第五話 -中編-
月夜が美しく地を照らす中。
ニューヨーク市中心部に存在する目抜き通り五番街の街道を、ルッシュ・ウィリアムズはひたすら駆ける。
疾走し続けるルッシュは、後ろを振り返る度に焦りを感じていた。
それは、サボテンの形をしたインフェルノこと、キャトスインフェルノがルッシュを追ってくるからだ。
街道にはルッシュ以外にも人は歩いているにも関わらず、キャトスインフェルノはルッシュだけを襲い、そして追ってきた。
「――何でっ! 何で私だけ追ってくるのよこのインフェルノ!」
走りながら苛立った声でルッシュは我鳴る。
だが、物言わず襲いくるインフェルノの目的など知る由も無く、ルッシュはただ逃げ続けるしかなかった。
街道を駆け抜ける中、インフェルノを見た通行人の中には、悲鳴を上げる者や、唖然とするもの、戦慄する者など、平然とした反応を取れた者は誰一人としていなかった。
「はぁっ……、はぁっ……。い、息が……」
流石に逃げ足に自信があるルッシュも長時間の疾走はきつく、スタミナは尽き掛けていた。しかしルッシュは止まる訳にはいかなかった。
止まればインフェルノに捕まり何をされるか判ったものじゃない。下手をすれば殺される可能性だってある。
――いや、寧ろその可能性が高い。
そう思うと尚更逃げ続けるべきだとルッシュは足を止めず逃走し続ける。
「――早く、早くきてよぉ――カズマぁっ! ――きゃっ!」
息苦しげにルッシュは叫号すると、同時につまずいて前のめりに倒れてしまう。
「う――いたぁ……、あっ!」
痛みに顔を顰ながらも起き上がってルッシュは後ろを振り返る。
するとインフェルノはもう眼前まで迫っており、そしてルッシュを目掛けて飛び掛かる姿が、その瞳に映った。
――やられる!
そう思いルッシュは身構え、瞼をきつく閉じた。
だが――。
「ハッ!」
突然ルッシュとインフェルノの間から人影が現れ、鋭く、そして豪快な回し蹴りをインフェルノに喰らわせた。
「ウグォッ!」
こめかみにその一撃を受けたインフェルノは、三回くらい空中で旋回して落ちると大地の上を勢いよく転る。
「――……えっ? あれっ! な、何が起きたの!」
そっと瞼を開いたルッシュは予想外の光景に目を丸くするが、数メートル先で倒れてるインフェルノと向き合うように自分の正面に立っている人影を見ると、更に驚愕する。
「――え……う、嘘っ!」
ルッシュの眼に映った人影の正体。
それはフィストにそっくりな朱い筋骨隆々たるボディの、炎を司るかのような頭部に黄色い複眼、そして他と違う形状の不思議な雰囲気を発したベルトをした。
仮面ライダーそのものだった。
「……ぶ、ブラッドなの?」
どこと無くフィストに近い形状と雰囲気を持つ謎の朱い仮面ライダーに戸惑いを感じながらも、ルッシュは恐る恐る尋ねてみた。
「………」
しかし謎の朱い仮面ライダーは返事を返すどころかルッシュに眼も暮れず、立ち上がって怒りの雄叫びをあげてるインフェルノをまるで睨んでるかのように眼を凝らし、そして駆け出した。
「――あっ! ちょっと!」
ルッシュが呼び止めようと試みたが、朱い仮面ライダーはそれを無視する。
「ハッ!」
一瞬でインフェルノとの間合いを詰めた朱い仮面ライダーは、熔岩のように真っ赤な拳をインフェルノの顔を目掛け突き出す。
二度も喰らってはたまらないと思ったのか、自分の顔に迫りくる大きな拳を、インフェルノは素早く屈み込み潜るかのように避けた。
それにより、朱い仮面ライダーの拳はそのまま街灯の柱に減り込む。
避けたことにより、後ろに回り込めたインフェルノは、刺々の拳を朱い仮面ライダーに真っ直ぐ放つ。
刺々の拳は朱い仮面ライダーの後頭部を捉え、突き刺さるかにみえた。
だが――。
「ハアッ!」
朱い仮面ライダーは大きく身体を旋回させ、薙ぎ払うかのような裏拳のカウンターを喰らわせた。
「グガッ!」
頬に入った裏拳が、インフェルノの頬にはえてる刺をへし折れながら減り込んでいく。
