僕は紙くず
この作品はテーマ小説です。今回は「紙」をテーマに書いています。「紙小説」と検索すれば素晴らしい作品に出会えます(^O^)/それでは、月小説に続き暗い話ですがお楽しみ下さい!
部屋の隅っこにある青色のゴミ箱。そこに向けて、紙くずを投げる。
ポト……
しかし、ゴミ箱には入らない。いつも壁に当たってしまう。
もう一度投げてみよう。
ポト……
また壁に当たった。ゴミ箱までそんなに遠くないのに、何で入らないんだろう?
僕は溜息を一つ吐いて、ベッドから体を起こし散らかった紙くずを拾う。
そして、くしゃくしゃになった紙くずを右手で撮み、左手でライターを点火させる。
「アハハ……燃えちゃえ。不要になった紙なんて燃えて灰になっちゃえ」
外からサイレンの音が聞こえてきた。とてもウルサイ耳障りな音だ。こんな時間に迷惑だなと思ったが、非常識な奴が何かしでかしたんだろう。まっ、非常識だから仕方ないか。
「熱いな。サイレンに気をとられていて、火が指先に触れたじゃないか」
チッと舌打ちを鳴らし、マガジンラックに立てられている雑誌をギュッと掴み、勢い良くフローリングの床に叩きつける。
僕を誰だと思っているんだ。火傷するじゃないか! と繰り返し叫びながら。
「ハァ、ハァ……僕に逆らうと痛い目を見る。覚えておけよ? じゃないと、怒りの矛先はお前に向けられるんだからさ」
荒い息を吐く。僕はあまり体を動かさないから、ちょっとの事ですぐ息が荒くなる。てかさ、体を動かしたら疲れるし汗出るし嫌なんだよね。
「さてと。そろそろ掲示板に書き込もうかな。馬鹿な奴等しかいない世の中だから、俺が色々教えてやらないと日本はダメな国になっちゃうしね」
僕は自分が思っている事を書いてるだけだ。なのに、コイツらは何も分かってくれない。折角僕が無知なお前らに色々言ってあげてるのに、何だよこの扱いは。
「荒らしは帰れ。お前はどうせ一人ぼっちの寂しがり屋。キモス。何威張ってんだよ、ハッキリ言ってウザイだけ。何考えてるか分からないのはそっちでしょ。早く死んでくれたら平和になるのに」
わざわざテメーラの為に貴重な時間を使って僕が有り難い言葉を書いているのに、何で俺は悪者になるんだよ。ふざけるな。
「畜生……」
外から騒がしい声が聞こえてきた。ドンドンとドアを強く叩く音が聞こえる。何か叫んでいるが、僕には関係ない事だから無視。
マジでさ、これ以上邪魔だけはしないでね。
「お前らこそ死ねや。何がウザイだ、何が荒らしだ。あぁあぁ、イライラするな! ムカムカするな!」
僕は興奮すると、自分をコントロールできなくなる。誰かを傷つけたり物を壊したりした後、自分でやった行ないに気付く。
だから、今の僕を止める事は不可能なんだ。
「死ね! 僕に逆らった奴は全員死んでしまえ! アハハハハ、死んじゃえ! 死んでしまえ!」
気付いたときには、右手にバットを持っていた。そして、思い切り振り回して色んな物を壊している。
止めようと思っても止められない。こうする事でしか怒りを静める事は出来ない。
「アハハハハ、パソコン壊れちゃったよ〜。そ、そんな所にあるから壊れちゃうんだよ」
大きな音が下から聞こえ、ドタバタと何人もの足音が響いてきた。音は次第に大きくなってきて、そこでようやく僕は落ち着いた。
「ハァハァハァ……。僕を疲れさせないでよ」
床に飛び散った教科書、壊れてしまったパソコンやTVや冷蔵庫、ゴミ箱の側の紙くず。僕はその光景を見回してその場に座り込んだ。そして、涙を流した。
「僕は何も悪くないんだ。僕は何も悪くない。僕は良い子なんだ。悪い子なんかじゃないんだ」
そう呟いていたら、ドアの向こうから声が聞こえてきた。
『高志! 鍵を開けてくれない。そんな所にいつまでもいては駄目なの。だから、部屋からでようね』
ドンドンドン!
