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新機動戦士ガンダムバーサス
作:灯宮義流



第四話『ブレイクピース、宣戦布告』その4


 一人でどこかを目指してとある町の通りを歩いていた。
 しかし、先の戦いによって崩壊した街では、右も左もロクな光景が広がっていなかった。
 戦闘による損害はは予想以上に各地で傷跡を残しており、いたるところで倒壊してしまった家を眺める人や、呆然と座り込む人が見られた。
 ここまでやられては、とてもすぐには元の状態には戻らないだろう、と彼は不謹慎ながらもぼんやりと思った。
 少し前まで、この通りはかなり華やかに彩られた静かな住宅街だった。
 この辺りはいろいろな面で条件がよいので、金持ちが特に好んで土地や家を買い、この辺りに住んでいたのだ。
 アールが幼い頃よりそんな場所だったここらは、みんなから羨ましがられる高級住宅地だった。
 だが今では、そんな華やかさなどまるで大昔のことだったかのごとく、形が所々崩れているのである。
 ガーデニングを趣味とする人が多かったのか、アールの歩いている歩道には花壇の破片や無残にも投げ出された植物達が瓦礫とともに散乱しているのが多く見られた。
 しかし、こんな有様を見せるているのにも関わらず、この事件での死傷者は、意外にも予測を大きく下回った。
 避難の訓練など消化行事みたいなものだったコロニーで、たくさんの人々が死ななかったことは奇跡と言えよう。
 が、それに反比例してなのか、こうした住宅の倒壊は相次いでいて、命からがら我が家に帰ってきた人は、このように膝を突いて愕然するしかないのだ。
 みんなの憧れだった夢の住宅地が、こうも酷く変わってしまうものなのか……。
 現状を改めて見せつけられたアールは、つくづく昨日までの平和がどれだけ幸せだったかを感じていた。
 自分の父親の醜態を日課のごとく見る羽目になる生活に、半ば苦しんでいた彼だったが、これを見てしまうともはや何も言えなかった。
「で、何やってんだよ、俺は……」
 そして、こんな大変な時に、くだらない私情で一人家を飛び出している自分は未だに平和だった頃の夢を見続けているようで、酷く滑稽に見えた。
 そもそも、こんな平和な人間がこの惨劇の場にいるのはあまりにも場違いだった。
 彼は冷たい視線で見られることこそ無かったものの、ここを通ったことを後悔するような雰囲気がそこら中漂っていた。
 家の倒壊を免れた人でも、やはり家具が割れたり壊れたりしている所がほとんどで、その片付けに追われる人ばかりなのである。
 アイル家にも壊れた家具は散乱していたし、それどころか玄関の扉は粉々に粉砕されてしまっていて、本来なら彼もそこに借り出されているはずだった。
 が、扉はまだ直りそうになく、壊れてしまったものは、昨日アールが家を飛び出しているうちに、皆母親が片付けてしまっていたのだ。
 つまり、家に居座ろうが彼の役目など、もはやありはしないのである。
 アールは、今一度自分の馬鹿さ加減や情けなさらほとほとに呆れつつも、他にどうしようも無かったのでとにかく目的地へと進んでいった。
 一応そこではちゃんとした待ち合わせもしているのだから、今更取り消せるわけもなかった。
 が、仕方ないという簡単な理由で申し訳無い気持ちが振り切れるわけがなく、彼はとても恐縮そうに肩をすくめながら、その通りを突っ切っていた。


「ここにくるのも随分久しぶりだな」
 アールがたどり着いたのは、小さな公園だった。
 公園と呼ぶにふさわしいかどうかわからないくらいの、本当に小規模な公園であったが、入り口に公園と記されていたのだからここは公園なのだろう。
 大抵公園といえば遊具があるものだが、そこにあるのはブランコと滑り台だけ、あとはベンチが一つチョコンと申し訳程度に置いてあるだけだ。
 彼の記憶によれは、この公園は昔、この辺りでまた新しくマンションを建てるということで急遽設立されたものだった。
 要するに、その子供達が遊びやすいように作った簡単な娯楽施設というわけだ。
 しかし、作ろうと計画したが肝心の土地があまり無かったため、こんなお粗末なものになってしまったのである。
 コロニーは、地球と比べれば断然狭い、だからその広さには当然かなりの限りがある。