針のような鋭い刺すら刺さらずへし折る、まるでハンマーのような拳をまともに食らい、インフェルノはまた宙で旋回して倒れた。
「強い……」
「ねぇ、君」
ルッシュが朱い仮面ライダーの強さに息を呑んで眺めていると、ルッシュの後ろから黒髪の若い日本人の女性が声を掛けてきた。
「そんなとこにいたら危ないよ。ここはあの人に任せて逃げて」
「えっ……」
そう言うと若い女性は直ぐさま呆然としているルッシュを立たせて手を引く。
「で、でも!」
ルッシュは突然の若い女性の言動に対し、一緒に行くことを躊躇う。
すると若い女性は、
「いいから行こう。大丈夫。あの人なら、絶対に負けないから」
圧しの強い声で言うと微笑んだ。
「えっ? あなたもしかしてあの仮面ライダーを知ってるの!」
穏やかに機敏で、意味合いな物言いをする若い女性に、ルッシュは尋ねるが、
「今は邪魔にならないように離れるのが先だから、急いで」
「え! ちょっ!」
若い女性は強引に嫌がるルッシュを引っ張って、朱い仮面ライダーとインフェルノの戦う場所から遠ざかった。
ルッシュが謎の若い女性に手を引かれてる間に、朱い仮面ライダーはインフェルノを圧倒しつつあった。
「ハッ!」
朱い仮面ライダーの、彗星の如く振り上がるボディブローが鋭く決まり、呻き声をあげながら腹部を押さえ、インフェルノはまえのめりによろめく。
「ハァッ!」
更には強烈なアッパーカットが入り、インフェルノは宙返りそして地面にへと俯せに落ちた。
「……ギ………ガガギッ!」
呻きながらもやっとと言った様子でふらふらと立ち上がるインフェルノ。
体中に生えていたはずの刺は、殆どが折れてしまっていた。
「ハァァァ……」
「――?」
弱り切ったインフェルノが前方に眼を向けると、朱い仮面ライダーは拳を脇の下まで引いて、打ち出す構えに入っていた。
「っ!」
「ハアアアアッ!」
インフェルノがそれに気付く頃には遅く、灼熱の炎を纏った豪拳は胸部に直撃。更に爆発を起こす。
断末魔の悲鳴をあげて数メートル程吹き飛ばされたインフェルノは、仰向けのまま震えた右手を天に翳し、そして派手に爆裂する。
「………」
朱い仮面ライダーはインフェルノ爆死後の炎が鎮火するのを確認した後、その場から立ち去ろうとするが、同時に道路の奥からバイクのエンジン音が鳴り響くのが聞こえてくる。
「………」
徐々に音が大きくなり、そしてバイクのライトと思える光がこちらに向かって来るのを眼にした朱い仮面ライダーは、道路沿いに停めてある朱色のバイクに跨がり、直ぐさまエンジンをかけて走らせた。
――朱い仮面ライダーがバイクで走り去ってから。
仮面ライダーブレイドは数分前まで朱い仮面ライダーとインフェルノが戦っていた現場に到着した。
しかし、
「あれ?」
そこには誰も見当たらず、地面に妙に大きな人影のような焦げ跡と、拳の跡がくっきりと残った街灯の柱くらいしか変わった所は見られなかった。
「インフェルノがここにいるって聞き付けて来たのに。誰もいない……」
ブレイドは不思議に思いながらも、もう一度辺りを見回すが。
やはりインフェルノやルッシュの姿はどこにも見当たらなかった。
「……いや、まだいるかもしれないな」
そう呟いて変身を解いたカズマは、バイクから降りると辺りを走り周りながらルッシュの名前を呼ぶ。
だが、それでも返事は返って来なかった。
カズマはもしかしたらルッシュは別の所に移動したのかもしれないと思い、
「仕方ないな。他の場所を捜してみるか……」
そう呟き出すとバイクに跨がるとヘルメットを被り、そしてそのまま立ち去ろうとした。
その時、
「カズマ!」
路地裏からカズマを呼ぶ声が聞こえ、振り向くとその先にある路地裏から出て来たと思われるルッシュの姿があった。
「ルッシュ、お前大丈夫か! インフェルノに襲われたって言ってたが……」
「えっと、そのインフェルノなんだけどね……」
