挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ランドスケープ・アゲート 作者:紅亜真探

【三】 決起 -アレサンドロの未来・前編-

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

110/236

遭遇

 その、ソブリンのブラック・クール・ハーマンが隠れ家を出航する、三十分ほど前。
 修理の終わったマンムートが、同じく改修を終えたサンセットを積みこみ、予定通り、北へ向けて出発している。
 食料、水、生活用品その他。様々な物を、それも数百人分詰めこんだマンムートの光炉に火が入り、
「気をつけて行くんだよ」
「うん、ありがと」
 すっかり打ち解けたソブリンとララは、抱き合って別れを惜しんだのだった。
「意外に、あんたみたいな子が、ユウとはしっくりくるのかもしれないね」
「ホント?ホントにそう思う?」
「ああ、しっかりやんな。一押し二押し、三に押しだ」

「……だって!」
「ふうん」 
「あ、セレン冷たぁい」
「そうかい。じゃあ、おめでとう」
「ねぇ、話聞いてたぁ?」
 今、地中を走るマンムートのブリッジでは、相変わらず、のんびりとした空気が流れている。
 舵を取るセレンに、飲み物と菓子の用意をするメイ。それを、つまみ食いするララ。
 チョコレートのついた指を舐めたララは、セレンの座るメインシートの背もたれにあごを乗せ、
「ねぇ、セレン」
「なんだい」
「あたし……早くユウに会いたい」
「……」
「なんてね!」
「……ふうん」
 これは、いよいよ本物だ。
 セレンは、ブラックコーヒーをひと口すすった。
「メイ、そろそろ出ようか」
「は、はい!ええと……大丈夫です。障害物ありません!」
「上がるよ」
 マンムートが顔を出したのは、雪吹きすさぶ山間の雪原だった。
「レーダー展開します」
「うん」
「すごい雪ですね……」
 メイが、ため息をはくように言った。

 こうした、山の変わりやすい天候を考えれば、合流場所まで地の底を這っていく方が安全なのは言うまでもない。そこをあえて曲げたのは、曲げなければならない理由があるからだ。
 それがなにか。マンムートの後方を見れば、すぐにわかる。
 穴の中から全身を現したマンムートは、もう一台、それはもう自身と同じか、それ以上に巨大なキャタピラつきの箱を牽引しているのだ。
 ブルーノを始めとする、数百人からいる仲間たちのための、宿舎として作られた荷車であった。
 さて、荷車というからには、この車に自走能力がないことがわかるだろう。
 さらに、ブラック・クール・ハーマンと同質の船材を組み上げてあるとはいえ、専門機関の粋をこらして建造されたマンムートに比べれば、若干強度が落ちる。密閉性にも不安がある。
 となると、なにかと障害物に当たりやすく、圧力のかかる地中よりも、地上を進むのがこの荷車にとってはいい。マンムートがそれに合わせる、ということになるのであった。
 ここまではソブリンの隠れ家へ義理立てして、足取りをつかまれないように地中を走ってきたが、できる限り地上を進む予定のマンムートなのである。
「二号車も、問題なさそうです」
「うん、熱感知もしておいて」
「は、はい、そうでした!」
 メイは慌てふためいて、熱感知センサーも作動させた。
「ね、これなに?」
 ララが指差したのは、メイの手元、黒いモニターに映し出された、いくつかの点だ。
 距離感はよくわからなかったが、緑色のそれが、もぞもぞと動いている。
「ああ、近くに、人が住んでいるみたいですね。村です」
「ふぅん。L・Jじゃないんだ」
「違いますよ。L・Jなら、ほら、こんな警報が……」
「……って!」
「け、警報?警報が鳴ってます、セレン様!」
「そうだね」
「え、あ、ど、どうしましょう!」
「あ、あたし出るね!」
「わ、私はぁ……ええと……あのぉ……」
「待った」
 わたわたとブリッジを走りまわるララとメイを、セレンのひと声が押しとどめた。
「深呼吸」
 言われたふたりは、すう、はあ、と息をする。
「向こうのレーダーに、まだこっちは映ってない。止まって様子を見よう」
「あ、そ、そうですね。さすがセレン様!」
「でも、ララは一応出て」
「うん、わかった。さっすがセレン様!」
「そういう冗談はいらないよ」
 ララがブリッジを駆け出ていくのを見送って、セレンはメイに、L・J用ハッチの開閉準備をさせた。
 先に述べたように、マンムートはもう一台、二号車を牽引している。困ったことに、この状態では後部L・J用ハッチが開かないのだ。
 マンムートは速度を落とし、連結部の継ぎ手を延長。走りながら、マンムート本体と二号車との間に、数十メートルの間隔を空ける。
 ひと気も、他のL・Jの姿もない、がらんどうな格納庫から、サンセットが一歩、雪面に足を踏み出したところで、マンムートも停車した。
『どう?』
 セレンが聞く。
『最ッ高』
 ララは答えた。

