第四話-後編-
夕方、ビルが並び立つ中、中央の道路を二人乗りのハーレーが走っていた。
ヘルメットを着けて顔は見えないが、運転手は茶色いジャンパーに青いジーンズのモデル体型の男、その後ろに乗ってるワンピースを着た、買物袋を腕に引っ掛けて男にしがみついてる女の子はリンスだった。
「すみません。忘れてた買物袋を届けてくれただけではでなく、こうして送ってもらえて」
「ああ、気にすんな。ついでだ」
御礼を言うリンスに男は当然のように返事を返す。
「あ、自己紹介まだでしたね。私は、リンスレット・ウォーカーです。リンスって呼んで下さい」
「俺はアルバード・ゼウルス。アドでいい」
「アド様ですか、解りました。アルバード・ゼウルス、とてもいい名前ですね」
「そうか、お前の名前も悪くないぞリンス」
二人はお互いの名前を褒めたたえる。二人ともヘルメットで顔は見えないが、クスっと笑い声をだしたのできっと笑顔なのだろう。
「あ、よろしければアド様も家に寄りませんか? 今日は私が腕にかけて美味しい料理を作るんですよ。袋が一つ多いのでアド様の分も作れます。いろいろと助けてくれた御礼とかをしたいので、是非来て下さい!」
「マジか? だったらちょうど腹減ってたから遠慮なくご馳走になるぜ」
アドはとても嬉しそうに申し出を受け入れた。返事を聞いたリンスは、アドと同じくらい嬉しそうだった。だんだんと親しくもなり、より会話がはずみ二人はいろんな事を楽しそうに話していた。
だが……。
ドクン!
「ッ!」
突然リンスの中で深く強い鼓動が響き渡り、そして聞こえた。嫌な予感を感じて笑顔だったリンスの表情が突如蒼白になり強張る。その様子の変化はヘルメット越しからでも解るものだった。
「ん? どうしたんだリンス」
アドがミラーに映ってるリンスを見て、様子が変だなと気になり尋ねた。
「か…、覚醒した。蛹から、フィストが!」
「ッ! 何、フィストだと!」
何故かアドはそのフィストの名前を理解してるのか、驚きの声を出して歩道の隣までハーレーを走らせてそこでハーレーを止めた。そしてアドは後ろを振り向きリンスを睨み据えて話し掛ける。
「お前、フィストを知ってるのか? あいつとどういう関係だ!」
「この波動……、危険です。このままだとフィストは……、ブラッド様が」
アドの言葉を無視、あるいは聞こえないのか、どちらにせよ眼を大きく見開いたリンスはかなり動揺していて意味合いのような言葉をぶつぶつと呟く。
そしてリンスは、アドを必死に願うような眼で強く見つめ叫んだ。
「お願いします。案内しますから今すぐ私をフィストの、ブラッド様のところに連れていって下さい!」
そう言われて戸惑うアドだが、必死のリンスを見つめて最初は躊躇いを見せたがやがて息を深くはいた後、真剣な顔で、
「わかった。俺も気になるから連れていってやる」
とリンスの頼みを聞き入れ、ハーレーを走らせた。
その頃、人気のない駐車場では、殺伐とした出来事が起こりそうになっていた。
「ウガァァァァァー!」
うずくまっていたフィストは勢いよく立ち上がり、頭を掻きむしりながら苦しそうに呻き、咆哮の如く絶叫する。
「な、何? 一体どうしたのよブラッド!」
フィストの異変に気付き遠くからその様子を眺めていたGUNは驚き、急いでフィストに駆け寄ろうとした。しかし、そんなGUNにペルシュロンインフェルノが阻むかのように立ちはだかる。
「あぁもう! あんた邪魔よ!」
苛立ったGUNは素早くハンドガンで攻撃。しかし、ペルシュロンインフェルノは盾を使って直撃するポイントだけを捉え、巧みに弾丸を防ぐ。次にペルシュロンインフェルノはGUNとって意外な行動にでる。
「嘘! なによそれ!」
GUN目掛けて突撃するまではGUNの範疇にある行動だった。しかし、ペルシュロンインフェルノは突如馬の姿、いやギリシア神話に出てくるケンタウルスにそっくりな姿になりパカラッパカラッ! と軽音な足音を鳴らしてGUNに突撃する。
ペルシュロンインフェルノはGUNの首を撥ねると言わんばかりに上段で竜巻のように斧を回転させ、次にはGUN目掛けて横水平に斧を振る。
斧刃が猛獣が食らい付くが如く、GUNの首に襲い来る。
「危ッ!」
刹那、間一髪下にしゃがみ回避するGUN。刃は空を切り裂きそのままペルシュロンインフェルノは通り過ぎる。
「ふぅ、これがダニエルだったら絶対死んでたわね」
立ち上がり通り過ぎた敵を見ながらそう軽口を言うが、中はかなり冷汗をかいていて内心は焦ってた。
そう言ってるのもつかの間、走り去ったペルシュロンインフェルノはすぐにターンしてGUNにまた同じ手口の攻撃を仕掛ける。
今度は斧を前方に向け、回転させて突撃する。そしてGUNとの距離が二、三メートルに入った瞬間、大きく上段に振り構えてGUNにその大きな斧刃を垂直に振り落とす。
「ッ!」
ズガァァ!