心配そうにバイクから降り、歩み寄りながら尋ねたカズマにルッシュは訝しげな様子で事情を説明した。
そして――。
「朱いフィストそっくりの仮面ライダーだって?」
驚きと腑に落ちない様子でカズマはルッシュに尋ねる。
そのカズマの疑わしげな態度を見て、不快そうに眉を顰たルッシュは深く頷き、
「本当よ! フィストそっくりだけど少し雰囲気が落ち着いた感じで、しかもかなり強かったわ。パンチ二発当てただけでインフェルノがふらふらだったもん!」
信じてほしいといいたげに慌ただしい様子で朱い仮面ライダーの事を話す。
「だけど、何でその朱い仮面ライダーはルッシュを助けたんだ。あとルッシュを連れて行ったとか言う若い日本人の女の人って何者なんだ?」
「私が知りたいわよそれ。その人、私を連れて逃げた後、いきなりもう大丈夫とか言って私を置いてどこかに去って行ったんだもん……」
それから――。
結局謎が判らないまま、二人は探偵事務所に帰ることにした。
そして、探偵事務所では――。
「フィストそっくりの朱い仮面ライダー? それがルッシュを助けたの?」
リビングでソファーに背もたれながら携帯電話を耳に当て、アヤはカズマから朱い仮面ライダーについて話を聞いていた。
『ああ、インフェルノと戦っていたらしいんだ。俺が現場に到着した頃には戦いは終わっていてその仮面ライダーを見ることは出来なかったけど……、ルッシュが見た限りだとそうらしい』
「……ブラッドはここで寝ているから、流石にその仮面ライダーはフィストではないわよね?」
アヤが向かいのソファーで眠っているブラッドを、横目で一瞥した後尋ねる。
『これは俺の勘なんだけど、その仮面ライダーは破壊神の半分なのかもしれない』
「そうね、その可能性が高いわね、或はワンドのような別の仮面ライダーとか……」
『……とりあえず、戻ってきたらもう一度詳しく話す』
そう言うとカズマからの通話は途絶え、アヤも通話を切って携帯電話をしまう。
「朱い仮面ライダーがどうのこうの言ってたが、何かあったのか?」
隣のソファーで寛いでいたアドが尋ねると、
「詳しくはカズマが帰って来てから話すわ」
アヤは軽い口調で返事を返し、ソファーから腰を上げリビングを軽く見て回ると、自分を見据えるアドに眼を合わせ、
「……ねえ、聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」
アヤは尋ねながら、何かに警戒するかのように一旦周囲を見渡す。
「なんだ?」
厳粛な雰囲気を出してるアヤを見てアドは、きっと誰にも聴かれたくない二人だけの時に話したい内容なのだろうと推測した。
「私がフィストと戦って危険な状態の時、あなたが助けてくれたわよね?」
「ああ、そうだな」
「……その時、最初あなたはインフェルノに変身してる私を、誰かと勘違いしていたみたいだけど、そのあと直ぐに私が人造インフェルノだって解った。……あなたは、もしかして私が変身したインフェルノや、人造インフェルノについて、何か知ってるんじゃないの?」
どうしても聞き出して知りたい。そう思いアヤは強い口調でアドに問い詰める。
成る程、話しとはそういうことか。
そう思いアヤを顰た顔付きで見たアドは、やれやれと一旦頭を振ると、
「……ああ、知ってるよ、お前の変身したインフェルノのこと、そして人造インフェルノのこともな」
「そう……やっぱり」
予想どうりと言った様子でアヤは腕を組んで思い詰めたそぶりを見せると、
「じゃあ教えてほしいんだけど――。私が変身したインフェルノ……テスタとあなたはどういう関係だったの?」
アドの隣のソファーに腰を降ろし更に聞き出す。
「聞いてどうする?」
アヤから眼を背け問い返すアドの表情は、気まずそうなものだった。
「知りたいの、どうしても」
アヤがきっぱりと答えるとアドは、
「……言いたくない」
極り悪そうに口を引き結び、腕を組んで押し黙る。
「なんで言いたくない訳?」