「お母さん……何で、そんな事言うんだよ?」
手足が震えて背筋に寒気が走った。
『聞こえてるでしょ? 返事ぐらいしてよ、お願いだから。これ以上お母さんを、家族を苦しめないで!』
ドンドンドン!
「皆僕を悪者にする。唯一信じていたお母さんまで、僕を悪者扱いする……」
心臓の鼓動は益々早くなる。
『もう貴方が何を言っても息子さんは出てこないでしょう。もう、無理矢理連れていくしかありませんね』『何でこんな事になったのよ……私が、何かしたの? あの子がオカシクなったのは、全部私のせいだって言うの?』
何だよ。コレは何なんだよ。連れていく……何処にだよ? 無理矢理……結局はそうなるのかよ。
『奥さん落ち着いて下さい。貴方がここで諦めたら、息子さんはどうするんですか? 唯一信じているのはお母さんなんですよ』
『そうよね。もうあの子には私しかいない……。ここで諦めたら、二人に申し訳ないわよね』
ドンドンドン!
「お母さん。信じて良いんだね。こんな僕だけど見捨てないでくれるのは、お母さんだけだよ」
この時の僕は、笑っていた。僕にはお母さんが、勇者に見えた。暗闇の中に閉じ込められている僕を、助けにきてくれた勇者……。
カチャッーー。
「ごめんなさい」
お母さんを信じて、鍵を開けた。ゆっくり開けられるドアの向こうに、お母さんの姿があった。そして、
「尚志。さぁ、そこから出て来なさい。辛いかもしれないけど、お母さんも一緒に頑張るからさ」
そこには笑顔があった。
「うん。わかったよ」
涙を手で拭い部屋を出た。ーーハハ、警察の人の言葉をスッカリ忘れてたよ。
暗い。視界が暗い。
僕は部屋を出た後どうなったんだ?
『それにしても残酷な事件だった。高校生の長男が、父親と妹を殺して母親を自殺に追い込んで、最後には自ら……』
何だよこの声は。何処から声がするんだ?
『そりゃそうなるでしょ。長男は閉鎖的で、自己中で、精神的にもおかしくて、自分だけの世界に閉じこもって、それからーー』
やめてくれ。それ以上何も言うな!
『マジで? さぞかし家族は大変だったでしょうね』
ウルサイ。黙れ黙れ黙れ。僕を怒らせると、痛い目を見るぞ!
ーーーー
部屋を出た瞬間、警察の人が僕を囲んだ。
そして、殴られ、蹴られ、ボコボコにされた。
「もうやめて下さい。お願いですから……」
お母さんは泣き崩れながら、何度も呟いている。
「アレは犯罪者なんですよ。罪を犯した者は、あれぐらいやられるのが当然でしょう。……足らないぐらいですけどね」
頭が痛い。だんだん視界が暗くなってきた。
ーーーー
突然視界が明るくなった。目の前には大量の紙くずが部屋に散らばっていた。 そして僕は、手枷と足枷がはめられていて身動きがとれない状況だった。
「一人でそっちの世界にいるのは淋しいでしょう。だから、尚志もこっちにきなさい」
お母さんは、不気味に笑いながら僕の頭を撫でて、部屋を出た。
「少し熱いかもしれないが、我慢しろよ。俺達はあっちで待ってるから」
僕に何かの液体をかけた。そして、無表情で部屋を出た。
「じゃあ、私もそろそろあっちに行くね。ここにいたら、燃えちゃうからさ」
紙くずをライターで燃やし、満面の笑みで手を振り、妹は部屋を出た。
「ちょっと待ってよ! 火を消してよ! こんなに紙くずがあったら、火事になっちゃうよ。誰でもいいから僕を助けてよ! どんどん燃え広がってるから早く助けて! 熱いのは嫌いなんだ、汗をかくしーー」
メラメラと燃える炎は、ちっぽけな僕を熱く包んだ。そして、不要になった紙のように灰になったーー