幻夢抄録―目覚め―4章;休息(1/2)縦書き表示RDF


幻夢抄録―目覚め―4章;休息
作:維月十夜



幻夢抄録―目覚め―恋心


始めは、固くとげとげしかった氷魚も、今では、すっかりうち解け、気安くなった。
瑪瑙も、少なからず、彼女に興味を持っていた。
「っくしゅん!」
夜の静寂を、氷魚のくしゃみが破った。
「なんだ、風邪か?」
干し肉を、噛みきってから、瑪瑙が聞く。
「そうかも知れない…」
「大丈夫か、熱は、ないか?」
「ん〜、熱は、ないと思う」
額に手を触れて、笑ってみせる氷魚。
「俺の、貸してやるよ…少しは、暖まるだろ?」
「ありがと、あったか〜い…でも、あんたが風邪ひいちゃう」
「平気だ、これくらい」
「ふーん…」
二人の間に、しばしの静寂が流れる。
「氷魚」
背後で、瑪瑙が呼んだ。
「なに?」
「その…あのな、くそっ!何て言えばいいか分かんねえっ」
「ちょっ、ちょっと瑪瑙!?あんたこそ、熱あるんじゃないっ、カオ真っ赤よ?!」
「大丈夫だ…」
次の瞬間、氷魚は、背中に温もりを感じて、身を固くした。
「めの、う?」
「こうすれば、もっと暖かいぞ」
瑪瑙は、氷魚の背中を、抱き締めていた。
氷魚は、思った。まさに、熱が出てしまいそう、とはこの事だ。
もの凄く、顔が、熱く感じるのはなぜだろうか?
「ちがう、違うんだよ…そんなことが、言いたいんじゃねぇ、俺さ、氷魚が、好きだ」
「瑪瑙…」
氷魚は、ふと異界―‐人間界で、過ごした日々を、思い出していた。
それが、なぜか、随分昔のことのように思えて、可笑しかった。
(そう言えば…向こうで、こんな気持ちになったことなんて、あったっけ?)
「お前さえよければ、このままでいてやるよ」
「うん、ねえ、瑪瑙…あたしの兄さんって、どんなヒトだったの?」
「ん〜…そうだな、お人好しで、まじめで、俺と違って…器量よしかな」
「前にも言ったけどさ、あんたも、充分男前だよ」
言った、氷魚の顔は赤い。
「そう、なのか?」
「まあね、あたしの周りに、瑪瑙みたいな人、いなかったし」
そう言って、氷魚は、目を閉じた。
「どうした、眠いのか?」
「瑪瑙…暖かくて、すごく落ちつく。心臓の音が、一つに溶けたみたいで」
その時、薄水色の地平に、一条の光が走る、夜明けだ。
また、一日が始まる、砂漠越えの、厳しい旅が。
「さあて、そろそろ動きだすかぁ」
瑪瑙は、氷魚の背中から離れると、縦に伸びをした。
「ありがと、瑪瑙。これ、返すね」
氷魚は、瑪瑙に外套を手渡す。
「氷魚」
「なに…」
呼ばれて、振り向いた氷魚は、引き寄せられると同時に、唇に、温かい感触を感じて目を見開いた。
瑪瑙の顔が、すぐ目の前にある。唇を、奪われたのだ。
「なっ、め、瑪瑙…?苦しいって!」
突然のことに、氷魚は、目を白黒させた。
「…りたい、氷魚、お前を守りたい」
「え…」
『守ってやる』ではなく、『守りたい』
「ありがと、なんか、恥ずかしいけど…嬉しい」
「なあ、もう一回していい?」
「やっ、やだっ、なに言いだすのよ!」
氷魚は、瑪瑙を突き飛ばす。
「ってぇなあ、ま…いっか。一回できたし」
「もうっ、調子に乗ンなっ!」
「氷魚」
「なによ!また何かする気?」
「ちーがうって!あれっ、あれ見てみろよ!」
瑪瑙は、そう遠くない地面を、指さしていた。
「な、なに、あそこ…色が違うっ、砂漠が切れてるんだわ!」
「行くぞっ氷魚!」
「うんっ」

