挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

ブックマークする場合はログインしてください。

小さな奇跡の夜

作者:yoshi
降り積もる雪の中、少女は一人、立ちすくんでいた。少女の名はリーア。今は亡き両親、母の名リースと父の名クルーアを組み合わせた名だ。寒空の下では少女の吐息はすぐに白い塊となる。コートにマフラー、中にはセーターとカーディガンの重ね着とかなりの重装備をしてきたつもりだが、それでも凍てつく寒さが少女の身体を蝕む。

少しでも温まろうと、しきりに両方の手のひらを合わせて、こすり合わせる。少女が待っているのは、幼馴染の少年ガイア。リーアとガイアは、幼くして両親を事故で亡くしており、不遇の生活を送っていた。今彼らは、街の南端にある修道院”希望の家”で生活を共に送っている。

二人はこれからクリスマスの準備に備えて、飾り付けや食料品の買い出しにいく予定だった。既に街には、色どり鮮やかなイリュミネーションがライトアップされており、見る者の心を惹き付けてやまない。この時期特有のこの光の数々はカップルや家族連れに対しては、幸福なひと時を提供し、相手のいない独身者に対しては、辛い地獄を提供する。

クリスマスを喜ぶ者と、クリスマスの存在を恨む者。毎年この季節には、華やかな舞台裏で、常に相反する二組が存在する。リーアとガイアは、これまでクリスマスの存在を否定し続ける側だったが、今年は少し違う。二人とも今はまだ片思いの段階だが、互いに相手に自分の思いを告げる機会を伺っていた。

「わりぃ、待たせたな。」

ガイアは両手に包みを抱えてやってくる。そのせいで傘をさすことが出来ず、ガイアは身体中が雪にまみれてしまっている。

「ガイア、どうしたのよ?その包みは何?」

「後でのお楽しみさ。それよか、傘に入れてくれよ。このままじゃ、風邪引いちまう。」

ガイアは図々しくもリーアの傘の中に割り込む。元々の傘のサイズがそれほど大きくないため、どうしても身体がはみ出してしまう。リーアとの相合傘を楽しみたかったガイアだが、リーアの身体を押しのけるわけにもいかない。下手すればリーアに風邪を引かせてしまう。渋々ガイアは相合傘をあきらめ、傘から外にでる。

「傘をさせないなら、フード付きのコートとか着てくればよかったのに。」

「そんなもの買える金あるわけねぇだろ。」

「それもそっか。しょうがないなぁ、ちょっとだけ入れてあげる。」

リーアは傘を少しだけガイアの元に差し出す。はみ出た肩には相変わらず雪が積もり続けるが、少なくとも頭部は守られたようだ。

リーアとガイアは小さな傘に身を寄せ合いながら、買い出しに出かけた。飾り付けは一通り買いそろえることが出来たが、ガイアは元々手に持っていた大きな包みのうえに、次々と購入した商品を乗せて運ぶ形となり、バランスに気をつけながら、歩みを進める。

リーアの方もガイアを手伝ってあげたい気持ちはあったが、リーア自身、既に両手とも荷物で塞がっており、これ以上のサポートは出来そうもない。二人ともこれ以上荷物を持つのは無理だろうという結論に達し、一旦修道院に帰って、荷物を置いてから残りの食料品を買いにいくことにした。

二人が踵を返して戻ろうとしたとき、ふいに悲鳴が聞こえた。か細く小さな声。だがその声は確かに誰かに助けを求めていた。声のした方を探そうと注意をはらってみると、サンタの格好をしたまだ幼い少女が、膝を押さえて雪の上に横になって倒れている。その周囲をいかにもといった感じのガラの悪そうな数人の男たちが取り囲み、少女をどなりつけ、無理矢理たたせてどこかに連れて行こうとしていた。

「ごめんなさい、ごめんなさい。」

ひたすら謝り続ける少女。見かねたガイアとリーアは少女の元に駆け寄り、事情を問いただそうとする。

「ちょっと待てよ。事情は知らないが、こんな幼い少女に大の大人がみっともないんじゃねぇのか?」

ガイアが反発すると、周囲を取り囲んでいた男の一人がガイアに近寄る。緊張するガイア。もし目の前の男が殴り掛かって来たら、自分に対処できるのだろうか?相手の男は自分よりずっと年上だし、何より体格差があまりに違いすぎる。男がガイアの目の前にたったとき、思わずガイアは目を瞑った。だが、男の対応はガイアの予想に全く反するものだった。男はガイアに頭を下げると、チンピラ風の外見にそぐわない紳士的な口調で謝罪の言葉を告げる。

「申し訳ありませんが、緊急自体でして、そこをどいていただけませんか?早くしないとフィナ様の身体がますます弱ってしまいます。」

フィナというのは少女の名前だろうか?

