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family fake 作者:りえぞうプロジェクト

起の章 本編

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ディナーはめぐり逢いのあとに 4

 
 榊が病院の中に入ってから、十五分位は経っただろうか。
篤は病院内の売店で、小腹を満たせそうな物を探していた。

 最近の総合病院だと、全国規模の有名コンビニ等が院内に設置されているところが多くなってきたが、瑞穂中央病院内には、昔ながらの売店と言っていいレベルのものがあるだけだった。ましてや、夕方の病院の受け付け時間も終了した後では、目ぼしい食料品などはみな売り切れた後だった。

 篤は缶コーヒーを二本、そして唯一残されていたサンドイッチのタマゴサンドを手に取った。

 夕方の五時半を過ぎ、まもなく閉店作業を迎えようとしている店員は、篤の存在を邪魔そうに見ている。
商品も無ければ、居心地も悪い店に心の中で舌打ちをしながら、缶コーヒーとサンドイッチをレジに運ぶ。不機嫌そうな中年の女性とのやり取りで、いつもの榊の接客がどれだけ素晴らしい事かを相対的に感じられた。

 買い物を済ませ、一人車に戻った篤はサンドイッチを咥えながら瑞穂中央病院の外観を眺める。もともとは篤の働いている職場の近くにあったのだが、老朽化のために郊外に大きく作り直されたものだ。

 五階建ての総合病院になっていて、一階に外来診察室が内科や外科など沢山置かれている。その真ん中に中央処置室としてナースが対応するエリアがあり、簡単な検査や静養できるベッドが並んでいる。後は受付や会計の窓口で、受付の隣には地域医療連携室なるものが設置されている。そして、裏側に救急で搬送された患者様の救急治療室がある。

 篤にとって病院、とりわけ医療というものに興味を持ったことは無かったし、幼い頃から全くと言っていいほど病院に掛かった事さえ無かった為、現在の榊親子の状況を想像することさえ難しかった。

 『今の自分に出来ること』というものを建設的に考えても、結局は榊がいつ出てきても良いようにここで待つ事、という答えに落ち着く。

 車内での時間の潰し方に慣れていない篤は、こんな事なら先ほどの売店で雑誌でも買っておくんだった、と今更ながらに後悔したが、すぐに愛想の悪い店員の顔が浮かんできて、もう少しゆっくり買い物出来る雰囲気出しときゃいいのに、と愛想の悪い店員に向けて愚痴をこぼした。

 そんなこんなで時間を少し紛らわせていると、意外にも榊の姿が病院から出てくるのが見えた。思ったよりも早いな、と思い時計を見ると、まだ六時を過ぎたばかりだった。

 小走りで車に近づいてくる榊の右手は、何やらクリアファイルにまとめられた書類などが見える。

 篤は運転席から出て、車の前に榊が到着し、呼吸が整うのを待った。

「すいません。お待たせしてしまって」

「いやいや。まだ、そんなに時間たってないですよ。もう大丈夫なんですか?」

「はい。実は、母を一度連れて帰る事になりまして、帰り・・、一緒に乗せて行ってもらっても大丈夫でしょうか?」

 申し訳なさそうに謝った後に、やはり申し訳なさそうに訴える榊。何だか、こっちが逆に悪い気になってくるな、と思いながらも、

「もちろん、大丈夫ですよ。ここに、お母さん置いてく訳にもいかないじゃないですか。後ろ、片付けておくので、どうぞ連れてきてください」

 と、篤が答えると、ぱぁ、と花が咲くように榊の顔に笑顔と安堵の色が零れる。

「ありがとうございます。今、受付にいるんで連れてきますね」

 そしてまた、小走りで病院のほうへ向かっていく榊。

 その姿を見送りながら、視線だけでなく心まで彼女を追おうとしてる自分自身にハッとする。

 太陽と出会えた向日葵の様な笑顔。純粋さと直向ひたむきさを感じさせる一つ一つの所作。そして、何より彼女の持つ穏やかな雰囲気に、知らず知らず優しい気持ちになっている事を遅れて自覚する。

 そんな自分に驚きつつも、今まで感じたことの無い感覚に包まれていることを理解しながら、なお戸惑い方さえよく知らない自分に少しだけ呆れる。

 篤は『不器用な生き方をしてきたものだな』、と心の中で自嘲し、後部座席の決して多くはない荷物を乱暴にトランクに移動する。

 まだ、榊親子の姿は見えない。

 それを確認した篤は、すぐ親子が車に乗れるように、とロータリーになっている病院の入り口の方に車を移動させようとしたとこで、一つの疑問が生まれた。

「検査する、って言ってなかったっけ・・・?」




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