 ほとんど新型ですよ、と、メイに言わしめたサンセットⅡ(ツヴァイ)は、その言葉通り、以前のそれから、がらりと趣を変えている。
 真紅の装甲、スピナー、そして多少薄身になりながらも大型シールドは引き継がれているが、無骨だった全体のシルエットは、すっと引き締まり、ひと皮もふた皮もむけたように見える。
 背にあった四基のスラスターは取り外され、かわりにバックパック式の独立可動スラスターが二基。同じく巨大なテイルバインダーが二基。脚部サブスラスターと、新設された胸部サブスラスターについては噴射領域が広く取られるように設計がされ、機動性と安定性が増した。
 逆に、重量を削り、足底もホバージェットからブーストノズルに変更したことで、防御力、突進力は共に低下している。
 ララは感触を確かめるように操縦桿を握りこみ、ぺろり、上唇を舐めた。
 先ほどまでの恋する乙女の顔は、もうそこにはなかった。
『L・Jは一機。さっきの村とは逆方向の、マンムートから見て左側になります』
『鉄機兵団?』
『そう、ですね。所属と型番の照合はできませんでした』
『……どういうこと?』
『ええと、試作機の可能性があります。車両の反応もありますし、雪中テストの最中かもしれません』
『ふぅん……で、どうする?』
『そ、そうですね……どうしましょう、セレン様』
 言われたセレンが、通信口に出た。
『相手は、こっちに近づいてる。行けるかい、ララ』
『もっちろん』
『じゃあやろう。サンセットのデータも欲しいし……』
『試作機も気になる』
『正解』
『アハハッ、了ッ解!』


 一方。
「ほぉう、これはこれは……」
 広域レーダーやモニターカメラを搭載した、寒冷地仕様のコマンド・カーゴ内部には、しわだらけの手を揉み合わせる、あのスダレフの姿があった。
 車内には他に、数名の技術助手と騎士がいるが、どれも皆無表情で、上機嫌のスダレフとは対照的に陰鬱な空気が漂っている。
 帝都の研究所で飼い殺しにされているはずのスダレフが、軍用車両に乗り、騎士の護衛をつけているのはなんとも奇妙な話だが、実はこの老博士、数週間前正式に、宮廷博士としての地位に返り咲いているのである。
『シュナイデ』
 マイクを引き寄せたスダレフが呼びかけると、
『はい、博士』
 小鳥のさえずりのような、美しい声が返ってきた。
『これはまったく運がいい。お前のテスト中に、目指す相手とぶつかるとはな』
『はい、博士』
『よしよし、いいかシュナイデよ。命令を変更する』
『なんなりと』
『セレン・ノーノ……いや、ララ・シュトラウスを殺せ。その『ナーデルバウム』で、コクピットごと刺し貫いてやれ!』
『……了解しました』

 遠く離れた二体のL・Jが顔を合わせたのは、それから十数分後のことだった。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