決戦‐カレーライスの作り方縦書き表示RDF


決戦‐カレーライスの作り方
作:後藤詩門


時は、料理戦国時代。

今まさに、戦いの火ぶたが切って落とされようとしていた・・・


「殿、どうかそれがしに一番槍をお命じ下さいませ!」

ハウス家の若き侍大将、玉葱が吠えた。

「ご覧下され、敵の油軍は鍋を焦がさんばかりに、熱く燃えておりまする! もはや突撃あるのみ。どうか、どうかそれがしに一番槍を!」

すると・・・

ハウス家当主になり代わり、参謀の人参が決起にはやる玉葱に答える。

「玉葱よ、お主に一番槍はまだ早い。機は熟しておらぬ」

赤い顔に似合わず落ち着いた声の人参。

常に冷静沈着なこの男の言葉は、ハウス家の家臣達に一目も二目も置かれていた。

しかし・・・

この度は、いつもと様子が違う。

「お言葉ではござるがな、人参殿」

話に割り込んできたのは、老臣ジャガイモである。

「このいくさ、どうやら長丁場になりそうじゃ。玉葱殿の出陣、早ければ早いほどようござるぞ」

「し、しかし、ジャガイモ殿」

人参は渋い顔。

その時、老臣ジャガイモを援護するかのような別の言葉が、他の家臣からおこる。

「それに玉葱殿は、熱すれば熱するほど味が出てくる男でござる。早めの投入も理にかなっておりまするぞ、人参殿」

それはハウス家一の勇者、牛肉の一言であった。

「牛肉殿・・・」

グラム980円の牛肉の言葉は重い。

ついに、人参も自説を引っ込めるしかなくなったようだ。

「う、うーむ・・・よし分かった、承知じゃ」

力強くうなずく人参。

信頼する参謀人参のその姿を見るにおよんで、それまで沈黙を保っていた当主、ハウス・ジャワ・カレーがついに発言した。

「それでは玉葱、突撃せよ!」

「ははー」

こうして、玉葱部隊は鍋中央へと進んでいった。

鍋の中には今か今かと油達が待ち構えている。

「ふふん、よう熱しておる」

玉葱が小馬鹿にしたようにつぶやいた。

ぐらぐら煮えたぎる油を前にしても、怯えた様子は全くない。

さすがは、歴戦の勇者。

このごにおよんで、怯むことなど決してなかった。

「突撃じゃー」

その掛け声と共に、ハウス家侍大将、玉葱がその一族郎党引き連れてナベの中に突入していく。

「うおおおおおおお」

「あちちちちちちち」

「し、しみるう〜」

瞬く間に阿鼻叫喚の様相を呈する鍋の中。

玉葱部隊は見る間に敵の油に焼かれていった。

思ったよりコンロの火力が強いようだ。

「た、玉葱〜」

高台にあるまな板から、いくさの様子を見守っていた重臣達が思わず声をあげた。

だが・・・

心配むなしく、玉葱部隊はもはや原形をとどめない。

「無念じゃあ、玉葱・・・」

老臣ジャガイモが、悲痛な声を発した時にはもう・・・

玉葱部隊の最後の一人はこげ茶色に染まってしまっていた。

「敵討ちじゃあ!」

さっきまで、若い同僚の壮絶な戦死にうちふるえていたジャガイモが叫んだ。

そして、ハウス家当主の御前に進み出る。

「殿!」

「なんじゃ、ジャガイモ?」

「時は今でござるぞ! それがしに出陣の下知を下さりませ!」

「な、なに・・・?」

無茶な事を言うと、ハウス・ジャワ・カレーは思った。

ここはいったん、油の熱が冷めるのを待つが定石。

傍らの参謀、人参の目もそう語りかけているように思える。

されど・・・

彼は、再びこの老臣の目をジッと見つめる。

根は優しいが頑固な老人、ジャガイモ。

彼のその目は、燃え盛る松明の炎のようである。

脅えも、おののきもない。

ただ固い決意を秘めた男の目。

「後悔はせぬな?」

「無論でござる!」

その言葉に、当主は一つため息をついた。

またしても、有能な人材を危ないめにあわせねばならぬ憂いのため息である。

だが、すぐに気を取り直すと、威厳を込めてこう命じた。

「ならば・・・ジャガイモよ、出陣せい!」

「はっ、ありがたき幸せ!」

こうして・・・

老臣ジャガイモは戦場に向かって走り出したのである。

