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この乙女ゲームは死亡フラグが多過ぎます。  作者: 天音 神珀
episode.2    この乙女ゲームは容赦ない死亡フラグが多過ぎます。
153/167

50.chapter ◆

「えっとその……恋愛系のお話なら書け……いえ、恋愛のお話を書きたいなと!」


 危ない! 「恋愛のお話ならかける」なんて、書きたくないけど書くとしたらこれしかないとでも言っているみたいだ。絶対にイメージダウンする。それだけはまずい。


「れんあい……恋物語?」


 言い換える必要はないと思います。


「女の人が、主人公?」

「あ、はい、そのつもりで……」


 男が主人公の話なんて、思いつきもしないからね! ほんと、自分のセンスのなさを恨むわ。


「ハッピーエンドか、バッドエンドかは、考えた?」

「あ、バッドエンドで」


 ……。


 ……何即答してるんだ!


 普通の女の子ならハッピーエンドを望むよね!? 書くにしたって「そうして結ばれたのでした、めでたしめでたし♪」みたいな感じで、ハッピーエンドを描く筈じゃない!? どんなに支離滅裂な内容でもわざわざバッドエンドで締めくくる女子高生ってあんまりいないよね!? 変だよ!


 でも何ていうかほら自分がこんな理不尽な運命の中にいるのにお話の中ではいつでもお姫様が王子様に求婚されてイチャコラしてハッピーエンドなんて何かアレじゃん何か無性に腹立つじゃん何で私だけ恋愛のゲームの中にいてこうもハッピーエンドに廻りあわないのとかねもう色々考えちゃって!


 ごちゃごちゃ言ったけど簡潔にまとめよう、つまりはハッピーエンドは書きたくありません!


「失恋……もの?」

「いえ、主人公がお……」


 お亡くなりになられる。


 いや駄目だこれ。完全に自分の体験談だよ。しかも恋人じゃなくて自分が死ぬんだもんね。どんな終わり方か逆に興味が湧くわ。

 あ、私みたいなことになるのか。これなら書けるかも。

 ……でも悪印象しか与えないよね。


「主人公が、お?」

「えー、お引越しするんです」


 話の筋に何の関係が!!


「お引越し……、遠距離恋愛、っていう、感じ?」

「そうそう鋭いですね神楽坂先生!」


 なるほどそう言う手が!

 うん、遠距離恋愛の破局物にしよう。……結局失恋ものだな。


「やっぱり失恋ものになるかもしれないです」

「遠距離恋愛……長続きしないって聞いたことがある」


 あぁそれは私も聞いたことがある。


 ……うん、段々構成が思いついてきた。



『大好きよ』

『僕も愛してるよ。でも引っ越さなきゃならないんだ』

『大丈夫、遠く離れても私は貴方を愛してるわ』

『僕もだよ。毎日手紙を書くよ』

『無理しないでね』

 1年後。

『テメェ毎日どころかあれから今まで一回も手紙寄越さねぇじゃねえかよ。しかもこの前一緒にいた女、あれは何だあぁああん? 私というものがありながら、私というものがありながらぁァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』

『待て誤解だ! 彼女とはもう別れた!』

『結局浮気してんじゃねぇかよふざけんなよあぁいいよもうわかったよこうなったら一緒に心中してやんよ』

 BADEND。



 ……。ドロドロだ。


 女の人って怖いね、もうこれじゃ化け物だよ。上から7行目の女性の言葉の最後の方とかもう既に人間離れしてるし。鬼女だよヤバイ方向に走り始めてるよ絶対。しかもこれ最後無理心中だし。なんて後味の悪いお話なの。っていうかこれじゃ男が主人公じゃない。引越してるの男の方だし。


 あでもでも、少しは成長したと思わない?

 ほら、前は開始4行で終わりを迎えてたのに、今回は4行越えてるよ!


 ……誤差ですねごめんなさい。


「いずちゃんは遠距離恋愛……したことある?」


 ゼリーを完食して、結構冷めた紅茶に口をつける。


「いえ、ありません」


 そもそも恋愛は正直どんな形であれご勘弁願いたいです。


「先生は?」

「ない」


 うん判ってた。判ってた。


 ここで「あるよ」とか応えられたらプレイヤー側が唖然とすると思うもの。

 「この能天気そうなこいつに恋愛? ははっ、なんかの冗談だろ」、みたいな。


 でもね、役立たずっていう言葉がちらっと頭の隅を掠めたのは許して欲しい!


 ……はぁ。もういい加減櫟と話すのも疲れてきたし、話をそろそろ打ち切ろう。


「私……とりあえず頑張って書いてみます。それで書けたら、先生に見ていただいても……いいですか?」


 多分殆ど私じゃない人間が書いた小説だろうけどね!!

 今回は誰に手伝って貰おうかな……


「うん。いずちゃんの小説、待ってる」

「ありがとうございます!」


 私は微笑み、飲み干した紅茶のティーカップを床頭台に置いた。「ご馳走様でした」と頭を下げた。そしてそのまま立ち上がり、保健室の入り口のほうまで歩いていく。

 扉に手を掛け、退室しようとして――しかしその時。


「いずちゃん」


 優しく呼び止められる。また「頑張れ」だの「無理しないで」だの言われるのだろうか。

 しかし櫟はそう思っていた私の予想を裏切って、こう言った。


「……気をつけて、いて」


 ……え?


 気をつける……?



 しかし振り返った私に櫟は何も言うことなく、私は結局そのまま保健室から出たのだった。







「気をつけろって、……なに?」


 そう呟いて部室に帰ろうとした時、床に妙なものを見つけた。


「なにこれ……灰?」


 人差し指ですくってみると、煙草の匂いが鼻をつく。


「……こんなところで煙草吸ってた奴がいるの?」


 保健室前だぞここ。何でこんな所に。

 今は私たち以外いなかったけど、誰か気分悪くて寝てたかもしれないのに不謹慎な奴だ! 教師だな! 配慮しろバカ!


 あー臭い!






 ……なんて。


 そんなものに捕らわれていたから気付けなかったのだろうか。







 私を見つめている、複数の視線に。

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