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メンタリスト 作者:むらもんた
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川瀬 省吾 8

ーー翌朝ーー

 目を覚ますと茜が何か作業をしている。
「おはよう省ちゃん。見て見て!」

 そう言って茜はカレンダーらしきものを見せてきた。

「あと60日?」

 1番上の紙には【あと60日】と書いてあり、星やハート、赤ちゃんの好きそうな可愛いイラストが沢山書いてあった。

「光の日めくりカレンダーだよ。丁度予定日まであと60日だから、作ってみたの! 毎日めくると会える日がなんだが楽しみになるでしょ」と優しく微笑んでいる。

「可愛い。これなら毎日楽しく待てそうだわ! 早く会いたいなぁ」と笑顔で返した。

「早速1枚めくらなきゃだけど、今日は省ちゃんがめくって」

 茜が日めくりカレンダーを俺の目の前に差し出してきた。

 ビリビリっとカレンダーをめくると、【あと59日】と書いてあるページに変わり、そこには可愛い赤ちゃんがお腹の中で寝ている絵が書いてあった。

「おぉ可愛い! 本当に早く会いたすぎる!」と言って大きく膨らんだお腹を撫で、光の居そうな部分にキスをした。

 これ以上ない幸せを感じていたが、同時に怖さも感じていた。
 もしも人生における幸せの量が、一定だとしたら、俺は今その幸せを全て使い果たしてしまっているのではないか。この先に何かが待ち受けているのではないか。そんな気持ちも抱えていた。


 不安な予感は的中する。

 見たことのある番号から着信がきた。
「ちょっとごめん。仕事の電話だからでるね」

 そう言って部屋の外に出て電話にでると
「もしもし笑顔の民の田中です」と電話の向こうから声がした。

 電話の相手は宗教団体【笑顔の民】の教祖、田中篤だった。

「もしもし川瀬ですが、どうしました?」と渋々尋ねた。

「あらら? どうしました? 声が冴えませんね。私からの電話は嬉しくなかったですか?」

 皮肉交じりに言ったその言葉からは、嫌な依頼がくる前触れを予感させる。

「そんな事ないですよ。ただですね、僕もう裏の仕事はしないって決めたんです。申し訳ないですが、依頼ならお断りさせて頂きます」と依頼をしにくいよう牽制した。

 だが、教祖にはそんな牽制は通じなかった。
「そうですか。噂では聞いていましたが、やはり裏の仕事はもうしていないんですね。では最後の依頼をしたいと思います」

 俺の発言を無視するかのように教祖が言った。

「いやすみません、聞いてました? もう裏の仕事はしないって決めたので、最後の依頼も受け付けれません」

 教祖が無茶苦茶な事を言ってきたので少し強めの口調で断った。

 俺の言葉を聞いた教祖が、予想外の言葉を口にする。
「断っていいんですか? きっと悲しい事になると思いますねぇ。婚約者の佐伯茜さんでしたっけ? お腹に赤ちゃんもいるんでしょう? 事故とか事件に巻き込まれたら大変ですよねぇ」

「!?」

 教祖の言葉に足がすくんだ。俺個人の事を調べ上げることくらい、こいつからしたら造作もない事で、事故や事件に見せかけて殺害する事すら可能だという事を再認識した。
 そしてさっきまでの幸せを失うと思ったら、恐ろしくて仕方なかった。

「茜とお腹の子には絶対に手を出さないと約束をしろ」と声を震わせて言う。

「もちろんですよ? 川瀬さんが依頼を受けて、成功させてくれれば茜さんとお腹の赤ちゃんには一切手を出しません。約束しますよ。それに報酬もしっかり払いますよぉ」

 淡々と話すその様子から、全て教祖の思い通りに事が進んでいると感じた。
 いくらメンタリストといえど、人質を取られてしまえばただの人だ。相手に利用されてしまうこともある。
 それに元を辿れば俺が興味本位で裏の世界に足を踏み入れたのが間違いだった。そのツケが今になって返ってきただけだった。

「それで、何をすればいい?」

「ある人物を、人を殺害するよう誘導して下さい。あの論文を書いたあなたら可能でしょう?」と言ってきた。

 本当に何から何まで調べ尽くされている……
 あの論文とは、俺が大学の卒論で書いた論文の事だ。

 【多重人格者は意図的に作り出せるか?】という内容で俺は卒論を書いた。様々な文献や資料を調べ、また実際の多重人格者への取材を繰り返し行う事で、1つの結論に辿り着いた。
 【多重人格者は意図的に作り出せる】
そして実証はしていないが、どのような性格の人格を作り出すかすら、メンタリストの俺なら可能だと予測できた。


「……分かった。だが最低でも2週間は時間が必要になる。そこは理解してもらいたい」と答えた。

 茜とお腹の赤ちゃんを人質に取ってきた時点で、人の命に関わる依頼だと予想出来た。
 それで茜とお腹の赤ちゃんを守れるなら俺に迷う余地はない。世界中の全てを犠牲にしてでも2人を守りたかった。

「手段や期間は問いませんよ。では明日の午前9時に足立区にある〇〇マンションの201号室に来てください。詳しい話はその時にしますので」

 そう言って電話は切れた。

 電話を終え部屋に戻ると
「仕事大丈夫?」と茜が心配そうに聞いて来た。

 あまりの電話の内容に、自分がどんな表情をして部屋に戻ったか分からなかったが、茜が心配するような表情をしていたというわけだ。

「大丈夫だよ。数社を対象にした営業セミナーで、ちょっと大きな仕事が入ったから、明日から2週間くらい少し忙しくなると思うけど心配しなくて大丈夫だからね」と心配する茜を安心させた。



 そして翌日、メンタリストとして最後の仕事が始まった。

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