斧刃は地面に叩き落ち、地面を粉砕する。そして斧刃はGUNを両断……、してなかった。いや、正確には出来なかった。
GUNは瞬時に敵の攻撃動作を見極めて斧が振り落ちてくる刹那に、より距離を詰めて斧刃を避けた、そして避け座間に右腕の拳撃用パーツR・M・Aによる拳撃で斧を持ち支える棒部分を破壊した為に、斧刃は支えが折れて地面に叩き落ちたのだった。
「残念でした! 私って案外、動態視力には自信ありなのよね」
自慢げで余裕そうに指を振るGUN。ペルシュロンインフェルノは斧刃が折れ落ちてただの棒になったそれを見て、唖然となり後ろによろめき下がる。
「隙あり!」
そう言ってGUNは助走をつけて跳躍し、ペルシュロンインフェルノの顔面にR・M・Aを叩き込もうとした。ペルシュロンインフェルノは素早く盾を前に出しガードに入る。
ズガァァァァァッ!
右手からの高エネルギーが、拳が接触した盾との間で膨脹して次に爆発を起こした。
その後に出る煙をペルシュロンインフェルノは盾を大きく振り、煙をすくう様にはらう。振り払うことによりペルシュロンインフェルノは一早くGUNの位置を把握しようとしたが、時既に遅かった。
「こっちよ!」
声が聞こえ、下を向いてGUNが姿勢を低くして構えてると気付いた時にはペルシュロンインフェルノの馬の下半身、腹部あたりから三回目のR・M・Aによる爆発が起こる。
吹っ飛ばされながらペルシュロンインフェルノは、ケンタウルス姿から人型の馬インフェルノに戻った。 ペルシュロンインフェルノはダメージを受けた腹部を押さえて苦しそうに立ち上がる。
「私の勝ちね。それよりブラッドの方が……ッ!」
GUNは勝ち誇りながらフィストに視線を向けた。しかし、その後にGUNは視界に映ったフィストの姿を見て言葉を失う。
「ウォォアァァァァー!」
GUNだけではない、ペルシュロンインフェルノや、フィストと対峙してたバイソンインフェルノも手を出さず。いや、出せずにただそれを唖然と見ていた。
バイソンインフェルノは手を出せなかった。
今のフィストが、どれだけ危険で近寄りがたいものか、本能で解ってたからだ。
「ガアアアアァァァアアア!」
フィストの咆哮の如くの叫びに空気に振動が伝わり、大地が揺れ動き始める。空気が重苦しくなるほど、のしかかるようなプレッシャーがGUNと、インフェルノを襲う。
「な、何なのよこれ! フィストの姿が……」
GUNの言う通り、フィストの真っ白い肌の色が黒々しく変わり始め、天使のような翼が徐々に蝙蝠のような翼へと形を変えていく。
「ウオァァァー!」
黒い闇を想像させるような光がフィストを包む、そして光がフィストに入るように消えていくと、そこには違う姿の黒いフィストが立ち尽くしていた。
「まるで……、あ、悪魔みたい……」
GUNの感想どうり、それは正しく悪魔の姿を思わせるものだった。額の触角は消え、胸と額の真紅の玉は黄金色へ変わっていた。まるでこれは、天使が堕天した姿を感じさせるようでもあった。
「……何でかしら、私は何故かこのフィストを知ってる?」
GUNはフィストを見てデジャビュのようなものを感じた気がした。そんなGUNがフィストを茫然と見ていた次の瞬間、フィストが視界からフッと姿を消す。
フィストがいた場所から風圧が起こる。同時に轟音が鳴り響き、それに負けないくらいの、肉を叩き骨を砕く打撃音が鳴る。
鳴り響き少し遅れてGUNの後ろに停めてある車が、鼓膜の破けそうな爆音を鳴らし、車の横のドアに何かがぶつかり丸く凹み、くの字に折れ曲がった状態で弾かれるよう吹っ飛ぶ。