 宇宙船越しにコロニーを見れば、なんとここは広い空間なんだろうと感動することも出来ようが、実際に住んだり建てたりしてみると想像よりも狭くてがっかりしてしまう。
 それでも、地球にいくつか点在する小規模な島国から見てみれば、コロニーというものはとても巨大だ、そもそも宇宙に人の住める環境を打ち上げるという発想自体のスケールは大きい。
 だが、スケールとコロニーの大きさは、決して完全には比例しない、その事実がこんなちっぽけな公園にポツンとあったのである。
 彼が公園に着いてすぐ、周りをざっと見渡してみると、どうやらこの近辺は昨日の戦火の影響をそんなに受けてはいないようだった。
 この近くにあるマンションはほとんど無傷と言える状態で、中は見えないのでわからないが、外部だけをザラッと見れば閑静な住宅街みたいだ。
 しかし、やはりというか、細かいところを見れば、やはりこのコロニーが戦場になっていたことがうかがえる部分はたくさんある。
 時折見え隠れする住人達の放つ異様な空気は、半ば現実逃避しようとしているアールを、責め立てるように冷たくなっていた。
 そもそも、何故今更こんなところに来てしまったのか、自分でもなんとなく不思議になった。
 彼が最後にここへ来たのは、随分遡って小学生時代のことだ。
 子供というものは常に新鮮味を求めるもので、アールもそんな子供の一人であった。
 ある日、彼等の仲間内でもう近所で遊ぶのは飽きた、という不満の声が一つ上がった。
 アール達の家の近所は、ここと比べればいくらか広い公園がいくつもあり、ほとんど毎日公園を巡って遊んでいた。
 だが当然、そんな同じことばかりの繰り返しでは、常に新鮮である子供はいずれ飽きてくるのは当然で、実際飽きた一人が刺激を求めてこんな発言をしたのである。
 これがキッカケで、皆の好奇心は爆発し、彼等はみんなで行く初めての遠出を計画した。
 しかし、アールは最後の最後まであまり乗り気では無かった。
 弟がいるせいか、どこかしら小学生にしてはクールだった彼は、なんとなく遠出するのが面倒くさくてたまらなかったのだ。
 だがそこは子供……いざ始まってみると、そんなアールですら自分の好奇心が抑えられないのがわかった。
 そして彼等は、この小さな公園へとたどり着いたのだ。
 距離的に、今のアールなら大した距離とは言えなかったが、子供の脚ともなると思ったより遠い位置にあった。
 それだけの距離を必死になって歩いてきたというのに、着いてみればこの程度の規模の公園しか無い……となれば本来ならがっかりする所だ。
 しかし、今まで広めの公園しか体験して居なかった彼等にとって、この小さな公園は様々な想像を掻き立てることができて楽しかった。
 ブランコや滑り台しかないのは、きっと何かのカモフラージュに違いない、などと彼等は想像を膨らませていった。そしてその結果、彼等はここを秘密基地と称して作り始めたのである。
 以降しばらく、みんなでわざわざ遠い距離を通い、自分達の秘密基地を徐々に建造していった。が、その建築計画は、思ったよりも長続きすることはなかった。
 決して、一同が秘密基地建造に対する意欲を失ったわけではない、それより前に大きな壁が立ちはだかったのである。
 距離が距離だったために、それぞれの帰宅時間は今までよりも大幅に遅くなっていた。
 当然帰りの時間が遅くなっていけば、彼等の親類達は当然のように心配し始める。
 その結果、遠出(子供からすれば)していることがバレてしまった彼等は、志半ばで計画を破棄する羽目になってしまったのだ。
 アールだけは、レイナが特に咎めることをしなかったため、本当ならその公園に通っていても良いのだが、友達が来られないのでは意味が無い。
 結局は、アールも他の子供達同様、二度とこの公園を訪れることはなかった。それが今になって、どうしてこんなところに来たんだろう……自分でもそれがよくわからなかった。
「本当に何してんのかな、俺は」
「んな……疑問に思うならこんな所に来るなよ」
 ふいに、彼の後ろから聞き慣れた声が聞こえた。アールは、自嘲気味にフッと笑うと、声のしてきた方角へと振り向く。
 その声の主は、複雑な表情を浮かべながら、重たいため息を放った。
「わざわざ来てもらって悪い、レオ……」
