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第二十四話:笑顔に勝るものは無し
「何、オレたちの馴れ初めが聞きたいだって?」
「え? いや、別に……」
「しょーがねーなー、特別に教えてやろう、オレとコトちゃんの運命の出会いを!」
「いや、だから……」
「そう、あれはオレらのバンドがデビューしたての時だった……」


 ++++++++++


 そう、あれはオレらのバンドが、デビューして一年目の時だった……。

 ビジュアル系として出てきたオレたちだったが、オリコンでいきなり上位を取るという功績にも拘らず、オレの心はずっともやもやとしていた……。
 ずっと思っていたんだ。何かが足りない、と……。

 プロになって、あまりの目まぐるしさに、オレは忘れちまっていた。あの、学生時代の狂おしい情熱を。

 そんな時だ。それに出会ったのは……。
 それは道端に打ち捨てられていた。
 雨風に晒されながらも、まだまだ十分に使えるそれを見た時、オレの中であの甘酸っぱい記憶が蘇ってきたのさ。

 オレは、感動で打ち震えながらそれに近づいていった。
 そしてオレは、それを手に取ったんだ。

 『エロマニア』という一冊の雑誌を。


 ++++++++++


「って、ちょっと待った!! 何でそこでエロ本!? 馴れ初めは!?」

 オレは思わずつっこんでいた。
 そして、チラッと一ノ瀬を見ると、物凄く冷たい目で、自分の父親を見ていた。
 晃さんはというと、やれやれと言った感じで、苦笑している。
 紅小鳥は相変わらず、ニコニコと煎餅を食っていた。

「何だよ、少年。これからがいい所だってのに、途中で話し止めるなよ」

 少し拗ねたように大和さんが言う。

「いや、だって、そこからどうやって馴れ初めに……」
「ふふふ、聞きたいか? 気になるか? では、思う存分続きを話してやろう!」

 そうして、大和さんはまた続きを語りだした。

「そして、オレはその『エロマニア』を手の取り、読み耽っていたのさ」

 って、読んだのかよ!

「その時だ、オレは可憐な声に呼び止められた。オレはその声に振り向き、全身に衝撃が走った!! そこには、当時アイドルとしてデビューしていたコトちゃんが立っていたのさ!!」

 はぁ!? それって最悪な出会いじゃね?
 だって、エロ本読んでた所バッチリ見られてたんだろ?

「そしてコトちゃんはオレに言った。『その本面白いですか?』ってな!」

 最悪な質問出た!

「オレは『とても面白いです! 特にこのおっぱいは最高です!』と答えた!」

 こっちもこっちで最低な答えだ!!

「それからオレたち二人は仲良く、道端でその本を読んだのさ!」
「何でだよっ!!」

 オレはまた、声に出してつっこんでいた。

「何でも、コトちゃん色気について勉強したかったみたいでな、グラビアで色気のあるポーズを研究してたんだ。
 その後コトちゃんは見事トップアイドルとして、知らない人間はいないまでに成長した! オレも影ながら応援した!
 そしてコトちゃんは映画デビュー、オレのバンドはその映画の主題化担当。で、そうして再び出会った俺たちは愛を育み、こうして今に至るわけさ!」

 すると大和さんはおもむろに部屋を出て行ったかと思うと、その手に何かを持って戻ってくきた。

「そして、その時のエロ本を、こうして我が家の家宝として残してある!!」

 バッと見せたそれには、色褪せてはいたが、しっかりと『エロマニア』と書かれていた。

 最悪の家宝だーー!!
 何つー物を残そうとしてんだよこのおっさん!

 オレは頭を抱えた。
 心中を察し、オレは一ノ瀬を見る。
 もはや一ノ瀬は、雪の女王の如く冷たい目で、大和さんを見ていた。
 相変わらず、一ノ瀬の母の紅小鳥は、ニコニコと煎餅を食っている。ここまでくると、何も考えてないんじゃないかと思うオレだった。


 その後、そんな感じで、大和さんから色々とアホ話を聞かされた。
 そんな中で、オレの大和さんへのイメージは、クールでカッコイイからエロオヤジで面白い人に変っていった。
 因みに、物腰が柔らかく、落ち着いた雰囲気の晃さんは、俺の中でいつの間にやら、尊敬する人物となっていき、オヤジ達シリーズについてもいっぱい語った。
 後、一ノ瀬の見せたい物だが、バンドに縁のある物の置かれた部屋の事であった。 ファンのオレとしては、大興奮してしまった。
 そして、ふと一ノ瀬がこんな事を大和さんに言った。

「それにしても、何で武士ギャラクシーなんて変な名前を……?」

 それについては、俺も聞いてみたい事だった。
 すると、大和さんはショックを受けたような顔になって、

「ヘ、変な名前だって!? ミカたん! それは酷すぎるぞ! パパ泣いちゃうぞ!」

 目をウルウルさせ、悲劇のヒロイン宜しくな仕草で、そんな事を言う。

「このバンドの名前はな、学生時代にオレと翔の二人で付けたんだぞ! 翔は時代劇とか、侍とかが好きで、どうしても武士って言葉を入れたいって聞かなくてな、オレはオレでその当時オレが物凄くはまってプレイしていたゲームの名前の一部を付けたんだ!」
「ほー、そうなんですか」
「それで、そのゲームって言うのがな、学生時代のオレに夢と希望を与えてくれた伝説のエロゲー“おっぱいギャラクシー”だ!!」

 またエロかよっ!! って、一ノ瀬がまた冷たい目で大和さんを見ている!
 何でこの人、いちいち余計(アホ)な事言うんだ?