吹っ飛んだ車は部品を撒き散らしながら、グシャグシャに潰したアルミの空き缶のような形になり空中でクルクル回りくねり地面に落ちて爆発する。
駐車場内に爆音が爆風と共に広がる。
最初は何が起きたのか、GUNもインフェルノも理解出来なかった。それを理解したのは、バイソンインフェルノがもと車が停めてあった場所で、グシャグシャに潰れた上半身をさらけ出し、絶命したのを見た時だった。
バイソンインフェルノのいた場所には、フィストが拳を横に突き出した体制で、猫背の背中を前にして見せて仁王立っていた。
「は、速い。しかも、一撃で上級クラスのインフェルノを……」
GUNはただ驚愕する。フィストはペルシュロンインフェルノにゆっくりと視線を向けて体ごと振り向く。
フィストから噴き出るような凄まじいプレッシャーによりペルシュロンインフェルノは後ずさる。フィストは両腕を広げて猫背の姿勢で低く構え、またフッと姿を消す。
直ぐさまペルシュロンインフェルノは盾で身を守る。だがその刹那の間で、距離を攻撃範囲まで詰めたフィストは、盾は黒く輝くストライクスマッシュのラッシュであっさりと粉砕。
ペルシュロンインフェルノの顔面にはより強く輝く黒い光の拳を流星の如く叩き込む。そして叩き込んだ拳の黒い光が波紋のように広がり、次にこの数百メートルの広い駐車場一面を巻き込む程の、黒い光の爆発を起こす。
爆発の中心付近の車は全てスクラップ状態になりつつ空に吹き飛び、GUNも爆風に巻き込まれて吹き飛ばされ、駐車場の外の道路まで飛ばされて落ちる。
「う……いたた。何が起きたの?」
腕立て伏せ状態から起き上がり座間に顔を横に振るGUN。ふらつきながら立ち上がり、煙が晴れた後の光景を見て、
「嘘……、何よこれ」
と呆然としながら驚きの声をあげる。駐車場の爆発が起きたど真ん中には大きなクレーターが出来ていて、ペルシュロンインフェルノは跡形も無く消滅し、フィストはその手前で息遣いの荒い上下に動く背中を見せて立ち尽くしていた。
「これが……、これが本当にフィストなの!」
クレーター手前に映る黒いフィストの姿は、蝙蝠の翼のせいもあるのか、本当に悪魔を想わせるようにも見え、その圧倒的なまでの力を前に、GUNはとてつもない驚異を感じた。
しばし重い沈黙がGUNを切迫するかの如く漂う。
「ねぇ、ブラッド……。あなた大丈夫なの?」
沈黙を破る為にGUNはフィストに尋ねた。
「………」
何も言葉を返さずフィストは、ゆっくりとGUNに視線を向ける。GUNはフィストから発せられるプレッシャー、黄金の目の視線に威圧され、後ずさり唾を飲み込む。
「ウガアァァァァァァー!」
突然天に目掛けて叫喚するフィスト。
両手を天に翳すように差し上げ、叫び続ける。そして、次に胸の妖しく黄金に輝く玉を疼くかの如く押さえ付け、苦しげに呻きだす。
「アアァウゥ……、ア、アヤさん……。逃げて! 逃げないと……、俺に……、俺に殺される!」
必死に訴えるように逃げてと叫ぶフィスト。GUNはそんなフィストを見て、どうすればいいのかうろたえる。
「早く! 俺が正気である内に!」
「で…、でも!」
「早く!」
フィストが張り裂けるかのような叫び声を上げる。
「ゥ……アッ!」
フィストはそう小さくうめき声を出して顔を俯かせ、自分の体を抱くような体制で金縛りにかかったかのように、急に硬直して動かなくなる。
「ブラッド……?」
GUNは気になり恐る恐る歩いてフィストに近寄る。が……、次の瞬間、フィストは突然顔を上げてGUNに殴り掛かる。
「ガアアアアア!」
ドガァッ!
