とりあえず、外に出すか」
 と、慎重にシートベルトを外し、
「ユウ、そっちから引っ張り上げてくれ。ゆっくりな」
 真剣に言うアレサンドロの表情が、微妙に曇っている。
 ユウはなにも聞けずに、ただ腕を伸ばし、ララを預かった。
「ララ……」
 モチが心配そうに見つめる中、いつも以上に重く感じるその身体を、落とさないよう、しっかりと抱きしめる。
 暖かい。
 息もある。
 すると突然。
 コクピットから伸びたアレサンドロの手が、ララの尻を強烈に張り飛ばした。

「痛ッたぁぁぁッ!」

 ユウの腕の中で、ララが飛び跳ねる。
「ちょっ……!なによ、バカ!」
「……」
「あ……」
 鼻同士がふれ合うほど近くで、唖然とするユウと、ララの目が合った。
 ララの頬がパッと、桃色に染まり、
「ハ、その調子なら心配ねえな」
 コクピットから顔を出したアレサンドロが、白い歯を見せ、笑った。
「ホ……!」
「ッ……だましたな、アレサンドロ!」
 そう、ララは気絶していただけだったのだ。
「まあ、いいじゃねえか。今回はこいつが一番手柄だ。手ごろな褒美だろ?」

 潰れた大ガニの死体から立ち昇る黒煙を避け、トビが風を切って飛んでいった。

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