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  私の話。 作者:
二十九編
 聞いた話。

 友人と電話しているとよく、周りが煩くて声が聞こえないといわれることがある。
 私の周りは人もいないし、テレビもつけていないのにも関わらず、だ。
 友人は何を聞いているのだろう。そして私の周りには何がいるのだろう。
 何が何を私に知らせようとしているのだろうか。

 彼女は引越して来て早々奇妙な現象に悩まされていた。
 毎晩、それも決まった時間に不可解な電話が携帯に掛かってくるのだ。
 最初はバラエティ番組の笑い声が聞こえ、次に洗濯機の終わりを告げるチープな電子音が聞こえ、最後にごんとくぐもった音と水の中で息をしているようなゴポゴポという音。
 昔からの友人であり隣に住んでいるSにそれを相談した。
 電源を切っても何故か掛かってくるのだと。
 通話を押していないのに勝手に通話になるのだと。
「大丈夫、何かあったら力になるから! 壁も薄いし、何かあったら直ぐ駆けつけるよ!」
 社交辞令かもしれなかったがその言葉が彼女は嬉しかった。
 彼氏と別れてまだ間もないはずなのにSはそんなことを感じさせないほど明るかった。
 しかし、そう喜んでも毎晩掛かってくる奇妙な電話は少しずつ彼女の心を蝕んだ。
 電話の相手に罵声を浴びせたこともあったが一向に効果は無い。
 ある日、彼女は相手が何を伝えたいのかを確かめることにした。
 電話に耳を傾け、目を閉じる。
 男の吐息が聞こえるならそれでもいい。少なからず目的が分かり安心できる。
 しかし、聞こえるのは変わらない環境音だけだった。
 何がしたいんだろう相手は。
 そう思った。

 辟易していた彼女はその日、テレビをつけてその電話を待った。
 直ぐに電話は着信を知らせた。彼女は画面を確認することなく慣れた手つきで通話ボタンを押す。
 今日の通話もどうせ同じような内容だ。
 笑い声が聞こえ、洗濯の音で、最後にゴンという音とゴポゴポいう音。
 そこでふっと既視感を覚えた。今テレビで会場が沸いた。電話の向こう側でも一歩遅れて会場が沸く音。
「え、これって」
 近くに相手はいるってこと?
 いや違う。
 これは、そう、未来予知のような……。
 洗濯機がチープな音を発した。暫くして奇妙なゴンという音とゴポゴポいうような音が聞こえるはずだ。
 少し待てばその先のことが分かる。
 だが、言い知れようのない嫌な感覚が背筋を伝った。彼女は携帯を握り締め、直ぐにその部屋を出た。
 焦燥に駆られるような違和感があった。
 Sの部屋の戸を叩くが寝ているのか、そもそもそこに居ないのか、明かりがついていなかった。ドアノブを捻るも鍵が掛かっている。
 一人でいることが耐えられない彼女は顔見知りの管理人に声を掛けた。直ぐに相手は訳を聞き、部屋まで来てくれた。
 ついでにSにも連絡を入れようと携帯電話を見た。
「え?」
「どうしたんですか?」
 電話の着信はSからだった。ディスプレイには通話中という文字が浮かんでいる。
 訳も分からず彼女は電話を耳にあて、語りかける。
 しかし、反応は無い。
 Sの部屋のドアノブを捻った。鍵の掛かっていたはずの扉が開いた。
 電気をつける。
 後ろにいた管理人が悲鳴を上げた。
 Sが死んでいた。

 犯人は別れた彼氏だった。
 復縁を望んだが断られたので、その腹いせに殺したのだという。
 Sは携帯を彼女に掛けることは成功したがそれだけだった。頭を床に強く打ちつけ、胸と腹を滅多刺しにされて死んだのだ。
 ゴポゴポという音は彼女の喉から聞こえた血の音だった。

「もっと早く気がついていれば……」
 彼女は今でもあの時の音が電話から聞こえるような気がするのだという。

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