「ッ! アウッ!」
顔面狙いで来たフィストの拳を咄嗟にガードした両腕に、激痛が電撃のように走り抜く。GUNは爆風を受けた時のように吹っ飛ばされて、また駐車場の外側の道路に落ちて転がり込む。
「う……、くぅ……」
GUNは俯せの状態からふらつきながらも立ち上がる。ガードした両腕の装甲が酷く砕け壊れていた。
「く、これじゃR・M・Aが使えない!」
GUNが両腕を見て言った。両腕の装甲の割れ目の隙間から黒い液体が垂れ出す。黒い液体は、インフェルノの黒い血液と同じものだった。
「う、痛むわね。怪我してる……」
黒い液体はGUNことアヤ自身の血液で怪我の出血だった。片方で押さえ付けて痛みを和らげようにも、両腕とも痛いのでどうにもならないと言った状態だった。
GUNが痛みを堪えて前を向いた時、眼前でフィストが腰を捻り肘を曲げて拳を打ち出す体制に入っていた。
「マズイッ!」
言葉に出す頃にはフィストの拳がGUNの胸部目掛けて、弾丸の如く殴り込む。怒涛の一撃が胸部に当たり、直撃を受けた胸部装甲が砕け散った。
「ガハッ!」
また吹っ飛ばされたGUNは、勢いよく電柱にぶつかり、電柱をへし折って地面に落ちる。
電柱が折れた事により切れた導線がバチバチと音を鳴らし、道路に垂れ落ちる。そして地面に落ちたGUNは紅い光を放ち、変身が解けてGUNからアヤの姿に戻った。
「くぅ……、ダメージを喰らい過ぎたみたいね……」
痛む胸を片腕で押さえて、苦しげに立ち上がり咳込むアヤ。袖から黒い血が染み込み浮き出て、手首から上は血で黒々と染まっていた。痛みを堪えるように歯を食いしばり、平然とした様子で自分に近づいてくるフィストを見る。
アヤはそれを見て脅威を感じ、こめかみからは冷汗を流す。
「私を殺す気みたいね……。でも、私にはやるべき事があるのよ……。まだ死ぬ訳には行かない!」
そうアヤが叫ぶと、アヤの体が変化しはじめる。
耳の形が尖んがって猫や犬の耳のようになり、碧い瞳が紅い獣のような瞳に変わる。服が破けてみるみる内に体が黄金色のふさふさの体毛に覆われて腰の後ろ辺りから九本のとても長いふさふさの尻尾がはえてきた。
「この力は、あまり使いたくなかったけど、あなたを止める為に私はこの力で戦う!」
顔付きや体は人型のままだが、半分は狐が入った。半獣人姿のインフェルノへと姿を変えた。
「いくわよ、フィスト!」
顔付きはアヤの面影があるフォックスインフェルノが叫ぶ。それに反応するようにフィストは姿勢を低くして、次の瞬間には一瞬でフォックスインフェルノに距離を詰める。
「見えてるわ! あなたの攻撃!」
そこからは、一秒弱の時間で起こった出来事だった。
フィストの空気を裂くように突き抜ける弾丸ような、キレのあるパンチや空間を切り裂くようなしなるキックのラッシュを、フォックスインフェルノは獣の瞳を凝らし、全て見極めて眼で追いギリギリで避ける。そして、フィストが体を大きく捻り、ストライクスマッシュを打ち込む体勢に入った瞬間。フォックスインフェルノはその隙をついてフィスト目掛けて手を前に突き出して強力なサイコキネシスを使って吹き飛ばす。
「ハァァァァッ!」
サイコキネシスが起こした。波紋が広がるような風圧に吹き飛ばされたフィストは、空中で一回転して着地する。ダメージは全くない状態で、フィストはフォックスインフェルノに視線を向けて姿勢を低くして身構える。
「ちょっと……、きついわね」
口をへの字に曲げて険しい顔付きで、攻撃に備える為に構えるフォックスインフェルノ。避ける事は出来てもまともなダメージを与える事が出来なく、反撃に移れない程の猛攻の凄まじさに、フォックスインフェルノは現状は自分が不利だと焦る。
「私がこの姿を維持出来るのはそう長くないし、このまま続くといずれは……」
こめかみから汗を流して、そう自分に言い聞かすように独り言を言った瞬間。フィストは疾風迅雷の如く駆け出し間合いを一気にフォックスインフェルノまで詰め、殴り掛かる。
「ッ! そんな、さっきよりスピードが!」
言う通りスピードが上がったフィストのスコールのようなパンチの猛攻が、フォックスインフェルノに襲いくる。