「あの、一体どうなってるんですか?」

様子がおかしいと思ったリーアが疑問を投げかけると、男は深刻な表情でガイアとリーアに向き直る。

「実は彼女、フィア様は、極めて希有な病気を患っておりまして、ほとんどずっと家の中から出た事が無いんです。彼女の家はあの有名なゴルドア家なんですがね。」

ゴルドア家は街でも有数な資産家であり、いくつもの事業を展開している。この界隈に住む者なら、世話になった事のある者も多い。そんな家の令嬢と、あまりゴルドア家には似つかわしくない男達。一体どういう関係なのだろうか?

「病気というのは、どんなものなんですか?」

「一日のうち、自由に体を動かせる時間が数時間しかないという病気です。この病気のため、フィナ様は学校に行く事も出来ず、ほとんど家から出る事が出来ません。一日のうち、大半を寝室で過ごさなくてはならないというのは、フィナ様のような遊びたい盛りの年頃には相当きついことだと思います。」

その後、男はフィナの病気について説明を始めた。体を動かせなくなる病気・・詳細な原因などは分かっていないが、生まれつきの疾患によるものらしい。意識ははっきりしているのに手足が動かなくなってしまうそうだ。

ほとんど家から出る事も適わない少女フィナは、毎年この時期、街がクリスマスのざわつきに浮かれるのを家の窓から眺めるしかなかった。一度でいいから、自分も街の人の輪に入ってみたい。そんな思いから、家の使用人達の目を盗んで、家を飛び出した。

サンタの衣装については、去年のクリスマスプレゼントとして、もらったものだという。家から出られない代わりに、おとなしくしていれば、ゴルドア家の令嬢という立場から、種々多様なプレゼントを受け取る事が出来る。サンタの衣装は、そういった数々のプレゼントのうちのひとつだ。

そのサンタの衣装を身に着け、外に飛び出たフィナ。最初は街のイルミネーションの輝きや、行き交う人々の様子を見て心を躍らせ、病気の事も忘れてはしゃぎまわっていた。しかし段々手足が言う事を聞かなくなり、ついに道ばたに倒れてしまった。

周囲の男達は、ゴルドア家の使用人だった。チンピラ風の格好をしていたのは、フィナの命令だったらしい。いつも執事の格好をしているので、たまには、普段絶対しないような格好をしてとお願いされ、執事服を脱ぎ捨て、髪を緑やピンクに染めてモヒカンやリーゼントにし、ドクロマークと龍の絵がデザインされたスカジャンを着ている。

でもよく見たら、確かに本当のチンピラなら、今時こんな格好はしないわな。正直センスがダサいし・・どちらかというと普段から品のいい人間が、無理矢理、悪ぶって慣れない格好をしたって考える方が自然かもしれない。

先ほど少女を怒鳴りつけていたのは、勝手に家を飛び出した事への叱責だったようだ。ガイアたちが見かけたときは膝を押さえていたようだが、もう少し時間がたてば、それすら出来ない状態になるらしい。

「そういうわけでして、フィナ様を一刻も早く屋敷に連れ帰らなければなりません。それでは失礼します。」

男達はフィナを連れて帰ろうとする。ガイアは、唐突に何かを思いつき、その後ろ姿に声をかけた。

「あの、すみません。もしよかったら、フィナさん。俺たちと一緒にクリスマスを祝いませんか?もちろん、お連れの方もご一緒に。」

周囲の男達が振り返る。フィナが男達を制して、尋ねてくる。

「本当?フィナと一緒にクリスマスを過ごしてくれるの?」

「ああ。家の中にずっといたんじゃ、つまらないだろ?俺たちと一緒に来ないか?あ、でもゴルドア家の者が修道院なんか来ちゃまずいかな。世間体もあるし。」

フィナは激しく首を横に振る。

「そんなことない。フィナも誰かと一緒にクリスマス祝いたい。修道院、行く。ねぇいいでしょ、皆?」

フィナは周囲の男達に尋ねるが、周りの反応はあまりよくないようだ。やっぱり、街の有力者の娘が俺たちのような孤児と一緒に過ごすのは、よくないか・・だが、男達の心配していた内容は、俺が考えていたものとは異なっていた。

