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  私の話。 作者:
百九編
 私の話。

 文章で見るとつまらない怪談話というのは多い。
 しかし、不思議なことに口頭でそれを伝えるとなると途端につまらない話も恐ろしく思える。
 その違いは何だろう。

 百物語をした。
 全員で五、六人はいたと思う。いや、確かにいた。
 私は途中参加だった。呼ばれた理由は「意外と百話埋めるのは大変。お前なら数を埋めてくれるだろう」という呆れた理由だった。

 雑に脱ぎ捨てられた靴の中に私の履物を脱ぎ捨てた。持ち主が誰かは知らないが、平屋で古い造りの家。
 玄関を上がって直ぐの部屋にみんながいた。部屋のぬるい空気と酒の匂い。部屋の中心には小さな蝋燭の火。当然それ以外の明かりはなかった。蝋燭の頼りない灯りのせいか廊下の方が明るく思える。

 私はそこで三十から四十ほどの古典的な怪談話をした。中には昔話と呼ばれるようなものもあった。みな、ビールや缶酎ハイをすすりながらただ黙って話を聞く。
 途中途中に別の人間が別の話を挟んでくれた。蝋燭の灯りが弱いのと、大半が知らない人間ということもあって、誰が話しているのか殆ど分からなかった。

 百話目に差し掛かったところで一人の女性が次は自分が話をすると名乗りを上げた。私はアルコールによってボケた頭で暗闇から聞こえる声に意識を傾けようとした。
「あ……でもその前にトイレいい?」
 だめだというものはどこにもおらず、彼女は静かに襖を開けて、トコトコと廊下を歩いた。キイっと蝶番の軋む音が聞こえ、バタンという戸の閉まる音。
 私達は彼女を待った。しかし、待てども待てども彼女は来ない。
 暗闇の中からぽつりと誰かがいった。
「……ねえ、なんか変じゃない? だってさ、あの子がトイレ入ってから結構時間経ってるよ」
「トイレで寝てるのかも」
 酔っ払った私は確かそんなようなことをいった気がする。
 様子を見に行こう、ということになり一旦、部屋の明かり灯された。明かりを入れた彼は不思議そうな顔をした。
「全員……揃ってる?」
「どういうこと?」
 対面に座る目の縁が黒い女がいった。私もどういう事だろうと顔を上げる。
「いや、だから、呼んだ奴は全員揃ってるんだよ」
「だからどういう意味?」
 不思議そうな、かつどこか引きつるような顔で彼は口を開いた。風もないのに蝋燭の火がブワリと揺れたのを私は感じた。
「さっきの女……誰だ?」

 トイレには誰もいなかった。彼は何度も執拗に別の奴を呼んだんだろ、と私達に聞いた。しかし、誰一人首を縦には振らず、また私達は大半が初対面どうしだったので“別の誰か”が紛れていることに気づけなかった。

 暗闇の中にいたもう一人の語り部の姿をみたものは誰一人いなかった。

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