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文学フリマ参加作品

RED PARADISE

作者:持垣秋行
 ピンク色の桜は若葉色の芝と馴染んでいて、透き通る川の表面にそれらは映る。枝木の端に咲く桜の花びらは風に乗って舞い降りて、羽のように影の方と水面に触れ合い、一つになり、波紋を作り出した。数え切れない花びらが水面に漂うのを眺め、頬に沿う涙が流れる。

 この光景を、一体何時から見られなくなったのだろうか。



 人類の前に現れ、自称神の使者の「彼ら」は、世界の終わりを告げた。
 彼らは、聞いたことの無い罪を数えた。人々はその正体の知らず存在を怖がり、身体を震わせながら彼らの話を聞いていて、受け入れるしか何もできなかった。
 そして使者たちは言い放った。

 「世界は、一千年後に終わりを迎える」

100年目
 世界の各地に現れた「神の使者」、彼らの言葉に、世界は混乱した。しかし、それはたった最初の数年にすぎなかった。
 「あいつらが言うのは嘘だ。本当だとしても千年後私達はもういないさ」と言う。そう安堵した人々は、使者らのメッセージを、段々と忘れてしまうのだった。私だけは忘れていない。そんな私の言葉を聞いてくれるのは、この桜の木だけだ。
 世界はいつもに戻り……100年目までは安泰だ。

 世界を再び恐怖に蹴り落としたのは、終わりに近付いているというメッセージ、それは終わりを告げられた日から100年目のことである。
 人間の棲息する地表の一部――およそ十分の一が、闇に飲まれたのだ。元々あそこに築かれていた国も丸ごと消され、入る者は誰も二度と会えることはない。その闇と言うものが、地面と空を繋ぎ、辺境から眺めると、巨大な黒い柱と彷彿させる。
 人々は恐れ、「黒柱こくちゅう」から遠ざかるようになった。



200年目
 地表の一部が消えるとは言え、僅かな影響だけを与えたことで、世界の働きに大した変わりはない。それは恐らく、私を除いて、人類は「使者の忠告」を忘れたのだろう。
 桜の木は、私の話を聞きながら、風の中に枝を軽く揺れ、桜を澄み渡る川の水面に漂わせる。誰も踏み込まないここは、私の理想郷だ。

 そんな日々は200年目まで続けられた。しかし、200年目になると世界は大恐慌に陥ったのだ。人類はまた十分の一の土地はを失い、つまり、地表二割は、「黒柱」の中に送り込まれていった。土地減少、一部の資源は取れなくなってしまい、各地の衝突は起きた主な理由となる。
 かつての「理想郷」も、渦巻に飲み込まれていく。



300年目
 人間は過ちを繰り返す。再び「神」からのメッセージを忘れ、偽りの繁栄を見せていた。
 そして300年目。世界は、三割の土地を失った。

400年目、500年目……。



600年目
 世界の半分は黒柱に侵蝕された。危機感を持ち始める人々は、残った世界の主導権を奪うために、戦争は勃発ぼっぱつした。
 災難の中、私は唯一の居場所である桜の木の木蔭で一休みをする。冷やした何かが私の顔に零れ落ちる何かで、目を覚めた。
 仰いでみると、梢に小鳥たちはもういない。木の端に花はもう咲かない。川は汚される――桜の木は、泣いている。

 理想郷は、死んでゆく。

700年目
 いよいよ世界戦争になった。人口激減により戦争に参加できる人間も少なくなり、戦死する人間もかなり減ると考えるだけが救いだ。
 だがそうと言っても、ここ、私の理想郷も戦争の巻き添えになったのだ。

 透き通るはずだった水面はいつの間にか濁って、花びらも消えた。それを色付けたのは、赤だ。生気のない草木はとうに枯れた……、私の桜の木(とも)も免れず。赤を流れる私の理想郷は、恨みと憎み、欲望と絶望を語っている。
 ……だが、私は、ここから離れることはない。

 世界は、二割だけが残った。

800年目
 黒柱現象と世界戦争による、人口は700年前の四分の一。高技術の現代では、生き残った人間の生活をよくするつもりでいる。だが、もう遅いのだ。人間は殆ど全てを失ったからだ。
 この星から離れよ、と唱える輩もいるが、どうやら現代のテクニックでは無理そうだ。移動するためにも、百年もかかると言われているのだ。その間、どこから黒柱が起こるかわからない。
 人々は、祈祷し始める。「宇宙船」の計画も始動されたのだ。
 眺めれば遠くないところには真っ黒な壁がある。その黒い壁は、空を狭くし、いつか自分たちを食い尽くそうで……。

900年目
 スペースシップ・プロジェクト(宇宙船計画)は失敗。何故と言うなら、九つ目の「黒柱」は、広大な製造場と実験室を蝕んだのだから。
 人々は絶望に陥る。
 私は桜の木の横にいようと決めた。最後の最後まで……。

1000年目
 目の前は真っ黒だ。
 世界は終わった。
 神の言った通りに。

 軽く、小さい声で、曲が流れる。私は暗闇の中でそれを聞かされた……。ああ、天国だろうか。歌は断たない。私は、ゆっくりと目を開ける。すると眩しい光が溢れる……。
 桜の木の横に、私は座っている。生き生きとした草木を風は吹く。歌は断たず。
 透明な水面に桃色の桜の花びら。魚たちはそれを遊ぶ。歌を歌い続ける……。

 夢でも見たのか、私の視界は模糊となった。

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