「申し出は有り難いのですが、先ほど申しましたとおり、フィナ様は自分で手足を動かせません。それでも宜しいのですか?」

なんだ、そんなことか。だったら全然問題ない。

「ええ、構いませんよ。サポートが必要なら俺たちも手伝いますし。なぁ、リーア?」

「うん、もちろん。フィナちゃん、一緒に楽しもう?」

俺たちが問いかけると、フィナは嬉しそうに微笑んだ。俺たちはフィナや使用人達と一緒に修道院に戻り、一旦荷物をおいて、再び食料品の買い出しに出かける。フィナは修道院のシスターであり、今では俺たちの母親代わりを務めてくれているハンナさんに預けた。使用人のうち、数名はフィナの世話をするため、孤児院に残る。

残りの使用人達たちが買い出しに付き添ってくれたおかげで、予想していたよりもはるかに豪勢な食事を用意することが出来た。なにせ、ゴルドア家の財布が味方についている。普段では手を出せないような高級な薫製チーズや、一番品質の高い七面鳥、ラザニア、モンブランやチーズケーキ、ロゼワインなどを取り揃え、次々と食卓に並べる。

飾り付けも上々だ。クリスマスパーティーにはフィナの両親であるゴルドア家の夫妻も参加している。このため、ゴルドア家に世話になってるものや、この機会に縁を結びたがっているものも多数参加した。

今や修道院の中だけでは、人数が入りきらず、この寒い中、庭園パーティーまで開催する事になった。当初、ガイアとリーアが用意していた飾り付けよりもはるかに洒落た飾りの数々が、修道院”希望の家”で開催されるパーティーを華やかなものにしていた。

「そういえば、ガイア、最初に手に持っていた包みって結局なんだったの?」

リーアが尋ねてくる。ガイアは脇に山積みされた荷物の中から、リーアの指す包みを取り出し、リーアに手渡す。

「リーアへのクリスマスプレゼントだ。」

リーアは包みを開けて中身を除いた瞬間、口を手元でおさえて、短く声にならない言葉をあげた。心無しか瞳が潤んでいるようにも見える。

「本当にもらっていいの?」

「ああ、リーアに受け取ってほしいんだ。」

それは、リーアが両親のリースとクルーアとともに手をつないでいる様子を表現した彫刻が飾り付けられており、その周囲にガラス玉の細工がちりばめられている、ぜんまい仕掛けのオルゴールだった。リーアの脳裏に幼い頃の両親との記憶が蘇る。ガイアはプレゼントとともに、リーアへの思いを口にする。リーアもまた、ガイアの思いを受け入れるともに、ガイアへの思いを告げた。

二人は手をつなぎ、希望の家で開催されている、いつもより豪華なクリスマスパーティーに参戦した。フィナは車椅子を与えられ、従者が後ろから運転する。自分で料理を食べる事が出来ないため、従者がプレートに料理を少しづつ取り分け、フィナにどれを食べたいか尋ねる。

車いすに乗りながら、従者に食べさせてもらってる形なので、決して見た目が格好いいとは言えないが、それでもフィナは嬉しそうだった。おそらく、こんな大勢の人々に囲まれる事自体がほとんど無いのだろう。俺とリーアもフィナの元に行き、従者の方に断って、車椅子を後ろから掴んで、運転してあげる事にした。

俺が右の後ろ、リーアが左の後ろについている、車椅子の取っ手をそれぞれ掴んで、フィナを乗せて、パーティー会場を適当にうろつき回る。フィナは出会う人全員に挨拶を交わし、人との触れ合いを楽しんでいた。普段家から出られないフィナにとって、人が大勢集まるパーティーは、まるで別の世界だっただろう。

ちなみにゴルドア家でもパーティーが開催される事はあったが、フィナは参加した事が無かった。フィナの両親はなんどか参加を勧めてみたのだが、有力者の家で開催されるパーティーでは、政治的な要素もおおく、フィナは足手まといになる事を恐れて、自分から身を引いていたのだ。

