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 この作品は『ギフト企画』参加作品です。 初めての企画参加投稿なもので、物語と言うにはおこがましい位稚拙な話ではありますが、読んで頂けたらこれ幸いです。
縁側のクリスマス
作:らんた


 繁華街から少し離れた、のどかな山間の小さな町。

 クリスマスに賑わう中心街を他所に、この町はいつもと変わらない呆れるくらいの呑気さに包まれている。


 この時期には珍しい、ポカポカ陽気の天気に恵まれたこの日、いつものように縁側で老人が一人ひなたぼっこに興じている。

 映画での農村の1シーンのような、お茶にお煎餅、そして、傍らにはお世辞にも可愛いとは言い難い牛柄の、所謂ブタ猫がトグロを巻いて寝息を立てている。

 これ以上の平和があるのだろうか、というほど長閑さだ。


「じいちゃん!」


 孫の祐介である。


「…生きてるよなぁ、…じいちゃん!」


 呼びかけには一切反応せず、おそらく冷えているであろう湯呑みをゆっくりと口に運んだ事で、祐介は小さな安堵のため息をつくのであった。


「……ったく、いつも驚かせるんだから、じいちゃんてばよぉ。」


 もちろんじいちゃんは動じない。……そういう年寄りなのである。


「はぁ、いつものじいちゃんか。」


 少し呆れたように、しかし安心したように、祐介も縁側の少し距離の離れた座布団に腰を下ろす。

 眼前の山並みが、冬の陽射しに照らされてキラキラと輝いている。


「やっぱ綺麗だよなぁ。じいちゃん。」


「ハァ〜」


 返事ともため息とも、どっちともとれる声を漏らすじいちゃん。

 表情は笑顔だ。

 いや、もう笑顔で固まってしまっているような、シワくちゃなじいちゃんの顔なのだ。

 祐介が覚えている限り、じいちゃんは昔からずっと笑顔だ。


 祐介は事あるごとに、じいちゃんに話をしてきた。

 初恋の時。
 友達とケンカをした時。
 進路で悩んだ時。
 社会に出てから人に裏切られた時。

 いつもじいちゃんは笑顔で聞いてくれていた。

 幼い頃に父親を亡くした祐介にとって、じいちゃんは祖父であり父親でもあった。

 優しいじいちゃんは、いつも無条件で祐介の味方をしてくれる。
 なのであまり参考にはならなかったが、祐介にとっては何よりも心強い、居心地のいい場所だった。


「……じいちゃん。オレ、どうしたらいいか迷ってたけど……進んでみようと思うんだ。」


 山並みから視線を外さないままのじいちゃん。


「……祐介かぁ。」


「オイオイじいちゃん、遅いって。」


 苦笑いの祐介。

 牛柄の猫がムクっと起きだし、ノッシノッシと祐介に近づいてきた。
 ゴロゴロと喉を鳴らしながら祐介の座布団に体を擦りつけてくる。


「まったく、お前も遅いんだよ。ブク。」


 このぶた猫の名前である。


「前はオレのトコにすぐにすっ飛んできたクセに。」


 祐介は呆れながらも目を細めた。


「……決めたのか。」


 じいちゃんはまるで独り言のように呟いた。


「うん。」


 祐介は穏やかな表情で続けた。


「ずっとじいちゃんに助けて貰いっぱなしだったからなぁ。でもいつまでも甘えてられないもんな」。


 ウン、ウンと、じいちゃんは笑顔で小さくは頷く。


「じいちゃん、寂しくならないか?」


「はっはっは。一人きりになる訳じゃなかろう。」


 その顔をもっとシワくちゃにして、まるで目なのかシワなのかわからないような顔でじいちゃんは笑った。


「じいちゃん、今日はクリスマスイヴだろ?何か欲しいモノあるか?」


「ワシゃ仏教徒だぞ。気持ちだけ貰っておくよ。」


「ハハ、関係ないじゃんか。まぁ、そう言うと思ったけどさ。」


 嬉しそうないつものじいちゃんの横顔を見て、祐介は心底嬉しかった。


「そういやぁ、今日は美津子の誕生日だったなぁ。」


 と、思い出したようにじいちゃんは呟く。


「そうだよ。お袋もいい歳になっちゃったなぁ。
『バリバリの仏教徒なのに、よりにもよってこの日が誕生日よ』って、毎年聞かされてたよ。さすがじいちゃんの娘だよなぁ。」


