……薪の弾ける音がする。
脂の焦げる、香ばしい匂い。
微笑む男。そのひざに乗った少年。
差し出される食事。
頭をなでる手。
光る指輪。
ぱちん。
再び、薪が跳ねた。
「よお、生きてるか?」
「……アレサンドロ」
焚き火に浮かび上がる姿は、まぎれもなくその人だった。
下着一枚で岩に腰掛け、小枝をもてあそんでいる。
ユウも身を起こそうとひじをつくと、薄手のシャツが胸から落ちた。裸だった。
ああ、そうか。
ここにきてようやく、ユウは自分たちが激流に呑まれたのだということを思い出した。
「あんたが、助けてくれたのか」
「いや。お前が勝手に流れ着いただけだ。俺と同じ場所にな」
アレサンドロは枝を火に投げ入れ、
「まったく。泳げねえなら適当に捕まっておけって話だぜ」
くくっと喉の奥で笑った。
「あんたが飛びこんだりするからだ」
「おいおい、俺のせいか?俺を助けにきたってんなら、それこそ溺れてちゃ世話ないぜ」
ぐうの音も出ない。
実際泳げないわけでもないのだが、今回ばかりは勝手が違った。
転がるように押し流され、呼吸の確保さえままならない中で岸辺にとりすがろうと何度ももがいてはみたのだ。
しかし、苔にぬめった岩肌が、その度にユウを突き放した。
今もまだ、肺が焼けるように痛む。
「ま、お互い無事でよかったってことで、よしとしておこうぜ」
釈然としなかったが、ユウはうなずかざるを得なかった。
「それにしても……」
「なんだ」
「お、お前、女だったのか!なんて展開でもありゃあ、少しは脱がし甲斐もあったのによ」
「……悪かったな」
なけなしの食料が、パッキングのおかげで難を逃れたのは不幸中の幸いだった。
そして、今が夏の盛りだったことも。
二人は固く焼きしめられたパンとチーズでとりあえずの腹を満たし、服が乾くまでの間、仮眠をとることにした。
堆積した川砂に、瓦礫から引きずり出した帝国軍旗を敷けば、申し分ない寝床となった。
「じゃ、お疲れさん」
「ああ」
だが、ものの数秒で寝入ってしまったアレサンドロと違い、ユウは、なかなか寝つけなかった。
身体は重く、思った以上に消耗している。が、頭の芯が冴えきっている。
さっきの、夢のせいだ。
ユウは無理やり目蓋を閉じ、思い返した。
若い父、幼い兄、そして………。
だるい左腕を持ち上げる。
小指に輝く、姉の形見。
触れると、身体の一部であるかのように温かい。
胸が詰まり、軽い頭痛が走った。
「姉さん……」
唇をリングに寄せ、ユウは、今度こそ眠るために目蓋を閉じた。
………オォ……。
「!」
ユウの身体が、反射的に動いた。
物音の方向に視線を残しながら、短剣を引き抜き、火の落ちかけた薪へ砂をかける。
完全な暗闇にはならなかった。
足元がほの白く光っているのは、おそらく川砂に光石が含まれているのだろう。
オオ……オォ……ォ……。
遠吠え。いや、獣の気配はしない。風だろうか。
姿勢も低く柄を握りこみ、暗がりを凝視すると、
「うっ……!」
突然の閃光が走り、ユウは身を固くした。
光石灯ではない。もっと、強くも、柔らかい光だ。
ユウはゆっくりと目蓋を上げ、かざした手の向こうを見た。
そして、我が目を疑った。
誘うように手を差し伸べて。黒い翼を天に開いて。
それは確かにそこにいた。
「天……使……ッ!」
刃が、手からこぼれ落ちた。
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