「全くよ、ここは俺の地元だぜ?」
「ああ、そうだったな……」
 レオとの正式な初めての出会いは、大学入学した当時では無かった。
 遠出の禁止令が下された翌日、一人だけ自由に動けるアールは、荷物もそれほど多くないということで、荷物を取ってくることを任された。
 まるで召使いみたいなことをさせられるのが気に食わなかった彼は最後まで一応反発したが、他の友人達は揃って親の監視が厳しくて、外に出るのも一苦労だった故、仕方なく引き受けることになった。
 秘密基地に隠してあったもののほとんどは、その当時流行っていたカードゲームの類で、アールもとりあえず集めていたが、正直熱はとっくに冷めていた。
 そのために、自分はそのまま盗まれても構わないと思っていたが、友達のものまで盗まれるのはまずい。
 おまけに、「アールのせいでカードが盗まれた!」とされても困るうえ、仕方無く出かけることにした。
 一人のみで運ぶ程度には苦ではない程度の量だったものの、やはり腑に落ちなかった彼は、行きがけに弟のアームを連れて行こうと企んだ。
 しかし、アームもその時には列記とした小学生になっており、損得の分別はある程度ついていたためかタダでは動こうとはしなかった。
 どんなバカでも、自分の利益のこととなると途端にずる賢くなるものだった。
 そこで仕方なくアールは、元々不要だと思っていた自分のカードを与えることを条件にすると、アームは喜んで手伝いに参加することになった。
 今までは、弟に無償でカードを渡してしまうことが、なんとなく悔しくて抵抗のあった彼だったが、こうして取引の都合がつき、もはやそんなことはどうでもよくなった。
 こうしてアールは、目を輝かせながら歩く弟を連れて、再び秘密基地になり損ねた公園へと訪れた。
 辿りついたところで、早速作業に取り掛かろうとしたアールだったが、入ったところで少し奇妙な点に気づいた。
 奇妙……というか、自分達より先に誰かがその公園で遊んでいたのである。
 いや、遊んでいるのではない、じっと目を凝らして見てみると、自分達がカードを隠したと思われる場所に、誰かいたのだ。
 もしかして、と思ったアールは、すぐにカードの隠し場所へと駆け寄って、そこで何かしていた人へと話しかけた。
 そこにいたのは、アールくらいの年をしていると思われる金髪の少年だった。
 緑が生い茂っていて全体的に少し暗く見えるせいか、少年の少し逆立った金髪は余計目立つ。
 金髪なのは元々なのか染めたのかはわからないが、少なくとも背丈がアールとは差が無い程度なので、際立ってガキ大将や不良などと言えるものではないようである。
 これだったらもし、喧嘩に発展してもボロ負けになるのは済みそうだった。
 なにしろアールには、年下とはいえ自分を含めて二人という戦力がおり、数でいえば恐らく有利と言える、最もそのパートナーが心強いかどうかは別だが。
 二人に睨まれて、彼は何かを背中で隠そうとしたが、さほど大きい子供でもなかったためにもう何を隠しているかバレバレであった。
 彼が必死に隠していたのは、自分達の置いてきたカードが入った鉄製の平たい箱の数々だった。すると金髪の少年は必死にそれを隠し、これは自分のものだと声高に主張した。
 別に自分のカードはどうなってもいいが、友達のまで奪われてしまうとマズイことになる。
 下手すれば自分が全部盗ってしまったとも言われかねず、自分にそんな汚名が被せられるのは真っ平ごめんだった。
 仕方なく強行策に出ようとしたアールだったが、それより前に、自分の横から突如怒声が飛び出した。
 それは、弟のアームのものであった、彼も今の今までどうでもよいと思っていたことから忘れていたが、この仕事の報酬はアールのカードであった。
 アームをそこまでさせるほどあのカードは良いものなのか……少し前まではなんとなく集めていた彼では、もはやその価値を見出すことはできない。
 迫力にいまいち欠けるアールとは正反対に、連れてきた弟のアームは物凄い剣幕でその少年を怒鳴り、いまにも殴りかかりそうな勢いにまで発展した。
 この頃からアームは、日々同級生やクラスメイトとも何かと喧嘩していたため、かなり喧嘩慣れしていた。
 故に上級生だろうと怪我を省みず突っ込むので、よくアールが保護者の面をして彼を抑えたり、喧嘩の後に迎えにいくことがよくあった、当然その度に謝る羽目になるのは保護者役にされたアールである。
