第5死 来訪者
「……どーして見つからないの?」
雨でもないのに傘を差す金髪の少女。
その周りには、跪いた黒い人型の塊があった。
少女はその黒い人型の塊の一つを足で踏みつけた。
「ボク言ったよね? 早く見つけないと、“オヤツ”抜きって」
ピガガガ
人の声とは程遠い甲高い鳴き声が耳に刺さった。
「言い訳なら聞きたくな〜い! 早く捜してきて!!」
ギャピピピ
そして黒い塊は消えた。
そこに残ったのは、傘を差す少女だけ。
「ど〜こかな? ど〜こかな〜?
ボクのだぁーいじなぁ
お人形ぉ〜
かくれんぼはやめて
で〜ておいでー!
ボクのだぁーいじなぁ〜
『光』」
**
「と、言う訳で。今日から働くことになった。氷見歌だ」
「どーも」
改めて紹介をする雛罌粟の隣に頭を掻き、照れ隠しをしている昨日病院から連れて来た(拉致った)氷見歌という少女が立っていた。
「……へぇー」
「何だ、反応薄いな。もっと盛り上がらんか! つまらん」
「うわー、すごいなー。こんなとこで働いていいのかなー?」
「よし。それでいい」
「…………」
思いっきりの棒読みにも動じぬ雛罌粟を氷見歌は無言で見つめていた。
アキラはつまらなさそうに腕を組んだだけだった。ツッコミどころかと思ったが、段々めんどくさくなってきた。
氷見歌はアキラをに向き直り歩みよって、手を差し出した。握手、ということだろうとアキラは他人事のように思った。
「よろしくね」
「あー、うん」
不器用に手を出し、握手をする。
その手は氷見歌――闇――にとって、とても大きく感じられた。
変わってない。この大きな手は。
「アンって呼んでね」
「お、おう」
変わるんだ。私は。
守られてばっかだった結果が、深遠なる闇だった。
だったら、今度は……。
「守る側になってやるんだから」
硬く心に決めたことは、誰にも覆せないのかもしれない。
でも、もしそれができるとしたら……。
自分の心だろう。
「ところで、もう一人紹介する奴がいるぞ」
雛罌粟が相変わらずキセルを咥え、足元を指さした。
「コナだ。よろしくしてやれよ」
足に絡み付いていた“モノ”を持ち上げ、前足を上下に動かした雛罌粟。
言動に縛られず、可愛いところがあるんだ、と少しアンは感動を覚えた。
「あ、昨日の!」
「? 知ってるのか?」
昨日自分の部屋に行く時に窓の外にいたということを、アキラが手短に話すと雛罌粟は呆れた顔でコナと睨みあった。
「貴様、あれほど早く帰れと言ったのに、何をしていた」
ニャー
「大体貴様は何故いつもいつも昼寝ばかりしているのだ?!」
ニャー
「貴様……! 侮辱してるのか?!」
「おおお、落ち着け! なっ?」
「離せアキラ! 今日こそこいつを……!」
猫の首を絞めんばかりの怒気を放つのを見たアキラは、急いで雛罌粟からコナを奪った。
アンは何をすればいいのか分からず、おろおろしていた。
「つーか、猫飼ってるなら、早く言えよ!」
「だから! 今日言っただろうが!」
「あ、ああああの……」
こうなっては、アンでは二人を止められないだろう。
アンはそれが分かり、ヒクヒクと小声で泣き出した。
それにぎょっとしたのがキセルをくわえたお嬢様。
「お、おい! アキラ! なんとかしろ!!」
「え゛ なんで俺が……?」
「いいから早くしろ!」
雛罌粟に大声で指示され、仕方なくヒクヒク泣いているアンに近寄った。
以外と泣き虫なんだな……。
『お、おいおい。泣くなって! 闇は泣き虫だな〜』
まただ。
声が響いた。
しかし、それは一瞬だった。
「おいおい、泣くなって!」
勝手に口は開き、言葉を紡いでいた。
まるで、昔から口に出していたフレーズを喋るように。
「闇は泣き虫だなっ」
その勝手に紡がれた言葉に、アンは勢いよく顔を上げた。
瞳にはさっきまで泣いていた悲しみなど無く、驚愕があった。
しかし言葉に詰まり、口をパクパクさせていた。
何かまずいことでも言ったのだろうか?
しかし、アンが声を出すより先に雛罌粟が声を上げた。
「お前……っ、何故その言霊をッ!?」
「へ? は?」
肩を強い力で掴まれ、鋭い眼がアキラを射抜いていた。
その瞳は言い逃れることを許さない瞳だった。
「お、俺は……?」
言葉は続かず、突然の来訪者によって止められた。
「見ぃ〜つけぇーたぁー」
その言葉はとても軽く、とても飄々としていた。
しかし、それ故に残酷だった。
「捜したよ、ボクのだぁ〜いじな
『光』」
ふざけて聞こえるその言霊には、“愛”が込められていた。
追いかけて追いかけて……、でも追いつけなかった儚い恋を匂わせる、言霊。
「金木犀!」
傘を差した少女の名前を呼んだのは、雛罌粟だった。
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