たちどころに、鍋についた彼は玉葱以上に勇敢であった。

躊躇なく油の中に滑り込むと、こう言い放つ。

「やぁやぁ、我こそはハウス家の臣、ジャガイモである! 腕におぼえのある油は出てきて我と戦え〜!」

まるで、イノシシみたいな猪突猛進。

そのぼうじゃく憮人な態度に、油達も手を焼いているようだ。

こうして、一皮むけた白いジャガイモ軍団は、縦横無尽に暴れまくったのだ。

「我々を玉葱部隊のように、簡単に焼かれる野菜だと思うなよ〜」

軽口をたたきながら戦うその姿は、毘沙門天もかくやと思えるほどだ。

実際・・・

彼の部隊は強かった。

鍋に敷かれた油の熱は、彼らの表面は焼けてもその中身まではなかなか届かない。

「わははは、恐れ入ったか?」

ジャガイモの高笑いが戦場に響いた。

だが・・・

多勢に無勢。

長い時間はかかったが、ついに彼の部隊の半数はコゲ始めていた。

「く、くそ〜、これまでかぁ!」

さすがのジャガイモも、なかば諦めかけたその時だ。

どどどどどどどどっ!

群れをなしてナベの中に飛び込んできた軍勢があった。

「あ、あれは・・・人参殿ではないか!」

「ジャガイモ殿、助けに参ったぞ」

ジャワ家参謀、人参のであった。

あっという間に鍋を席巻する赤い軍団。

「これで、しばらくは時が稼げよう!」

「おお、ありがたい」

こうして・・・

ジャガイモと人参の各部隊は、ナベをところ狭しと駆け巡る。

それはまるで・・・

赤と白のシンフォニーであった。

さて・・・

人参とジャガイモの二つの部隊が、ナベの中に展開していたころ。

ジャワ家一の勇者、牛肉がその出番をうずうずしながら待ち構えていた。

「それでは、殿。行ってまいります!」

「うむ、さすがはグラム980円の高級牛肉じゃ!」

その勇壮な姿にハウス家当主、ハウス・ジャワ・カレーも頼もげにうなずいた。

「ジャガイモと人参を頼んだぞ!」

「お任せあれ」

ついに・・・

主力の牛肉が登場したのだ。

台所のボルテージは最高潮に達する。

「どりゃあ! 我こそは牛肉なりぃ! 油どもめ、ワシをこんがりキツネ色に焼いてみぃ!」

「あ、あれは?」

「うむ、間違いなく牛肉殿じゃ!」

「者共、牛肉殿の援軍がきたぞ!」

「今じゃ、押し出せぇ〜」

おおおおおおおおお!

こうして・・・

鍋の中で最後の決戦が幕を切って落とされ、ハウス軍はいくさを有利に進めていった。

ジャワ家の全ての具材が投入された、鍋の中はすっかりいい匂いだ。

油はハウス軍の具材を焦がすまでには至らず、逆にその力を利用され部隊を美味しく変えていく。

そして・・・

「今じゃ、水を入れよ!」

ハウス・ジャワ・カレーの命により、大量の水が投入された。

戦いは佳境に入ったのだ。

そう、煮込みの時間である。

こんがりキツネ色に焼けた玉葱も。

ほくほくとなったジャガイモと人参も。

さらには、表面をカリッと焼きあげた牛肉も皆、気持ちよさそうに湯につかって煮込まれている。

もはや油の姿はどこにもなかった。

しばらく・・・

グツグツと穏やかな時が流れる。

途中、お玉で鍋の中のアクを取るのをお忘れなく。

さぁ・・・

いよいよカレールゥの出番だ。

そう!

ハウス・ジャワ・カレーの出陣である。

「うおりゃああああ」

気合いを入れてナベの中に飛び込むハウス家当主。

お玉でかきまぜながら、数十分煮込みます。

カレーのいい香りがしてきましたよ。

ついに・・・

完成です!

鍋の中には・・・

美味しそうなカレーがたっぷりとあります。

さあ、ご飯にかけて召し上がれ!







いや・・・

今日はナンで食べるんだけど?

だったらカレーライスになんねぇじゃん!

いつの間に、ナンとか焼いてたんだよ?

そっちの作り方を知りてぇわ!



‐完‐














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう