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  私の話。 作者:
五編
 私の話。
 
 昔住んでいたアパートは今のアパートよりも不気味な雰囲気だったが特別変な体験はなかった。
 もし唯一あったとしたらこの話だけだと思う。
 
 私には姉以外に兄が二人いる。
 普段、寝るときは三段ベットの真ん中を活用していた。窓の風が入り、夏は上の次男より熱くなく、冬は下の長男より寒くない。
 快適といえば快適だったのだが私には一つ悩みがあった。
 それはベットのすぐ横、長男の勉強机の一番上に積まれた日本人形。
 人形は埃を被ったガラスケースに入れられていて、黒い日本的な鎧をまとい、髪を結っていた。
 部屋は明かりを消すと完全な暗闇になるため、小さなライトを灯していたのだが、それに照らされるぬるりとした白い顔は普段以上の不気味さを私に見せた。
 どう隠れようにも位置的に必ず目に入る場所にそれはあった。
 故に私が兄にその人形を捨てるように懇願するのは必然だったように思う。
 しかし、私のお願いに兄は笑って言葉を濁すばかりで、まともに取り合ってくれなかった。
 
 それからだろうか。私は毎晩、人形に殺される夢をみた。
 暗闇の中、家をまたぐことも容易そうな巨大なあの人形が私を追ってくる。相変わらず表情はのっぺりとしているが、無機質な目は常に私を捉えていて、その視線には殺意があった。
 私は必死に逃げる。喉がすっぱくなり、脇がズキズキと痛んでも走る。だが結局最後は人形の太刀が私の胸を突き、視界を真っ赤に染めた。
 悪夢にうなされ、目が覚めた頃、あの人形が視界に入る。
 微笑を浮かべたあの顔。
 それ以来、私はその人形のことを悪くいうのをやめた。人形はないものとして生活した。
 不思議とそれから、悪夢を見なくなった。
 
 そんなことがあってから数年経ち、私は兄と会うことになった。
 とりとめのない世間話から、話題は当時住んでいた家のことに変わった。思い出したかのように私はあの人形が気持ち悪かったという話を兄にした。
 すると兄は少し戸惑うようにしてポツポツと語った。
 兄は小学生の頃、私と同じように人形を気持ち悪いと思い、人形のケースを家の外、つまりベランダに置き去りにした。すると毎晩その日から人形に殺される夢を見るようになった。
 さすがに怖くなり一週間後、その人形を部屋に戻したところ、ぱたりと悪夢を見なくなったのだという。
「起き上がるとベランダの直ぐそこに人形があってな。母さんも父さんも夜いないだろ? そんでお前ら寝てるし頼れる人間がいなくて、心が折れたんだよな結局」
 一番下のベットにしたのも人形が視界に入ってこないようにしたかったからと兄は笑った。
 私はその時、笑みを浮かべながらぞっとしていた。
 何故ならきっかけは違えど、次男もまたその人形に殺される夢を見ていたというのを知っていたからだった。
 兄弟三人同じ人形に殺される夢をみた。
 偶然だと思いたい。
 
 私は未だに夢ことを兄に話すべきか悩んでいる。
人形は引越しの時に業者が片付けたと聞いた。もしも残っているとしたらどこでどうしているんだろう、と思う。

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