露骨に細い眉を顰めたアヤが問うと、
「――言いたくないものは言いたくないんだよ! 人工インフェルノについてなら答えてもいいが、テスタとの関係については駄目だ!」
つっけんどんに言い放ち、アドは不快そうにそっぽ向く。
「そんな事言わないで教えて。私は知りたいの、あなたと彼女の関係を!」
「だから知ってどうすんだよ?」
アドが横目で見据えると、暗い表情でアヤは話す。
「……あなたが彼女と深い関係なら一応、謝りたいの。彼女は、私を助ける為に、私に自分を捧げたから……」
それを聞いたアドは驚きと悲しみを入り混じらせた、複雑そうな表情を見せた。
そして間もなくアドは天井を見上げながらソファーにぐったり背もたれると、穏やかな表情で小さな溜息をもらすと、
「……そっか」
眼を細め、小さく微笑み呟いた。
「“そっか”って、あなたの友達か知り合いじゃないのテスタは……。なんでそんな……、何とも思わないの!」
そんなアドにアヤが訝しげに尋ねると、
「何とも思わない訳ないだろ。ただな……、なんか複雑な気分なんだよ」
頬を掻きながら和らげに返事を返した。
「あっ……。そう……なんだ……」
それを聞いたアヤの心苦しそうな様子を見て、溜息をついたアドは軽く頭を振ると、
「……変に罪悪感を感じるなよ」
頭を掻きながら呟いた。
「ごめんなさい……」
そう一言口にし、表情を曇らせ押し黙るアヤを一瞥すると、アドは眼を閉じて暫く黙り込む。やがて深く溜息をつくと、重く閉じていた眼を、そして口を開く。
「……恋仲だよ」
「えっ?」
「テスタと俺の関係は、強いて言うなら恋仲だった……」
思いも寄らないアドの言葉にアヤは呆気に取られてしまう。
「何だよ? インフェルノが恋しちゃいけないってか」
剥れた表情でアドが聞くと、
「そ、そういう訳じゃないけど、それほどの関係だったなんて……」
アヤはしどろもどろに首を振った。
「……でも、尚更私はあなたに謝らないといけないわね……」
悲しげ顔を俯けながらアヤはアドに眼を向ける。
しんみりとしたムードにアドは、一度鼻で笑い、
「違うんじゃねえか?」
胸の右ポケットから煙草とライターを取り出し、煙草に火を着け一服する。
「――えっ」
「俺に謝るんじゃあなく、あいつにお礼を言うべきだと思うぜ」
わずかに口元を緩め、賺した態度でアドは言うが、
「でも、あなたの気持ちはどうなるの……。あなたはそれで良いの?」
憂慮の面持ちを浮かべながらアヤは尋ねる。
「あいつの決めた事に、俺は何も言えないしな。それに、俺はあいつの自己犠牲の強いところが好きだったんだ。俺が1番判ってあげないとな、あいつの気持ち……」
そう言い煙を天井に向けてふかすと、アドは微笑んだ。その様子を見てアヤは暗い表情を露にする。
「そんな、しんみりすんなよな。だがまあ、俺の方もお前とテスタの関係やその間に何があってそうなったのかが気になるし、詳しく教えてくれないか、まあ何となくとんでもない事があったと言うのは解るんだが、ちゃんと事情を知りたいしな」
「……うん、わかった。じゃあ、私とテスタが何処で出会ったかを――」
アヤが語り始めようとしたその時、
「できましたぁー! 皆様大変お待たせしました! 腕に掛けて作った料理。沢山食べて下さぁい………あれ?」
突然のリンスの登場に唖然と眼を向けるアヤとアド。しかしリンスは気にも留めずに、
「あれ? ……カズマ様は?」
おっとりした声でキョロキョロとリビングを見渡す。
アヤは小さな溜息をもらし、アドの耳元まで寄りそり、
「ごめんなさいアド。悪いけど次の機会で話しましょう」
小さい声で告げる。
アドも溜息をついて、
「やれやれ、わかったよ」
頭を振って頷いた。
「……あの? どうしたんですかお二方」
不振に思いリンスが尋ねると、
「あ、ううん。なんでもないの」
軽く手を振りながらアヤはアドから離れ、
「カズマは出掛けたけど、もうすぐ帰ってくるはずよ」