だが今は違う。もちろんこのパーティーにも、ゴルドア家との親睦狙いで参加している者達はいたが、大抵の者はパーティーそのものを楽しむために参加している。変な気遣いも無用で、遠慮なく楽しんでいいんだと知り、フィナは手足こそ動かせないものの、思う存分笑顔を振りまく事が出来た。でもやっぱり自分で歩いてパーティーを楽しみたい。自由に動き回る事が出来れば、もっともっと楽しめるのに・・

そんなフィナの思いに呼応するかのように、突然音楽がなりだした。先ほどガイアがリーアにプレゼントしたオルゴールをリーアがかけてみたのだ。すると不思議な事に、曲がなっている間、フィナは自分の身体に力が入っていくのを感じた。恐る恐る、指先を見つめる。

動いた・・最初は人差し指、次は中指・・どんどん手の指が動かせるようになる。すると今度は足にも力が入る。少しづつ膝を動かし、ついにフィナは車椅子から降りて、立つ事が出来るようになった。フィナの行動に驚く使用人達。

「これは一体・・」

「なんかよくわからないけど、フィナ、身体が動かせるみたい。クリスマスの奇跡かな。」

後から分かった事だが、実はフィナの病気は、肉体的なものではなく、精神障害の一種で、身体を動かす事に対する過度な恐怖心からくるものだった。ゴルドア家に出入りする者たちの中には、両親に取り入るためにフィナを利用しようとするものも、少なからずいた。

まだ幼いフィナはそんな彼らの自分を見る目に、だんだん怯えるようになり、それがいつしか自分が動けなくなれば、そんな人たちと会わずに済むのにと思うようになった。思いは段々と強くなり、いつしか一種の自己暗示のような形で、フィナの身体を蝕むようになった。そしてフィナの極めて希有な病気である、一日に数時間しか動けないという症状へと発展していったのである。

ガイアがリーアにプレゼントしたオルゴールのメロディーは、偶然にもそんなフィナに安らぎを与え、恐怖心を取り除く作用をもたらしていた。フィナの中で肥大化していた目に見えない恐怖心は、オルゴールの曲を聴いているうちに、段々と小さくなり、ついには消え去っていった。

恐怖心が消えると、フィナの身体を蝕んでいた要因が取り除かれ、フィナの手足が少しづつ動くようになっていった。ガイアがリーアへの思いを込めて作った優しいメロディーを奏でるオルゴールは、フィナの恐怖心をも溶かしていくこととなった。

今年はホワイトクリスマス。この日、ガイアとリーアは晴れて恋人同士となり、フィナは身体の自由を手に入れた。感極まったゴルドア家の夫妻は、修道院”希望の家”を今後全面的にサポートすることを約束する。使用人達はフィナが動けるようになった事に、感極まり涙を流した。

冬の寒空の下、街のひとかどで起こった小さな奇跡は、パーティーに参加した全ての人々の心に、暖かな光を灯す事となった。

「フィナ、もう歩けるんだね。ありがとう、ガイアお兄ちゃん、リーアお姉ちゃん。」

「こんなことってあるんだなぁ。なぁリーア、俺たちもさ、もし結婚して子供が出来たら、その子供が例え不遇な目に遭っても、絶対に見捨てず、守ってやろうな。まぁ、健全に育ってくれるのが、一番なんだけどさ。」

「その前に、何で私があなたの子供を産むのが前提になってるのよ?」

「え、だって・・えっと・・リーアは嫌なのか?」

「知らないわよ、そんなこと。」

リーアが照れから、ガイアを置いて、どこかへ去って行く。慌てて追いかけるガイア。二人の様子をみて、フィナもゴルドア家の面々や人相の悪い使用人達達が、一斉に笑い出す。クリスマスの夜に起こった小さな奇跡は、クリスマスが終わった後もずっと、ここに参加した人々の心の中に残り続けていった。

評価や感想は作者の原動力となります。
読了後の評価にご協力をお願いします。 ⇒評価システムについて

文法・文章評価


物語(ストーリー)評価
※評価するにはログインしてください。
感想を書く場合はログインしてください。
お薦めレビューを書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