「……会っていかないのか?」


「顔見ちゃうとさ、決心鈍るだろ?。さっき遠目でチラッと見かけたよ。」


「そうか。……」


 冷えきったお茶を口にするじいちゃんは少しだけ寂しそうな表情を浮かべて、そしてすぐに元の笑顔に戻った。


「祐介、すまんな。お前にはなんもしてやれんかったなぁ。」


「なに言ってんだよ、じいちゃん。感謝してもしきれないのにさ。」


 その一瞬、2人を暖かい沈黙が包む。


「なぁじいちゃん。今日やっぱりじいちゃんを喜ばせたいよ。」


「だから気にせんでええて。」


「うん。だから、じいちゃんが1番喜ぶ事するよ。じいちゃん言い出したら聞かないもんなぁ。」


 悪戯っ子みたいな笑顔を、祐介はその幼さが少し残る顔に浮かべた。


「今日は、ばあちゃんと出かけるよ。何かばあちゃんが喜びそうな事してくるからさ。……じいちゃんって、ばあちゃんの嬉しそうにしてる顔見るのが一番嬉しいんだもんな。」


「そうか、そりゃ嬉しいなぁ。それならお願いするとしようかな。」


「おう。任してくれ、じいちゃん。」


「ばあさんもお前の事ずっと気にかけていたからなぁ。きっと喜ぶぞ。……じゃあ、くれぐれもよろしく頼むぞ、祐介。」


「ああ。……あのぉ、お袋にもよろしく言っておいてよ。
 誕生日……おめでとうって。」


 縁側から腰をあげると、祐介は行きかけて振り向いた。


「それと……これも伝えといてよ。……再検査は受けろって。」





 縁側には同じ恰好のままのじいちゃんが、変わらず山並みを眺めている。

 そして少し離れた誰も居なくなった座布団には、牛柄のブクがその巨体を窮屈そうに丸めている。
 ブサイクこの上ないのだが幸せそうな顔をしている。


「お父さーん。縁側なの?」

 隣の部屋からじいちゃんを呼ぶ声がする。
 じいちゃんが動じるハズは……勿論ない。


「もう、いるなら返事してよぉ、お父さんたら。」


 縁側に娘の美津子がやってきた。


「あら?誰かいらしてたの?ごめんなさい、気付かなくて。準備でバタバタしてたから。」


 じいちゃんの傍に座り、茶碗やお茶菓子入れを片付けながら、美津子はじいちゃんの横顔に話しかけた。


「でも、お父さんもそろそろ用意お願いね。お坊さんもうすぐいらっしゃるから。……ところでどなたがいらしてたの?」


「あぁ?……あぁ祐介だ。」


「え?」


 驚いた表情を浮かべる美津子。
 しかしすぐに心配そうな顔になり、じいちゃんの顔をゆっくりと覗き込む。


「どうしたの?お父さん。……ちょっとぉ、ボケちゃったんじゃないわよね?」


「これこれ、自分の親だろう。見てわからんか?」


「そうだけど……急にそんな事言い出すもんだから、心配しちゃうじゃない。」


「……本当に祐介が来とったんだよ。」


 美津子はより真剣な表情で、心配そうにじいちゃんを見つめた。


「ちょ、ちょっと、お父さん。馬鹿な事言わないでよ。」


「ちょくちょく来とったよ。ずっと心配してくれてたんだなぁ。」


 何を言っているのか理解出来ずに、不安げな様子の美津子。
 じいちゃんの肩をしっかりと抱き、そして顔を再度覗き込んだ。


「しっかりして、お父さん。祐介はいないのよ。」


「あぁ。……わかっとるって言ったろう。でも祐介は来てくれてたんだよ。」


「お父さん……。」


 どうしていいのか解らない美津子は、思わずじいちゃんを抱きしめてしまった。


「おいおい、どうした。泣いとるんか。」


「お父さんがそんな事言い出すから、私、どうしたらいいのか困っちゃうじゃない。」


 やっとじいちゃんがゆっくりと動く。
 美津子の腕を優しく解いて抱き起こし、その泣き顔を見つめ柔らかに語りかける。


「祐介はやっと先に行く事に決めたようだ。1年もわしらの傍で見守っていてくれたんだよ。」


「えぇっ?だって……、祐介は死んじゃったのよ。この一年ずっと後悔してたんだから、私。
 ……どうしてあの時止めなかったんだろうって。」


 じいちゃんは別段気に留める事もなく、変わらず優しい笑顔で話し続ける。


「……祐介は笑っとったぞ。わしにクリスマスプレゼントは何がいい?と聞きおった。」


