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これ、王子命令。

『つまり私は、この方の杜撰な魔術で作ったゴミ箱に落ちたと言うことですか?』

 この方とは、私の右手を砕かんばかりに握り締めてくる銀髪野郎のことである。

『クー曰く、異世界に通じるような魔術じゃなかったんだって』

 銀髪野郎の愛称はクーらしい。たぶん呼べるのは王子だけだろうけど。

『…えっと、なんでしたっけ。しあ…』

『シア・デュアハンね。それに魔術実験で出来た危ないものとか失敗作を捨てることの出来る空間をクーは作らせていたんだよ。ある程度の大きさが出来たら、中のゴミが危なくないように、シア・デュアハンに自然消滅する魔術を施してあったはずなんだけど…』

 王子が笑みを絶やさないままチラリと銀髪野郎を見た。銀髪野郎は口を引き締め、顔を硬くしたまま微動だにしていない。何も考えていないのか、防いでいるのか、彼の心はなにも入ってこない。

『そのシアさんが消えずに空間を作り続けて、私の世界と繋がってしまったと…』

『そんな穴に君は落ちたと言うことだね』

 ちなみにシア・デュアハンは人じゃなくて人形だから、敬称は必要ないよ。

 王子は私の顔を見て、楽しそうに笑う。初対面で短剣を突きつけてきた人とは思えない豹変っぷりだ。

『そう?僕は王族だから、あの対応は仕方ないと思うよ』

 やべ、ちょっと頭で考えること自重しないと。でもまぁ、

『そうですよね…王族たるもの、暗殺に備えて危機管理が必要ですよね…』

 今考えると私が生きてるのって奇跡に近いよな…。

『で、君は一番大事なことを聞かないの?』

『はい?』

 バチ

『い!』

 間抜けな顔を晒していたのか、手を繋いでいるのに顔に電撃が走った。

 最早躾の域に達していると思うんだ、この電撃は。

『自分の世界に帰ることは出来ますか?ってすぐ聞くと思ったんだけどなぁ』

『あぁ、なるほど…』

 表情を一つも変えなかった銀髪野郎は、そこで初めて眉を上げた。

『帰りたくないの?』

『いえ、なにやら帰してもらえるような気がしていたと言いますか…』

 帰れない気でいなかったと言うのが本音だ。

『うん、聞こえてる』

『やだー、王子ったらー』

 バチン!!

『うっ!』

『こらこら、クー。女の子相手だから』

 まぁ見えないけど。

 聞こえてる、聞こえてる。王子、漏れてるから。

『それでね、帰るまで少々時間が掛かりそうなんだ』

『え?どうしてですか?』

『彼のシア・デュアハンは、君が落ちたあと結局消滅してしまって。しかもご丁寧に君が来た道を塞いでから消滅したんだ』

 自分のしたことの間違いに気がついたのか、他の異世界に繋がっていたところもせっせと修復してから、魔術どおりに消滅してしまってね。

『探すのに時間が掛かるんだって』

 そうだよね、クー。

『…殿下の意に沿えず申し訳ありません』

『ま、僕はこのシャクとちょっと遊びたいし、問題ないかなぁ』

 シャクっていう呼び名にそろそろ慣れないとな。たぶん、王子だけじゃなくて他の人もおそらく“さ”を発音できないと思うし。

『王子、ところでそれはどれくらい掛かりそうですか?』

『うーん、どうだろ。クーの作業の進行具合によるよ』

 でも、クーは宮廷魔術師で引っ張りだこだからなぁ…。ちょっと時間掛かるかも。

『他の魔術師さんはどうなんでしょう』

『クーほど頭がよくて魔力がある人物がいないから、まず君の世界を探すことは出来ないんじゃないかな』

『なるほど…』

『で、だ。僕はクーに罰を与えようと思ってね』

『で、殿下?』

 銀髪野郎の顔に始めて焦りの色が浮かぶ。

 なんだ、そんな顔も出来るんじゃないか。

『彼女が落ちたのはお前の失態だ、クーラドヴォゲリア』

『返すお言葉もございません…』

 真面目な顔をする王子は、やはり王族。威厳があるというか…怖いです。

『お前には…』

『どんな罰でもお受けいたします』

 王子はにっこりと笑い、私は銀髪野郎と一緒に顔を引き締めた。

『お前には、彼女の教育係になってもらう』

『『は?』』

 私と銀髪野郎の声が被った。

『シャクには魔力がないから、お前がいないと会話すら出来ない。と言うわけで、帰るまでに彼女に言葉とある程度のこの国での一般常識を教えることを命ずる』

 これ、王子命令。

 と語尾にハートが付き添うな甘い声で命令された。

『で、殿下。お言葉ながら、私が教育係をする事になりますと、彼女の世界の捜索に回す時間が減ることに…』

『彼女に非はないのに、言葉が不便なままこの国に置いておく訳にはいかないだろう』

『……しょ、承知いたしました』

 銀髪野郎の顔は、見たこともないほど歪んでいた。よっぽど嫌なのだろう。

『シャクは王族の客人として招くから、衣食住には困らないよ』

『えっと、お言葉ですが、その、ここにいる間、私、働いても大丈夫ですか?』

『…それをシャクが望むなら』

 王子の手を煩わせんじゃねぇって目でこっちを銀髪野郎が見てくるが、元はといえばお前のせいだろーが。

『でもシャク。なにをするつもりなの?』

 さすがに王宮を出るような仕事はさせてあげられないよ、身の保障は出来ないからね。

 もちろんですよ。言葉が不自由なまま、外に出る勇気もありませんよ。

『その、王宮ではどのような仕事がありますか?』

『えっと、下女・侍女・女官・兵士・執事・庭師…んーんー、あとなんだろう…?』

『しかし、言葉なくてはどの仕事もできません』

 王子が助けを求め、銀髪野郎を見るが、銀髪野郎は私にどの仕事もさせる気はないのか、王子の視線に対する答えは返さなかった。

 うーん、私の得意分野といいますか…唯一の特技と言いますか…それが出来るといいな。

『シャク、どうなの?』

『えーっとですね…その、マッサージ師ってのはどうでしょうか?』

 マッサージと言う言葉が日本語から彼らの国の言葉にちゃんと変換されていることを願う。

第一印象が最悪の人物に桜が恋に落ちるということで、これから現れる新キャラはみんな最悪にしてみようと思います。

最悪じゃなかった人は、恋の相手ではないと言うわかりやすいシステm(ry

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