フォックスインフェルノは完全に回避は不可能だと読み取り、避けながらフィストのパンチを受け流したりの防御方法でダメージを出来るだけ抑える。
攻防の最中にもフィストを止める最善策を優先して考え続けるが、そうしてる間にもフォックスインフェルノは徐々に圧され始める。そしてついにフィストの拳が溝に入った。
「ウグッ!」
うめき声を上げて疼く腹部を押さえて顔を苦痛で歪める。くの字に折れ曲がって俯いた体勢のフォックスインフェルノに、フィストは拳を俯いたフォックスインフェルノの後頭部目掛けて思い切り振り落とし、フォックスインフェルノを地面にたたき付ける。
叩き付けられた事によりアスファルトの地面がひび割れる。
「が……、ハァッ……ハァ……」
俯せに地面に顔をつけたフォックスインフェルノは、吐血しながらもどうにか起き上がる。しかし、痛みに顔を苦痛に歪めよろめいて地面に膝を付いた。
とても息遣いが荒く疲労とダメージが大きく、かなり弱っている危険な状態だった。
黄金に輝く美しい毛並みのはずだったが、自分の黒い血に汚れて染まり、かなり酷く痛々しく姿だった。
「ハァ……ハァ……、やばいわね……」
そう呟きフィストを見上げるフォックスインフェルノ。フィストは拳に黒い光を集束させて、フォックスインフェルノを心ない黄金色の眼でただ見下ろす。そして拳を振り上げて、フォックスインフェルノに非情にも握り拳を振り落とす。
フォックスインフェルノは絶体絶命の万事休すと死を覚悟し、目を細め瞳を凝らして迫り来る拳を見据える。しかし、拳が視界一杯に映り、あとほんの僅かの所で拳は突然ピタリと止まる。
「え……?」
そのまま斜めに突き出した拳を震わせ、フォックスインフェルノの顔の前で拳を止めたまま沈黙するフィストに、漠然とした様子で戸惑うフォックスインフェルノ。
「……う……ウアアアアアアアァァァァー!」
次の瞬間、フィストは頭を掻きむしる様に抱えて激しく横に振りながら、苦しげに大きく呻き叫ぶ。それを見たフォックスインフェルノは何が起こったのか状況がつかめないと言った顔でただ呆然とする。
「ど……、どういう事?」
「そこまでですフィスト! あなたにブラッド様の体を乗っとらせたりはしない!」
どこかで聞き覚えのある声が響き、フォックスインフェルノは声の方に目を向けた。意外にもフォックスインフェルノの瞳に映ったのは、真紅の輝き放つ光に包まれたリンスの姿だった。
「……リンス?」
フォックスインフェルノはそう呟きリンスの様子を見続ける。呻き悶えるフィストは、苦しげにリンスを憎らしい様子で眺める。
「オアアアアアアー!」
吠えるように雄叫びを上げてリンスに殴り込みに行くフィスト。フォックスインフェルノは止めようとするが、ダメージが大きく体中の痛みのせいで立てずにいた。
「リンス! 逃げなさい!」
無駄だと解っていても、叫ばずにはいられない。フォックスインフェルノは叫んだ。しかし、リンスは聞こえてないのか、無視をしてるのか、逃げずに碧く輝く大きな瞳を、ゆっくり閉じて両手を重ね、まるで祈るかのような動作をとる。すると、突如耳鳴りがしてフィストがより苦しみ呻き出す。
ヨロヨロと怯むようにリンスから後退り、天に顔を向けて絶叫する。
「な……何でフィストが苦しんでるの? しかも、この耳鳴りは一体何なの?」
色々と疑問が出て、釈然としない様子で祈るリンスと苦しんでるフィストを眺めるフォックスインフェルノ。
「おい、何ボケッとしてんだよ。見てないでフィストを止めろ」
そんなフォックスインフェルノの後ろからアドが話し掛けて来た。
「あなた誰? 今の私を見て驚かないって事は、あなたもインフェルノ?」
「ハァ? お前なぁ……、何の冗談だよ。インフェルノ同士なら波動で解ってんだろが」
頭を掻きながら当然そうに話すアドにフォックスインフェルノは首を傾げた。
「波動? 何なのそれ、それでインフェルノ同士お互いが解るの?」
真剣な顔で聞いたフォックスインフェルノにアドは唖然とする。
「お前……、どこかで頭強く打ったのか?」
変人を見るような眼でフォックスインフェルノを見詰めて自分のこめかみを指で突きさすような動作をして話すアド。フォックスインフェルノはそれを見て苛立った口調で返事を返す。