 二人は、走り出す、砂漠を抜けて踏んだ地面には、苔と、丈の短い、下草が生えていた。
「防風林、みてぇだな」
「うん…足元が、ふかふかしてるぅ」
進むにつれ、細かった道は太く、整備されたものに変わった。
「車輪の跡…ヒトが住んでるの?」
氷魚は、屈んで、わだちの土のかけらをつまんだ。
「いや、まちがあるんだ。行こうぜ?ここがどこだか、確かめないと」
「あ、瑪瑙ってば…まってよー」

5章:休息

 足早に歩きながら、氷魚は、瑪瑙に話しかける。
「ねえ、このまちから、瑪瑙の村までって、どのくらいなの?」
「そうだな、この呂山ろさんから、歩いて一日だ」
「呂山…変わった名前ねえ」
今、二人は、衙の大通りに立っている。氷魚は、周りを見まわしながら言った。
衙は、どちらかというと中華風で、去年、友人と行った、中華街を思わせた。
「すごいのね、いろんな店が並んでる…なんか、お祭りみたい」
楽しそうに言う氷魚に、瑪瑙は、片眉を上げた。
「ん、じゃあ見ていくか?」
「ほんと!?」
「ま…いつまでも、そんな格好じゃ、過ごしにくいだろ?夜は特に」
「え…そういえば、そうだった気もする、けど…もう慣れちゃったから、忘れてたわ」
(へえ…結構、細かいトコ見てたんだ)
「ここんとこ、ずっと厳しかったからな、息抜きだ」
言い終えたとき、隣にいたはずの、氷魚が、どこかに消えていた。
「氷魚ッ!?ったく、なんか大人しいと思ったら!」
瑪瑙は、人群れを縫うように進み、走り出した。

 その頃、氷魚は、人波に流されるまま、進まされ、やっとの事で、流れから抜け出せたはいいが、瑪瑙と、はぐれてしまっていた。
「マズイ、これって…迷子ってヤツ?」
そのとおりだ。相変わらず、人通りは激しい。氷魚は人群れに、目を走らせて瑪瑙を捜すが、見つからない。
『迷子になったときは、動かないのが一番』というが、黙っていても、なにも始まらないような気がして、ならない。
短絡に考えた末、再び氷魚は、人混みに飛び込んでいった。
(動いていれば、瑪瑙に会えるかも知れない!)
同時、瑪瑙も、氷魚を捜して、走っていた。
(くっそぉ…俺としたことが!氷魚っ、どこだ)
「チッ!」
瑪瑙は、屋根に跳び上がると、再び走り出した。

 「やだなぁ…なんか、アヤシー雰囲気、こりゃ、引きかえ…きゃっ!」
「っと!気をつけろっ」
「ご、ごめんなさい」
角でぶつかったのは、茶髪の男だった。年の頃は、瑪瑙と大して変わらないように見える。
内心、氷魚は『そっちこそ、気をつけやがれ!』と毒づいた。
「おい」
行こうとした、氷魚の腕を、男は掴む。
「な、なによっ…ちょっと離してよ!」
「ここが、どこだか分かってンだろ?それとも、迷子か?」
腕を掴まれ、暴れる氷魚に、男はニヤリとした。
「うるさいわねっ、放さないと、蹴るわよ!」
「おっと、気ぃ強いなぁ…気の強い女は好きだぜ、大人しく、こっちこい」
「やだってば!ちょっと、こらっ」
(うんわ、息くさい!不っ細工なツラ、近づけるんじゃねぇよっ、やめろ、このっ)
氷魚は、必死に憤りをこらえていたが、ついに、堪忍袋の緒が、音をたてて切れた。
「やめろって言ってンだろがっ、このゲス野郎――――!!」
氷魚の怒声と、その後に、何かを殴打する音が、路地裏に響いた。
「いたっ!氷魚…裏かっ」
二、三軒、屋根を飛び越えてから、着地すると、瑪瑙は走る。
「氷魚――‐!」
「あ、瑪瑙」
「あ、じゃねぇだろうが!散っ々捜したんだぞっ…大丈夫か!?なにも、されなかったか!?」
瑪瑙は、氷魚の双肩に、両手をあてがう。
「見てのとおりよ、酔っぱらいに絡まれちゃって…あんまりしつこいから、靴で殴ってやったけどね」
氷魚が、つま先で示した先には、男が伸びている。
「こいつかっ、この!」
瑪瑙は、酔っぱらい男を蹴り上げると、吐き捨てた。
「行くぞ!こんなとこ、長居したくもねぇっ!」
「うん…」

                          5章 完
 












ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




TOP | NEXT


小説家になろう