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  私の話。 作者:
一編
 私の話。

 私がそれに気がついたのはそのアパートに引っ越してきてから暫く経ってからだったと思う。確かにどこか鬱蒼としたものを感じなくはなかったが、ここまでのものとは思っていなかった。
 そのアパート、というのはうなぎで有名なこの町のはずれにある。外観は古くも新しくもなく、平成前後の中途半端なデザインとくすんだ白い概観が印象的だった。
 間取りは部屋が全部で四つ、3LDKの普遍的なもの。室内の壁は一面白く覆われていて、床はフローリング。唯一違うのは畳の和室だけ。
 私と母(今は家を出たが当時は姉もいた)は一階の一〇一号室に住むことになった。母が「本当に静かな場所」といっていたのがいやに記憶に残っている。
 確かに静かな場所だ。
 近くには子供の時にうんざりするほど行った博物館がある。それがある為か、住宅が密集している為か、はたまた森や木々が多い為か、異様にこの辺りは静まり返っていた。
 家は多いはずなのに人を見ることも子供の声も聞こえない。そんな場所。
 
 そんなところだからこそ、それがあったというべきなのかもしれない。
 ある日、私は自分の部屋で作業をしているとドタドタと何かが走り回る音を聞いた。最初は飼っている猫が廊下を走り回っているのだろうかと思ったのだが、どうにも違うらしい。猫はこんなにもテンポの悪い音を立てて走ったりはしないし、猫の走りにしてはやや遅い。
 そう思っている間にも音は何処かを行き来する。
 どっどっどっどっ。
 私は少しして上の部屋の人間が何かしているのだということに気がついた。そういえば子連れの夫婦が大分前に引っ越してきていた。そう思うと脳裏に子供が一歩一歩踏みしめながら走っている姿が脳裏に浮かんだ。子供特有のよく分からない理由で奇妙なことをするアレだと思った。それならしょうがないと納得し、私は作業に戻る。
 ふと気がつけば音は止まっていた。母親にでも怒られたのだろうかと思った。
 そこで、私は自分の考えに驚いた。
 何故私はそう思っていたんだ?
 何故私は上に人が住んでいると思っていたんだ?
 既に知っていたはずじゃなないか。
「先月、引っ越したんだ……」
 その夫婦はこのアパートに来て三ヶ月ほどで引っ越したのを思い出した。
 やけに早い引越しだと思っていたが、これはまさか。
 そう思うと鳥肌が全身を駆けるのを止めることが出来なかった。ただひたすら太ももの辺りからぞわぞわしたものが走る。そして自分の住んでいるその場所の入れ替わりの激しさの理由に気がつき、戦慄した。
 私の住んでいるアパートは俗にいう “いわくつき”だったのだ。
 
 私はまだそのアパートに住んでいる。

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