「因みに、お前たち姉妹のマリっぺとミカたんは、そのゲームのヒロインの名前だー!!」

 最低なネーミングだーー!!

 オレは一ノ瀬を見た。
 一ノ瀬は今までの冷たい表情からは想像でいないほど、ニコニコと微笑んでいる。

 ?? 何だ? 何で笑って――。

「ウザい、キモい、あっち行け!」

 一ノ瀬は大和さんに、そう言い放った。
 大和さんは、それを聞いて非常にショックを受けた顔をする。

「そんなっ、暫くはそのセリフは出なくて安心してたのにっ!! もしやまた、イケメン恐怖症!?」

 は!? イケメン恐怖症?? 何だそれ?

 と、その時だった、バリッと言う音と共に、

「そ、そんなっ、大和さん……」

 という呟きが聞こえてくる。
 振り返ると、一ノ瀬の母親、紅小鳥が、持っていた煎餅を真っ二つに割って、ワナワナと震えていた。
 そして、何故かハッとなる、オレ以外の面々。

「エ、エロゲー……? エロゲーって事はある種の恋愛シュミレーション。恋愛シュミレーションって事は、擬似恋愛……擬似恋人、擬似愛人……。そんなのっ、そんなもの――……浮気だわーー!!」

 そう叫ぶと、ダッと駆けて行き、リビングの奥にある『小鳥の小部屋』と、書かれた部屋に入っていってしまう。

 って、ちょっと待て! 今まで散々エロ話してただろうが!

 そんな事を思っていると、大和さんがすくっと立ち上がり、俺たちに向かって、

「聞いたか、おい! オレ、ゲーム相手にヤキモチ妬かれてる! オレってば愛されてる!」

 そう言うと、紅小鳥が入っていった部屋に向かって駆け出した。

「母は別にエロっぽい話については寛容ですが、恋愛に関しては敏感に反応してしまうんです」
「ハハッ、以前プロモで大和が女性と絡むシーンがあったけど、その時もコトちゃん凄かったな」

 一ノ瀬と晃さんがそう言う。

「コトちゃーん! それ、コトちゃんと出会う前の話だから! 今はコトちゃん一筋だから!
 コトちゃんの為なら何でもする。けつバット百回叩かれてもいい! おまけにその後ケツで割り箸割って見せるからっ!!」

 って、おい! そんなの誰も見たくねー……。

 一瞬シーンと静まり返る室内。
 その時、ガチャッと扉が開いた。
 ウルウルと瞳を潤ませた紅小鳥が、じっと大和さんを見ている。

「駄目……」

 口を開くと、ボソリと喋った。そして、大和さんに抱きついた。

「そんなの駄目ー! 大和さんのお尻が血だらけになっちゃうー!!」
「聞いたか、おい! オレ心配されてる! やっぱりオレってば、愛されてる!!」

 そうオレ達に向かって、大和さんは嬉しそうに親指を突き出すのだった。

「……すみません、同志……なんか、アホアホな夫婦で……」

 疲れたように呟く一ノ瀬に、オレもまた乾いた声で、

「いや、何つーか……愉快でいいんじゃね?」

 と、言っておいた。

 
 そうして、楽しい(?)時間もあっという間に過ぎ去り、帰る事となったオレ。

「また遊びに来いよ!」
「今度、ゆっくりオヤジ達の話でもしよう」
「ミカを宜しくー」

 大和さん達に玄関で見送られ、そして一ノ瀬はわざわざ、下まで降りてきて、俺を見送ってくれた。

 あ、そういえば、何でこいつ泣いてたんだ?

 そんな事を思っていると、一ノ瀬がにっこりと笑って言った。

「今日は同志に会えて良かったです。バイト先でなんかもう、色々とあったので、同志のお陰ですっかり気分が晴れました」
「そうか? 寧ろ俺の方が、楽しませてもらったっつーか、すげー贈り物してもらえたっつーか……」
「同志が嬉しそうにしてくれれば、私も嬉しいですよ」
「え?」
 
 そ、それってどういう意味だ!?

 何だか悶々と悩んでいると、一ノ瀬が俺の手を取った。
 ドキッと心臓が高鳴る。

「何なら、本当に唇に触ってみますか?」

 そう言って、一ノ瀬は俺の手を、自分の唇へと近づけてゆく。
 俺はカァーと顔が熱くなるのを感じ、慌てて手を離した。

「い、いいいって!! そんな事しねーでもっ!!」

 すると一ノ瀬はプハッと笑った。

「やっぱり同志はこうでないと! あの俺様な同志はいただけませんよ!」

 そう言って笑う一ノ瀬は、凄く楽しそうだ。
 何か、からかわれた感が否めないオレだったが、泣かれるよりはマシかと思い直し、一緒になって笑うのだった。

 さて、ミカ父のアホっぷりは如何でしたでしょうか。
 結構彼のキャラに、私自身はまっております。
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