そう話すとタイミングよくカズマが、ただいまとルッシュと供にリビングに入ってきた。
「あ、カズマ様。ルッシュ様を迎えに行ってらしたんですか?」
「ああ、そんなところだ」
尋ねるリンスにカズマは軽く返事を返すと、ルッシュが事情を説明した。
「そんな事が……、大丈夫ですかルッシュ様。どこかお怪我は?」
気遣うリンスにルッシュは笑顔で大丈夫と言い返し、
「それより、二階にいる兄さんが眼を覚ましたってカズマから聞いたんだけど」
そう尋ねるとリンスはにっこり微笑み、
「私が呼んでさしあげますね」
リビングから出て行こうとするところを、ルッシュが呼び止めた。
「私が呼んでくる。ルッシュは膳立てしててよ」
急くようにリビングから出ていきワクワクした様子で階段を駆け上がって行く。
「……ルッシュ様、嬉しそうでしたね」
リンスが微笑みながらカズマに話し掛ける。
「ああ、クロードが眼を覚ましたこと話したら落ち着けない様子だったよ」
そう笑顔でカズマは答えると、ブラッドが眠っているソファーの隣に移動し、腰を降ろす。
「あの娘にとって大切な兄さんなのね」
そうアヤが言うと、
「まあ、それはいいから飯! 腹へった」
ソファーにもたれてるアドが、厚かましい態度で腹を摩りながら口を挟んだ。
「……お前なぁ」
しみじみと和むような雰囲気をぶち壊しの発言をしたアドに、呆れた様子でカズマが呟く。
アヤも苦笑まじりの溜息をもらし、頭を振った。
「じゃあ、リビングに運んで来ますね!」
そうリンスは言うと共にリビングから出た。
――階段を駆け上がり、ルッシュは二階のクロードが居る部屋にたどり着き、
「兄さん!」
呼びながらドアをノックする。
たが――。
「兄さん、私。ルッシュだよ」
ルッシュが何時もノックして呼び掛けても、ドアは開こうとせず。堅く閉じたままだった。
「……兄さん? ……入るね」
ルッシュがドアノブに手を添えて、そして回す。
ドアにはカギはかかってなかった為、あっさりと開いた。
ルッシュはそっとドアを開いて中に入る。
「……兄さん?」
部屋の中は暗くてよく見えない。
ルッシュは直ぐに明かりをつけると、部屋の中にクロードの姿は何処にもなかった。
「えっ! 兄さん! 兄さん!」
ルッシュは思い掛けぬことに戸惑いながらもクロードがいないか部屋の周りを探す。
そして、ベットの上に文字が記された紙がある事にルッシュは気付き、それを拾い上げて読む。
紙にはこう記されていた。
――ブレイド、剣崎一真。お前に無理を承知で頼みたい事がある。
俺の妹は、ルッシュには、インフェルノの気配を察知する力、そしてインフェルノを無力化する力がある。
まだ、力に目覚めてないが、インフェルノはその力を恐れいる。
そして俺が仮面ライダーワンドでインフェルノと戦っているもいる以上。ルッシュが襲われる可能性がある。
故に俺は、ルッシュから行方をくらました。
だが、時には偶然インフェルノと会ってしまう事もあるだろう……。
頼むのは釈だが、お前にルッシュを守ってもらいたい。
俺には、やらねばいけないことがある。
それをやり遂げない限り。俺はルッシュに会うわけにはいかない。
ルッシュには、力の事は話すな。下手に話して不安にさせたくない。
……ルッシュを、頼む――
「なによ、それ……」
震えた声を出しながらルッシュは驚きの表情をみせ、紙を持つ手を震わせる。
そして紙を片手に握りしめ、勢いよく部屋を飛び出した。
――探偵事務所から数キロ離れた所で――。
「……すまん。ルッシュ……」
クロード・ウィリアムズはそう呟きながら、街灯が僅かに照らす路地裏を歩いていた。
一瞬だけ街灯に照らされた時に見せた彼の表情は、哀しみに打ち沈んでるようだった。
「………」
無言のまま、クロードは闇に溶け込むかのように奥へと消えていき、路地裏は暗黙の世界に包まれた……。
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