獄旅 ―ごくりょ―PDFで表示縦書き表示RDF


獄旅 ―ごくりょ―
作:洸淋寺 凪


 今日は夏休み明けの始業式。夏休み感覚が抜けていないのか、なんだか体が怠い気がする。現在東西線中野行きに乗っているオレはしばらく眠る事にした。学校は高田馬場から乗り換えて目白に行く。そしてこの電車はさっき浦安を通過したばかりだ。寝過ごしてもまだ間に合う時間である。安心して寝よう。



「落合〜落合でございます。お忘れ物なさいませぬようにお気を付け下さい」
 やばい!やはり寝過ごした。そう思い目を開けたが既に遅かった。ドアは閉まってしまった。
 ふとオレは車内に違和感を感じた。人が誰ひとりいないのだ。
 たまたまだ、と思いこもうとするがやはり気になる。隣の車両も調べてみた。しかしやはり誰もいない。
「次は終点地獄〜地獄〜」
 地獄!?中野じゃないのか?オレは荷物を投げ捨て、運転席へダッシュした。
 運転席に向かうまでもやはり人っ子一人いない。やがて次の車両で運転席という所まで来た。
 オレは勢いよくドアを開けた。
「運転手さん!」
 思わず叫んだ。
「おや、まだ人が乗っていたか・・・・・」
 運転手さんは振り向きもせずに言った。
「中野じゃないの?」
「君は罪を犯してしまった」
「罪?」
「そう、地獄へ来るという罪を!!」
「どうして?オレは好きでこんな所に来たんじゃ・・・・」
「閻魔様にどうされる事か・・・・・・・・」
 どうやらオレは本当に地獄へ向かって進んでいるらしい。
「引き返して下さい」
「無理だ」
 何故?今ならまだ・・・・
「ここは一方通行なんだ」
 今はそんな事を気にしている場合じゃない!オレは無理やり運転手からハンドルを奪い取り、電車を止めた。
「まてーそこの電車!」
 ふと外から声が聞こえた。
「か、隠れて!地獄警察です!」
「け、警察!?」
「いいから!」
 オレはハンドルの下の狭いスペースに押し込められた。
 ガラッと音がして扉が開いた。
「おい、今何故止まった!」
「す、すいません!ちょっとボーっとしてしまっていて・・・・・」
「まあいい!気をつけろよ!」
 そういうと再びガラッという音がして地獄警察は出て行った。
「さぁ、もう出て来ても大丈夫ですよ!」
 地獄警察の気配を完全に感じなくなったのを確認し、運転手は言った。
「ふ、ふぅ」 ついこんなため息が出てしまう。
「で、どうすんだ?逃げるか死ぬか」
「そりゃあ死にたくは無いですよ!」
「じゃあ逃げるか?」
「はい」
 しかしどうやって?今見た所この地獄には地獄警察というポリス達がいるようだ。そうやすやすとは逃げられないだろう。
「逃げる方法が一つある」
「何ですか?」
「姫神の祠へ行くんだ!」
「姫神の祠?」
「そう、姫神の祠とはありとあらゆる場所に繋がっていて自分の行きたい場所を念じるとそこに繋がるのさ」
「で、何処にあるの?その姫神の祠って所は?」
「閻魔様の家の・・・・後ろ」
「えぇ!?」
「しかたがないだろ!それしかないんだから!」
「でも・・・・閻魔様って・・・・」
「あぁ確かに閻魔様は恐ろしい。それに無差別に人々を殺して行く!しかし逃げるにはこれしか無いんだ!」
「夜中なら地獄警察も見張って無いんじゃないの?」
「無理だ!地獄警察は二十四時間制の警察だ!ちなみに時給六千円と高給料だが少しでもへまを外すと直ぐに死刑だ」
「あなたは、閻魔様が嫌いなのですか?地獄の人なのに・・・・」
「えぇ」
「ではあなたの名前を教えてください!いつまでもあなたじゃ変なので・・・・あ、ちなみにオレは・・・・・」
「花菱 聯!ハナビシ レンだろ?ちなみにオレは玖劉 簾だ!レン同士だな!」
「クリュウ レン・・・・ってかなんで僕の名前知ってんの・・・・?」
「閻魔帳には全ての人間の名前が乗ってるんだ!」
「へぇ〜・・・・」
「まぁいい、オレの事は花菱君って呼んでいいかい?君は玖流と呼んでくれればいい!それじゃぁ早く姫神の祠へ行こう!」
「はい!」