 そんな面倒な事になるのはごめんなので、呆れながらもとりあえずアールは弟を片手で制した。
 しかし、学校の中だけならまだしも、こんなところになってまで自分が抑制役をかわないといけないと思うと、少しうんざりな気持ちになってきた。
 どんどん気落ちしていくアールだったが、弟の怒声は自分の説得より相手の少年には有効だったようだ。少年はあっけらかんとした顔で目を点にして、ただひたすらこちらの方をぼーっと見つめていた。
 まあ、いきなり年下と思われる少年からあんな大声を張り上げられたら誰でも驚くかもしれないが……。
 とにかく、これ以上事態が長引くのを恐れたアールは、ひとまず少年に悪くない交渉を持ちかけた。
 それは、自分のカードだけは無償で全て渡すから、ここはそれで我慢してくれ、ということだった。
 勿論これを聞いたアームは黙っていなかった、その少年にカードをあげてしまったら、これでは自分タダ働きになってしまうのだ。
 アームは必死に抵抗したが、その抵抗も空しく交渉は成立……アームは結局別のものをアールが報酬として渡すという方向になった。
 もちろん、元々手に入ると思っていたカードが手に入らなくなって、アームは不機嫌そうにスネてしまったが。
 流石にそれを見た金髪の少年もやはり全て返すと言い出したが、カードを拾ったのは一応は彼だ。
 もし彼じゃなかったらとっくに持ち逃げされていたかもしれないし……落し物を拾ったらその一割は拾い主のもの、という法律がこのコロニーにはあった。
 盗みかけたとはいえ、結果的には無事に返してもらったこともあるし、法律で制定されているのだから別に気に病むことはない。
 ということから、アールは自分のカードを全て彼に渡し、すったもんだで結局カードはその少年のものとなった。
 カードを貰った少年は、嬉しいのか苦しいのかよくわからないような表情を浮かべつつ、公園を後にしていった。
 さて、これで全ては一件落着した……あとはカードを運ぶだけ、とアールはホッとしていたが、それでは終わらなかった。
 アールは、不服な顔をしたままのアームと協力して、カードを持って帰ろうとしたが、すると突然もう一つの手が差し伸べられた。誰かと思えば、さっきカードを貰って帰ったと思っていた金髪の少年である。
 彼は、カードを貰ったはいいものの、結局は盗もうとしたことに変わりは無いという罪悪感から、何かお礼がしたいと思って戻ってきたのだ。
 そこで彼は、アールがこの箱にはいったカードをみんな持って帰らなくてはならないことを思い出し、運ぶのを手伝うことにしたのである。
 アールとしてはありがたかったが、家までそんなに近いと言える距離では無かったので、彼も一度は断った。
 しかし、少年はなんとしてもお礼がしたいと言って聞かず、それではお言葉に甘えて(とはいっても半ば強引だが)とカードを一緒に運んでもらうことにした。
 少年もそれを了承されると、なんとも晴れがましい表情になったので、アールは無理矢理断らなくて正解だったと思った。
 先程とは打って変わってどことなく意気投合してしまったアールとその少年は、早速アイル家へ向かって和やかに歩き始めた。
 ……終始無言でその少年をきつく睨みつけながら、後を追っていたアームを除いて。これがキッカケで、アールとその少年は暇になると、ごく稀にだが一緒に遊ぶようになった。
 遊ぶ、といってもほとんどがくだらない雑談や、二人でできる遊びだけだったが、住んでいる地域が違うことによるギャップをお互いに楽しめたので、二人は不思議と退屈はしなかった。
 このとき偶然知り合った少年こそが、アールの親友レオだったのである。
 二人は小学校を卒業してからは数年単位でご無沙汰していたのだが、大学へ入学したことでバッタリ再会し、こうして現在に至ることとなった。
 全く持って奇妙な出会いだったおかげか、性格があまり似通っていない二人は、こうして親友と呼べる間柄になっていたのだ。


 ……そして今日、アールがここに来たのも、親友に愚痴を聞いてもらうためであった。
 昨日の出来事のほぼ全て見ていたレオは、アールがどんな酷い愚痴を言おうとしているか察しがついていた。
