八十九編
聞いた話。
道路には何もない。誰かが何かを置いたりはしない。
置いたとしても気がつけばそれはどこかに消えている。
誰がそれを片付けているのだろう。
ある夜、道路の真ん中を男が自転車で通っていると何かにひかれた。
自転車は宙を舞い、男は体を地面に強く打ち付けた。息が止まるかのような激痛。
虚ろな意識で辺りに首を這わす。しかし、後ろにも前にも車らしきものは一切なかった。
ただ物が腐るような臭いと野太い笑い声だけが夜道に響いた。
どういうことですか、と私が聞くと老婆は言った。
「百鬼夜行の群れにひかれただけだよ、その坊ちゃんは。子供のときに道の真ん中、通るなって言われなかったのかねえ」
道の中心というのは人ではなく、神々やそれに類するものの通り道なのだという。
老婆は鬼を見なかっただけ運が良かったといった。
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