「違う、頭は打ってないわ、あなたはこの姿のインフェルノを知ってるのでしょうけど……、今は私がこのインフェルノなのよ!」
必死によく解らない説明をするフォックスインフェルノに、アドは真顔で成る程と理解し頷き、そして尋ねる。
「要するにお前、インフェルノと同化した人間だな? 成る程、あいつなら可能だ。どうりで人間顔な訳だ」
「あなた何者なの?」
「俺か? 俺はな……、こう言う者だ」
そう言ってアドはニッコリとした笑顔で、ドラゴンインフェルノへと姿を変えた。
「さてと、暴走したフィストを止めるか、あの状態のフィストとまともに戦かわなくて済むのは幸いだぜ」
「ちょっと待って、止めるってあなた。フィストを殺す気はないの?」
「いんや、殺したらリンスが怒るから、ご馳走にありつけないからな」
驚き叫ぶフォックスインフェルノに、ドラゴンインフェルノは微笑みながら答える。
「ご馳走って?」
「そのまんまだよ! ほら、立てるくらいの力を贈ってやる。いくぜ!」
そう言ってフォックスインフェルノに手を差し延べて光を放つ、光はフォックスインフェルノに吸収されるように入っていく、徐々に回復して立てるようになったら、今度は空を飛びリンスの手前で苦しんでるフィストに突っ込み体当たりするドラゴンインフェルノ。
「ちょっと、攻撃は!」
「大丈夫です! 攻撃して下さい。私がフィストの力を抑え付けてる内に、フィストを完全にブラッド様が制御できるくらいにまで攻撃を!」
「で、でも」
「フィスト自身を攻撃してもブラッド様には深い影響は与えません。いえ、私が与えさせません!」
必死にリンスが戸惑うフォックスインフェルノにさらに付け足す。
「とにかく、フィストを弱らせる事を優先して下さい!」
頼み込むリンスをしばらくまじまじと見詰めて、次に眉間にシワを寄せ眼を閉じて悩むが、やがて大きく見開き決意に満ちた目付きで立ち上がる。
変身が解けて、すぐインフェルノに変身した時に取り外して置いたベルトとマガジンを駐車場まで取りに行き、苦しみながらも戦っているフィスト相手にやっと互角に戦って見せてるドラゴンインフェルノの戦場に戻る。
激しい攻防戦の戦局を鋭い眼光で見詰め、フォックスインフェルノは腰にベルトを巻いて、マガジンに途中拾った紅い弾丸を装填する。
そして……。
「変身!」
叫びベルトにマガジンをはめ込む。
『CHANGE MASKD FORM!』
電子音が鳴り響き、フォックスインフェルノは紅い光に包まれて、仮面ライダーGUNへと姿を変える。
GUNはベルトのマガジンを取り外しすぐにしゃがみ込み、踵の差し込み口にマガジンを差し込む。そして立ち上がりベルトの右横にある電子手帳のような装置のフタを開く。
「コード入力!」
フィストとドラゴンインフェルノの戦いから眼を離さずに素早く番号のボタンを押して入れる。
「ライダーキック!」
『METEO BULLET』
入力後、フタを閉じ姿勢を低くし、走り出す体勢に入る。しかし、すぐには駆け出さずにフィストに隙が出来るのを窺い待つ。
ドラゴンインフェルノはGUNがチャンスを狙ってるのを知ってか、どうにか隙をつきフィストに素早く飛び掛かり取っ捕まえ、大きな両手でフィストの体を巻き付けるように押さえ付け何とか自由を奪う。
「オラァ! 今だやれ! 俺はギリギリで離して離脱する!」
その言葉がスタートダッシュのシグナルとなり、GUNは足腰に渾身の力を入れて風を切るが如く駆け出す。前に進むに連れてGUNのスピードは加速度を増す。そして、最終的には肉眼で確認出来る視界範囲内から姿を消す。
ズドォォン!
視界から消えた刹那、姿を消してから数メートル先で、轟音とともに地面が踏み砕かれ、そこに足跡と円を描くような凹みのひび割れが起きる。
「ハァァァァァァー!」
地面を踏み砕かき、空高く跳躍するGUN。
踵に差し込まれたマガジンから、紅い炎のような真紅の光がGUNを包み込んだ。
GUNは狙いをフィストにしっかりロックオンして蹴り姿勢で身を落とす。
まるで大気圏領域を突破した真紅の弾丸の隕石が、黒き悪魔を撃ち貫くが如くが為に大地に降り落ちてくるのだった。
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