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乙女のプライド

 そのえらくイケメンな男は私を見た瞬間顔を歪め、なにやら二言三言甲冑その1に何かを言った。と同時に、甲冑その1に腕を掴まれ、押し倒され、手を後ろに回された。簡単に言うと、映画とかでよく悪役が取り押さえられてるような感じ。

 って、流暢にいってる場合じゃない!!物凄く痛い!肩の関節は硬いんだよ!

 呻く私を無視しながら、縄を腕にかけようとしていた。がしかし、ボストンバックが邪魔だったのか、剣で肩掛けの紐(紐と呼んでいいものなのか)を切り、そばにどけていた。

 それ親父のボストンバックなのに!あああああ、怒られる…!!

 青褪める私は無理矢理立たされ、何度もド突かれながら強制的に歩かされて着いた場所は牢だったのだ。そして、何もないまま私は2日間放置されていた。

 いや、さすがに食事はあったけど。味気なかったけど。

 兵士に頭を殴られ、イライラした私はネチネチと嫌味を言い続けた。どうせ、言葉理解してないんだろ!

 私がうるさかったからか言葉はわからなくとも悪口を言っているのがわかったからか、今度は剣で格子を殴られた。がぁーん、と言う音が牢屋全体に響き渡り、私はそこで口を噤んだ。



 不貞腐れ小汚いベットで横になり、うとうとし始めた頃、足音が廊下に響き渡った。

 ご飯!!

 私は勢いよく飛び上がり、格子まで走り寄った。格子を掴み、ぐぐぐぐと顔を最大限まで近づけて外を見る。階段から降りてきたのは、ご飯を持った兵士ではなくあの銀髪野郎だった。

 ご、ご飯じゃないのか…。

 なんて軽く絶望していると、バッチリと目が合ってしまった。物凄く不機嫌だったらしく、射殺さんばかりに睨みつけられた。

「!」

 チビりそうになった私は慌ててベットの上に飛び乗った。

 くそう、かてぇなこのベット!膝がいてぇ!!

 なんて思いながら膝を擦っていると、私の牢の前で足音が止まった。不思議に思って後ろへ振り向くと、案の定銀髪野郎が立っていた。

「………」

「………」

 数秒見つめあった後、先に視線を逸らしたのは銀髪野郎だった。

「―――」

 不機嫌な顔を隠さず、一言兵士に何かを言うと、兵士は慌てて鍵を取り出した。

 鍵…?

「!!」

 え、ちょ、嘘!出してくれんの?!

 パチパチと拍手していると、牢の中に入ってきた男に力加減ゼロで二の腕を掴まれた。

『喋ったら命はないと思ってくださいね』

「ひえ、頭に声が!!」

 私の悲鳴を無視し、彼はにっこり笑う。そして、私の腕を掴んでいない手を私の肩に翳した。

 バチン!!

「い゛っ!!!」

 強い電流が走ったような感覚がした。

『喋ったらどうなるか言いましたよね』

 な、なにこの人!超能力者?!

『あなたには後で色々と話すことがあります』

「話す事?」

『…頭で考えてください』

『頭で…』

『そうです。その調子でお願いします』

 馬鹿でもこれくらいならわかりますよね…ってなんだよ!私だって一応大学出てるんだぞ!ばーか!ばーか!

『馬鹿はあなたです。考えたものは全部私にわかると言うことをお忘れなく』

 うぐ、と口を噤んだ私を心底哀れに見下ろしてきた。

『ついてきなさい』

 男はそう言うと、わたしの腕を引っ張り歩き始めた。脚の長さが違うのに、前の男は自分のペースで歩くもんだから、腕を掴まれている私は殆ど転びながら走って追いかけていた。

 くっそ、イケメンだったらなにをしても許されると思うなよな!それにしてもでっかい邸だなぁ。牢から出されたって事は解放してくれるのか?