「ここは血の池だ!」
「血の池!?」
 オレはよく本などにある地獄の血の池の風景を思い出す。しかしこれは本なんかにあるような血だけの池とかいうレベルものではない!これは一言で言うと肥溜め状態だ!長く言えば本なんかにあるような血だけの池に腐敗した死体が浮かび所々にグロテスクな物体がバラバラになって浮かんでいる。水死体ドザエモンの如く血死体になってブヨブヨになって打ち上げられているのも・・・・・とにかくグロい。
「渡ろうか、花菱君!」
「わ、渡るって何でですか?」
「泳いでだけど?」
「こ、この中を?」
「そう」
「ボートか何かは・・・・・」
「無い」
 即答だった・・・・
「・・・・・・・・」
 玖劉さんが冷たい視線を送ってくる。
「はいはい、分かりました!泳ぎますよ!」
「よし、入るぞ!途中で溺れそうになるかもしれないが決して死体には触れるな!触ったらそれが最期、地獄の果てに引きずり込まれてしまう」
「でも普通に泳いで当たっちゃいますが・・・・」
「いや、地獄の果てに引きずり込まれてしまうのは精神的に弱っている時、すなわち溺れそうになっている時だ!つまり金鎚で無い限り溺れる事はまずない!この血の池は見た感じだとかなり広いが実は二十五メートルもないんだ!」
「分かりました」
 そしてオレはザブンと血の池に飛び込んだ。

 体が重い。そう感じ始めたのは泳ぎ始めてからそう長くはなかった。 次に違和感を感じたのは血の池の中間地点位でだろうか、誰かに足を掴まれているような重みがでてきた。
「あ、足が・・・・」
 思わず声に出てしまった。
「気にするな!それは足の血液濃度が濃くなっているだけだ!」
 玖劉さんはもう向こう岸にいる。
「急げ!」
 オレは我武者羅に泳ぐ事にした。

「ふ、ふぅ・・・・」
 ようやく岸に着いた。
「閻魔様の元へ行くまではもっと厳しい試練があるし、地獄警察に出会う可能性もある!ま、よく頑張ったよ!」
「ど、どうも」
 お礼を言うとオレは不思議な事に気が付いた。
「あ、あのぅ」
「ん?なんだい?」
「あの血の池の中を泳いだのにどうして服が汚れないんですか?」
 そう、あの血の池の中を泳いだのに何故かオレのワイシャツは真っ白、湿ってさえいない。
「それは簡単さ!」
「簡単?」
「そう、花菱君は地獄に肉体が来れない事を知らないのかな?」
「本にある限りの事なら・・・・」
「君の読んでいる本の事はよく分からないけど多分ほぼ同じだと思う!だからいいね?」
「は、はぁ・・・・」

 話しながら歩いているうちに次の試練(?)にたどり着いた。
「針の山だ」
「見れば分かるよ」
 今、オレの目の前には巨大な針の山が立ちふさがる。しかしオレの知る針の山と違う所があった。オレの知る針の山は全体が針から成り立っている物だがこれはモンブランから横向きに針が不規則に複数突き出ているものだった。
「これを登るんだ!」
「の、登るってどうやって!?」
 そう聞いた時にはもうすでに登り始めていた。
「簡単さ!アスレチックだと思うんだ!」
 上を見上げるともう頂上にいる。
「今回は血の池より楽だと思うよ!」
 頂上から声を張り上げて喋っている。
「分かりました!」
 そしてオレは嫌々登る事にした。

 確かに、今回は血の池よりもすんなり行けた。まだ四、五分しか経っていないのにもう中間地点を通過している。
「花菱君!後ろ!」
 オレは言われた通りに後ろを向くと、下の辺りを地獄警察がウロウロしている。まだ気付かれてはいないがこのままだとヤバイ!
「隠れろ!」
 玖劉さんはモンブランのようなこの山を掘っている。