 しかし美津子は益々困惑したような泣き顔になっていく。


「ちょっと、ねぇ。お父さん、今日はお母さんの四十九日なのよ。何故こんな話をするの?」


「ばあさんを面倒見てくれるそうだ。わしが安心するからと。
……いいクリスマスプレゼントだ。」


「まだ信じろって言うの?もうすぐ法事も始まるっていうのに……。」


「祐介からおまえに伝言があるんだが。
誕生日おめでとうと恥ずかしそうに言っとったぞ。
それと、再検査は受けろとも言っとった。はて、わしには何の事やら……」


 美津子はハッと何かに気付き、慌てて隣の部屋へと向かった。
 すぐにじいちゃんの元へ戻ると、少し大きめな、今日届いたばかりの封筒を開け始めた。

 焦るように封を破く美津子。

 中から緑色の活字が印刷された薄い一枚の用紙を取り出した。
 それを拡げると食い入るように見出す。


「えっ?」


 驚いた様子のまま、その用紙をじいちゃんに手渡した。


「……本当の事だったの?お父さん。」


「だからそう言っておったろうに。」


 じいちゃんは変わらずに優しい笑顔だ。



 ――それは健康診断の結果通知だった。
 異常無しの文字が列ぶその中にひとつだけ、赤い要再検査の文字があった。


「私も今知ったのに……」


「祐介もおまえの事が心配でならなかったんだなぁ。」


「祐介……」


 美津子は仏壇の上に飾ってある祐介の写真を見つめた。

 もう変わる事のない眩しい笑顔の祐介が、2人に温かい眼差しを注いでいる。


「コイツも喜んどるようだよ。なぁ、ブク。」


 じいちゃんの目線の先には、まるで笑ってるかのようなブクが、嬉しそうに祐介の座っていた座布団に体を擦り寄せている。


「あなたも会えたの?ブク。」


 優しくブクを撫でる美津子。
 涙が流れてはいるが、その表情には穏やかな笑顔が戻っている。


「祐介のお陰で、ばあさんの事も安心出来るなぁ。」

「……そうね。祐介は優しい子だから。」


 涙を拭いながらも、美津子は嬉しかった。

 そんな美津子を気遣うように、じいちゃんは柔らかな口調で包み込むように囁いた。

「さあ、ばあさんをあっちへ見送ってやろう。」


「あら、大変。もうお坊さんがいらっしゃるわ。急がなきゃ。」


 2人は、隣の部屋へ行こうと立ち上がった。
 そして祐介の写真が飾ってある仏壇の前でじいちゃんが呟く。


「仏教徒でも、こんなクリスマスなら悪くないなぁ。美津子、おまえもワシと同じ事言っとったんだってなぁ。」


 子供のような笑顔で話すじいちゃんに、美津子は一瞬驚いて、そして恥ずかしそうな表情を浮かべた。


「もう、そんな事まで言ったの?この子ったら。」


 見上げた祐介の写真が、ちょっとだけ悪戯っ子みたいに見えた気がする2人だった。





 ポカポカ陽気のクリスマス。 

 もうじきやってくる益々厳しさの増す冬を前に、山はキラキラと輝いて、つかの間の暖かさに酔いしれる。

 隣部屋からお経の声が聞こえる縁側では、長閑な陽射しを浴びて、一人偉そうにブクが腹を見せた恰好のまま、気持ち良さそうに寝息を立てている。

 嬉しそうに笑って見えるのは気のせいなのか、どうなのか……。


 そして街の喧騒に動じる事もなく、明日もその先も、山は寛大で静かにじいちゃん達を優しく見守るのだろう。





大切な人に、そして
 愛しき全てのモノに……

――Merry X'mas――


このような未熟な話をお読み頂き、ホントありがとうございました。 誰もが楽しいクリスマスですが、実際どんな状況の人にもX'masはやってくる訳で、そんな一幕を描いてみたかったというのがこの物語を書く動機でした。 ……実はうちの婆ちゃんの命日は12月24日でして、私の恐妻の誕生日もこの日という裏話があったりします……  思い切って挑戦のつもりで参加させて頂いたもので、未熟さに不快になられた方もいらしたかとは思いますが、まずは読んでくださった事に心から感謝致します。有難うございました。そして、この場をお借りして私の師匠に感謝と尊敬の念を改めて贈ります。













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