 牢屋のある塔から抜け、ズンズン城の中へ進んでいく銀髪野郎。この間一切の会話なし。

 すると、唐突に男はボソリと言葉を紡いだ。

『…あなたは≪空間の狭間≫に落ち、そして私たちの国へ落ちてきました』

『は?』

『とりあえず、先に入浴してください』

 心の声が全部駄々漏れというものは便利だね。目の前の男から、臭い。という言葉が伝わってきた。

「女子に言う台詞じゃない…!」

 私は男の手を引っぺがし、自分の体の臭いを嗅いでみた。

「くっさ!なにこれくっさ!」

 こりゃ、しかたねぇや。

  ・

  ・

  ・

 男は臭うという事実に羞恥を覚え悶える私を無視し、脚を進めた。チラリと振り返ったところを見ると、ついて来いということらしい。乙女としてのプライドを砕かれ、涙目になりながらも健気に私は銀髪野郎の背を追った。

「うぐ!!」

 辺りを見渡しながら歩いていると、急に止まった銀髪に気付かず、そのまま背中に顔面からぶつかった。ギリと睨みつけられ、慌てて体を離す。

「―――――――――――?」

「―――――」

 会話が聞こえ、男の後ろから顔を出すと、まぁなんということでしょう。素晴らしく美しく可憐な美少女メイドが笑顔で立っていた。

 こんな子をメイドにするなんて、変態が住む邸なんだなここはっ…!

 なんて思っていると、なんか変なこと考えてんなこいつって顔で、仕方なさそうに私の手を取った銀髪野郎。

『彼女、ミリティア・スヴァンがあなたを入浴させてくれます。くれぐれも欲情しないように』

 私をなんだと思ってる!変態ってか?!

 心が駄々漏れということを忘れ、憤慨していると男に鼻で笑われた。

『入浴後、殿下…いえ、皇太子様と面会していただきます。応接間にいらっしゃいます。ミリティアにその鼻がひん曲がるような悪臭を消してもらってください』

 そう言い捨てると同時に男に腕を引っ張られ、ゴミのように雑に腕を払われ、私は風呂場らしき部屋に横転した。

 くっそー!ここの人間は粗暴な奴しかいないのか!

 恨み辛みを去っていく銀髪野郎の背中に投げかけていると、目の前が翳った。

「っ」

 顔を上げると、無表情な美少女メイドが私を見下ろしていた。

 え、なに、こっわ!!ちょ、さっきの笑顔はどこいった?!

「―――――…」

 低い声で何かを言われた。

 どうせ、悪口ですよね!

 美少女は顔を歪めると、私の首根っこを掴んだ。

「ぐげっ!!」

 これリクルートスーツだから!もっと丁寧に扱って!いや、むしろ私を丁寧に扱って!

 苦しげな声をあげる私を無視し、どこにそんな力があるのか知らないが、美少女は私を脱衣所にぶん投げた。

「げほ、げほげほっ…」

 咽ている私を他所に、美少女は服を黙々と脱がしていく。

「ちょ、ストップ!」

 服くらい脱げる!!いや、むしろ一人で風呂にも入る…!

 制止の手は、物凄い力で叩き落とされた。じんじんと痛む手に気を取られていると、美少女の手は既に私のブラウスに及んでいた。

 処女じゃねーけど、恥ずかしいわ!!なんでこんな美少女に服を脱がされなきゃいけないんだ…!

 バッと開けられた胸元を見て、美少女は固まった。

「え…?」

「っきゃああああああああああああああああ!!!!」

 鋭い悲鳴に私は目を白黒させた。

 え、むしろ悲鳴上げていいの私ですよね…?

 バァン!と凄まじい音を立てて開いたドアの先には甲冑その1。

「ぅあ?!」

 般若のような形相をしていた甲冑その1は私を見ると、体を180度回転させた。どうした、と思ったが私の格好を思い出した。

 一応女として見られたのか。ちょっと嬉しい。

 なんて思いながら、私は胸元のブラウスを手繰り寄せた。そこへバタバタと足音が聞こえてくる。

 どうせ、銀髪野郎でしょ…。今度はなにで怒られるんだか…。

「はぁ…」

 溜息をついたと同時に入ってきた彼は、案の定銀髪野郎。奴は私を見ると目を丸くした。そして、慌てて甲冑その1を追い出し、気まずそうな顔で私の前で膝をついた。そして、そっと手を取られ、一言。

『あなた…女性だったのですか…』

 …ん?

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