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人食い森のネネとルル 作者:月宮永遠

3章:人食い森と追跡者

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 ネネはルルの正体を知らない。ミハイルは知っているとでも言うのだろうか……。

「おや、本当に知らないのですか? ルルはネネにとても執着していると聞きましたけれど……、名前を教える気はなかったのかな?」

 馬鹿にされた気がした。
 まるで、お前などルルにとって大切な存在ではないのだと……、そう言われた気がした。

「違う! ルルは、自分の名前を知らないんだ」

 ミハイルは可笑しそうに笑った。

「そんなわけ、ないでしょう。名前も知らない魔性が、浴びるほどの聖銀弾を抜けられるものですか。あれだけ力のある魔性が、名前を失ったままだなんて、おかしな話だと思いませんか?」

 そう言われると、不安な気持ちが芽生えてしまう……。
 ルルがとても、力ある魔性だということは判る。そう思わされる場面を、何度も目の当たりにしてきた。

「ルルを、どうするつもり?」

「心配ですか?」

「当たり前だ」

 ――まさかもう一度、睡蓮沼に落とす気なんじゃ……。

 最悪の場合を想像してネネは怯えたが、ミハイルの答えは意外なものだった。

「あれだけの力ある魔性です。消すには惜しい。私の傍に置きたいと思っています」

「えっ!?」

「さて、ルルは本当に何処にいるのですか? 無駄足はご免ですよ。それとも、ネネを連れ帰れば、会いに来てくれるでしょうか?」

 ぎくりとさせられた。
 ネネだって、人食い森の外へ連れ出されるのはご免だ。けれど、仮にルルがネネを探しに来てくれたとしても、これだけの人数を相手にするのは流石に厳しいだろう。
 二人して捕まるのは、もっとご免だ。
 ミハイルが手綱を引いて、馬をゆっくり歩かせると、いよいよネネは悲鳴を上げた。

「嫌だ! 行きたくないっ! アタシやルルが、何したっていうんだよ! 放っておいてくれよ……!」

「ルルの正体は、リヴィヤンタン――人を堕落させる、恐るべき闇の始祖精霊ですよ。目覚めてしまったからには、放っておくわけにはいかないでしょう」

「は……? 何言ってるんだよ、アンタ……」

 ネネは抵抗することも忘れて、呆然と呟いた。

「貴方達のことは、ゴトフリーから聞いてます。恐ろしい魔性の甘言に負けて、聖銀の檻から出したのでしょう。ネネ?」

「それは……」

「あの聖銀は、ガブール教会の資産です。それを勝手に盗みましたね? 魔性に力を貸し、窃盗を働き、あげく立入禁止区域で無断に狩猟をしている――重罪です。ネネ、貴方は斬首に処されてもおかしくはないのですよ?」

 ――斬首……。

 この先、そんな恐ろしい極刑が待っているのだろうか。
 それとも大聖堂カテドラルに連れて行かれ、異端審問にかけられた揚句、拷問の末に殺されるのだろうか――。

「かわいそうな、ネネ。私の言う通りにするのなら、助けてさしあげます。ルルは、何処にいるのですか?」

 ミハイルの優しい言葉が、一縷いちるの希望に聞こえてくる。
 でも、惑わされてはいけない。
 この男は人の皮を被った、化け物だ。ルルを見つけたら、きっと酷いことをする。言うことを聞いたところで、どうせネネもルルも、無事では済まされないのだ。

 ――ルル、来ちゃだめ……!

 歯が鳴りそうなほど怖いけれど、ルルが見つからなければいい……。
 そう考えると、ルルが戻ってくる前に、いっそ人食い森を出てしまった方がいいのかもしれない。

「優しい子ですね。ルルを庇ってるのかな? それとも美しい魔性に心を奪われてしまったのかな?」

「……」

「ネネは騙されているんです。あの魔性は昔、王都を恐怖に陥れた悪魔です。人の心を操り、精気を貪る……。敬虔けいけんな信徒が幾人も魔の手に落ちました。ネネのように、従順に精気を差し出して、最後は魂を抜かれて終わる。判りますか? ルルにとって、ネネはただの餌なんですよ」

 耳を貸すものか、そう思っても胸が痛んだ。否定せずにはいられなくて「嘘だ」と小さく呟いた。
 ミハイルは穏やかに笑う。

「精気を差し出す者は、皆そう言うんです。美しい魔性に魅せられて、もはや正常な判断が出来ないのですね。かわいそうな、ネネ……」

「黙れよ……」

 ミハイルの言葉は毒だ。聞いている端から、心が凍りついてしまう――。

「嘘だと思うなら、ルルに聞いてごらんなさい。貴方を餌だと思わないのなら、どうしてルルは名前を隠していたのかな? 魂を抜いた痕跡があるのは、どうして? やましい心が一遍もないのなら、本当のことを教えてくれるはず――」

 森を照らす幾多の松明が、フッと風もないのに消えた。ひんやりと、身の毛もよだつ冷気が辺りに流れる。深く仄暗い森の中で、勿忘草わすれなぐさより尚青い瞳が、魔性を帯びて爛々と輝いていた――。

「――黙れ」

 ルルは恐ろしく冷たい声を発すると、ミハイルを憎悪の眼差しで睨みあげた――。



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