 大学の中では、周りから『大人びたクールな印象』が根付いているアールであるが、家庭内で様々なプレッシャーを背負っている彼は、アイル家で最も愚痴や不満を溜め込んでいる人間だった。
 ただでさえ仕事で忙しく疲れている母親には愚痴などこぼせないし、ましてや弟達に愚痴など持っての他、父親とはあんな有様である。そうなれば、自然的に愚痴などは友達にしか話せなくなる。
 その友達の中で、どうしようもない事を一番普通に聞いてくれるのが、一番気心の知れたレオしかいなくなっていたのだ。
 ネイラに話そうものなら、クヨクヨするなと背中を叩かれて終わりそうだし、年長者で体育会系のモモチカだったら、こぼした途端長い長い説教を受けてしまいそうである。
 つまりは、そんなことでは愚痴をこぼしても、スッキリしないわけである。
 しかし、いつもなら彼の話を頷いて聞いている、というよりむしろ相談する側のレオだったが、今日ばかりは違った。
「お前が親父さんといろいろあるのは知ってるし、気苦労も理解してるつもりだけどよ……昨日のあれは無いんじゃねえか?」
「昔からあんな感じだし、気にすることもないだろ」
「気にするさ、いつも親父さんとは顔合わせるけど悪い人には見えないし、横で見てたけどお前に怒鳴られてたときの親父さんの目、寂しそうだったぜ」
「親父が? 見間違いだろ、うちの親父の目の色はいつだって変わらない」
「確かにお前の親父はマイペース過ぎて、理解し難いのはわかるよ、だけどお前はお前で理解しようとしてないんじゃねえのか?」
「あっちも俺を理解しようとしないからな、その気も失せるよ」
「まあ、俺じゃお前の家庭に口なんか出せねえし、強くは言わねぇよ、でもあんな理解し難い人間のことを理解してついていってる人だっている」
「……母さんのことか?」
「そうじゃなきゃ結婚なんてしないと思うぜ、要するにお前も親父さんも不器用なのさ、似た者同士だ」
「そりゃどんなに否定しても血の繋がった親子だからな、悔しいけど」
「血の繋がった親子ならそのうち理解し合える日がくる」
レオにそう言われたアールだったが、特に希望も無いのだろう、顔を俯けてしまった。
「理解し合える日がくるか、その日を待ってるうちに俺はもう二十歳だ」
「今はまだ無理だとしてもな、もしそのまんま死に別れたらお前は絶対に後悔する、だから少しずつ理解する努力していけよ」
「……」
 アールは何も言い返さなかった。
 父親がもし死んだら……そのとき自分はどんな気持ちになるのだろう、そんなことを考えたのだ。
 居なくなって清々するのか? それとも声を上げて泣くのか? もしかしたら何も思わずに平然と見送るのか?
 今の自分に問いかけても何一つ答えは出なかった。
「……さてと、せっかく相談にのってもらったし、お礼に今度何か奢るよ」
「本当か? じゃあせっかくのせっかくで、その時はネイラとモモチカさんも呼ぶとするかね」
「ってちょっと待て、そんな人数俺は奢れないぞ?」
「でも二人だけ自腹なんて申し訳が立たねぇし、かといって野郎二人だけで飲み食いするのもなんだか寂しいしなー」
「なんだか感謝が失せてきたぞ……」
「まあそんなわけで割り勘にしようぜ、よく考えたらいつも愚痴聞いてもらってんのは俺だしさ」
「結局いつものメンバーで喋りたいだけだろ、まあ俺も適度に賑やかな方がいいけどな」
 少々腑に落ちないアールだったが、やはり賑やかな面子と気を紛らわせたほうが、この胸の突っかかりも取れるだろう。
 それにやはり、みんながいると、なんだか自分の心も一緒に強くなれるとどことなく思ったので、結局みんなを呼ぶ方向で話は決まった。
「じゃあ俺これで帰るよ、まだ考えることはあるけど、いろいろとスッキリした、ありがとう」
「また何かあったらまた愚痴こぼしにこいよ、俺はいつだって暇だ」
「そんなんでよく単位大丈夫だったな……」
「うるせえ! じゃあまたな」
 そう二人は挨拶しあうと、各々の帰路へと歩みだしていった。
 帰りの道で彼は、自分は家族よりも友達の方にずっと恵まれているんだな、となんとなく思っていた。
「そんなこといったら母さんとアードに悪いか」
 少し微笑しつつも、彼は家路を急いだ。












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