「ふぅ助かった・・・・・」
 頂上に着いたオレは胸をなでおろした。
「あぁ、でも花菱君は降りなければならない事を忘れてないかい?」
「そうだった・・・・・」
「ま、降りるのは簡単だから大丈夫だけどね・・・・」
「そ、そっか・・・・よかったぁ」

 針の山を終えたオレ達は次の試練に向かって歩いていた。
「さて、後は残り二つとなった・・・・」
「やっと半分か・・・・」
 やがて洞窟の前へ着いた。
「さ、中へ入るぞ!」

 洞窟を進むと途中で二つに分かれている道へ着いた。
「どっちですか?」
「左」
「なんで?」
「人間は二つの道があると左に大体進むんだ」
「へぇ」

 左の道を進んでいるとやがて行き止まりに着いた。
「いたぞ!」
 後ろを向くと地獄警察が一人いた。
「花菱君、ここは私が引き受ける!」
「く、玖劉さん!?」
「いいから!」
「でも・・・・」
「行け!!」
 オレはダッシュで地獄警察の脇をすり抜ける。
「あ、待て!」
 地獄警察が追いかけて来る。しかしオレは振り向かない。無我夢中に走り続ける。
「おい!」
「なんですか!離してください!」
 後ろの方で玖劉さんと地獄警察が言い争っている。しかしオレは振り向かないし戻らない。戻ったらオレのために犠牲になってくれた玖劉さんに悪い!だからオレは絶対にこの地獄から脱出する!やがてオレはさっきの分かれ道へ着いた。そしてさっきとは逆の方向へ進む。すると段々と明るくなってきた。
「で、出れた・・・・」
 しかし目の前には一本のロープがかかった深い谷底・・・・・・
「これを渡れってのかよ・・・・・」
 しかし今になっては引き返せない。
「行くぞ・・・・・」
 ゴクリとつばを飲み込み恐る恐るロープに足をかける。ぐらりとロープが揺れる。
「・・・・・」
 恐ろしさのあまり声が出ない。
「つかまって行くか・・・・・」
 オレはしっかりとロープにしがみつく。そして手の力で進んで行く。
 オレは元々運動神経のいい方ではない。どちらかというと勉強の方が得意である。なので中学は私立の学習館中等部に入ったし、部活だって数研(数学研究会)に所属している。
 そんなオレが今まさに運動真っ最中なのだ。

「うっ・・・・」
 三分の一位で腕が厳しくなってきた。
「もう・・・・駄目」
 オレは手を離してしまった。
「あぁ〜〜〜〜」
 ガシッ・・・・おそろおそろ目を開けるとそこには玖劉さんの顔が・・・・・無かった。
 落ちる落ちる、そして落ちる・・・・・
「おわったな」

「起きろ!おい起きろ!」
 耳元で声がする。
「・・・・・・玖劉さん!?」
「よ、」
「ここは・・・・・?」
 オレは豪邸のような場所にいた。
「ここは私の家さ」
 こんな家のある玖劉さんって・・・・・
「私が閻魔さ」
「!?」
「じゃぁ・・・・」
「帰してあげるよ!君の世界へ」
「どうしてオレを連れて来たんですか?」
「オレは・・・・・暇だったんだ」




 やけに空気を感じる。
「次は〜高田馬場〜高田馬場〜!」
 車内アナウンスが聞こえる・・・・
「帰った!」
 思わず声を上げ周りの乗客に冷たい目で見られた。
「おはよ!聯!」
 後ろから同じクラスの奴が肩を叩いて来る。
「今日って新任の先生が来るらしいぜ!」
「新任の先生?」
「あぁしかも副担任らしいぜ!オレ達のクラスの!」

 そして学校に着き、オレは新しい先生とやらに胸を膨らましていた。
 やがて担任の春哉が教室に入ってきた。
「今日は新任の先生を紹介する!先生、どうぞ」
「はい」
 教室の後ろの扉が開いた。
「こんにちは、今日から副担任を勤めさせていただく玖劉簾と申します!よろしくお願いします!」
 オレは唖然としてしまった。














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