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ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【一】 はじまり -アレサンドロの過去編-

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嘘と真

「では、身分と名を」
「はい。私はデローシスのアントニオ・カッサーノ。これはロストンのトビアス・エルマンデルと申しまして……」
 アレサンドロは、さもそれらしく並べ立てた。
「学者です。学者の、卵です」
「それが何故ここに」
「我らの師、ジョゼッペ・ペルデンドスが、あの隠居所に住まいしておりまして……。なにぶん、師は高齢につき、こうして月に一度、世話に上がっている次第」
「……なに」
 仮面のようなサリエリの表情が、初めて動いた。
「ジョゼッペ・ペルデンドス……あの?」
「誰だ?」
 とは、ギュンター。
「高名な化学者です。近年では、ビスも熱も使わず金属同士を接合させる、面白い液体の提案をされています。油を原料とする以前までのものと違い、この液体の利点としては熱に強く、耐薬品にも優れ……」
「もういい。さっさと本題に入れ」
「……は」
 サリエリは小さく首を振り、眼鏡を正した。

「君たちも感づいているだろうが、我々は人を探している。若い女性だ」
「はあ」
「背丈は、そう、君の肩まで。赤い髪、赤い目」
 ユウの脳裏に、あの三〇八式の少女が浮かんだ。
 おそらくアレサンドロもそうだったのだろう。ふたりの目が、ぴたりと合う。
 しかし、だからといって、今のふたりに関わる理由はない。
 そ知らぬ顔で、
「申し訳ありませんが……」
 アレサンドロが言いかけた、まさに、そのときだった。
「いました!」
 息せき切って駆けこんできた若い騎士が、ギュンターの前にひざまずいた。
「発見、拘束いたしました、閣下!」
「……おう」
 ギュンターは、にんまりと犬歯を見せて笑った。
「でかした」
「はっ」
「どこだ」
「ただいま、こちらに」

 これを聞き、焦ったのはユウとアレサンドロである。
 あの少女は、ふたりを見知っているのだ。顔を合わせれば、どうなるか。
 かといって、ここで下手に動けば、かえって自らの首を絞めることになる。
 ふたりの頬に、冷や汗がつたった。
 そこに、

「痛ッ!引っ張んないでよ、バカ!能無し!役立たず!」

 まさに、デローシス砦で聞いた、あの声。
 髪を振りたて、叫び散らすララを中央に、騎士の小隊が闇を割って現れた。
 ララは左足を引きずり、木製の手かせを馬上の騎士に引かれている。
 衣服も顔も、黒く泥に汚れていた。
「ク、ハハ、いい格好だな、シュトラウス」
「ギュンター!あんた、しつっこいよ!」
 幸い、ユウたちは目に入っていないらしい。
「おうおう、負け犬の遠吠えにしか聞こえねぇな」
「フン、どっちが」
「あぁ?」
「そっちこそ、L・Jじゃあたしに勝てないからって、こんなことで調子に乗ってさ。あんたの手柄じゃないっての、バカ!」
 つり上がったギュンターの目が、血走った。
「帰って絵本でも読んでりゃいいの。それがお似合いでしょ!」
「……、の、ア、マ!」
 ついに、ギュンターが拳を振りかぶった。
 サリエリは止めない。
 ララは固く目を閉じ、歯を食いしばった。
 顔を背けないのは、精一杯の反抗。真正面から受けてやるつもりだった。
 ……が、

「あれ……?」

 衝撃が、来ない。
 恐る恐る、目を開けたララは、
「あっ!」
 驚きと喜びの、ないまぜになった声で叫んだ。
 ギュンターの腕が、手首をつかまれ、上向きにねじり上げられている。
 その相手こそ、誰あろうユウだったのだ。
「ンだ?テメェ……」
 青白い炎のような殺気と、無言のままに立つユウの凛然とした視線とが噛み合い、火花を上げた。
 一触即発。
 すぐに、アレサンドロが間に入った。
「これは申し訳ありません。このエルマンデルは神兵崩れで、どうも血の気が多くて……」
 しかし、それをさらに押しのけ、
「やっと、捕まえた!」
 ララが、ユウの胸へしがみつく。
「え……?」
「あぁ?」
 ギュンターの、そして周囲の気が完全にそがれた。

 ここらが潮時か。
 アレサンドロは、今しがたユウの懐からすり取った閃光弾へ、すかさず着火した。
 と、同時に、
「ッ!なにしやがる!」
 ギュンターを突き飛ばし、その目の前へ、放る。
「ギュンター様!」
 爆発物を察知したサリエリが、ギュンターの上へ覆いかぶさった。
 その瞬間。

 パギュン!
「うわっ!」
「あっ!」

 ……このときすでに、ユウとアレサンドロは穴ぐらへと逃げこんでいる。
 大荷物をかかえて。
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