「う〜ん・・・」
歩美は5時間目が始まってもまだ考えていた。
それは、つい先程の4時間目のこと。
「今日は『将来の夢』について作文を書いてもらいまーす!」
小林先生はそう言って、書いた作文は
今度みんなの前で読んでもらうこと、
この時間に完成できなかった人は明後日までに書いてくることを付け加えた。
チャイムが鳴るまでに書き終えられなかった子は少なくなかったが、完全に真っ白のままだったのは歩美を含めてほんの数人だった。
「それで?私に相談したい事って何かしら?」
哀は隣に座っている歩美に尋ねた。
2人は帰りに寄った公園のベンチに並んで腰掛けている。
「あ、あのね・・・哀ちゃん、今日の作文書けた?」
哀は一瞬だけ困惑した様な顔をしたが、すぐいつもの落ち着いた表情に戻り
「いいえ、まだ書けてないわ。あの作文がどうかした?」
と冷静に答えた。
哀がなぜ書けずにいるのか知るよしもない歩美は、少しもじもじしながら答えた。なんだか頬が赤くなってきている。
「あ、あのね・・・歩美ね、大きくなったらなりたいものがいっぱいあって、
どれにすればいいのか迷っちゃって・・・・」
「例えば?」
「まず、探偵!
ずっとみんなで探偵団続けられたらいいなって・・・・・・あと、佐藤刑事みたいなかっこいい刑事さんにもなりたいし、小林先生みたいな学校の先生にもなりたいし
ケーキ屋さんにもなりたいし
お花屋さんにもなりたいし・・・・・」
次々と出てくる憧れの職業の数々。
心のどこかで羨ましさのようなものを感じつつも微笑ましくなり、少し口元が緩んだまま、輝く笑顔を見つめる。
「で、でもね・・・・・・・」
歩美は急に口ごもった。どんどん顔が赤くなっていく。
「い、1番の夢はね・・・・・・・・
あ、哀ちゃん、
笑わないで聞いてくれる?」
「ええ、勿論よ」
「じ、実はね・・・歩美の1番の夢はね・・・・・・・・・コ、コナン君の・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・コナン君のお嫁さん!!!」
そう言ったときの、歩美の顔の赤さを表現しろと言われたらリンゴと言うべきかトマトと言うべきかきっと迷うだろう。そんな顔を見ていたら、笑うなと言われていても思わず笑みがこぼれてしまう。
「あー笑ったぁ!」
「あ、あら
ごめんなさい。 でも可笑しくて笑ったんじゃないのよ。とても素敵だと思ったから・・・・」
「え?」
「夢って、
いくつあってもいいものなんじゃないかしら?今すぐ一つに決めろって言われた訳じゃないし、
あなたの気持ちそのままを書けばいいんじゃない?
ヘンに恥ずかしがって嘘を並べるよりは魅力的な作文になると思うわよ。」
「・・・・そっか!!ありがと、哀ちゃん!!
歩美、正直に書いてみるね!」
その太陽のような
笑顔を見られて嬉しいと思いつつ、眩しさも感じた。
「また明日ねー!」
「ええ、また明日。」
歩美は走って帰って行った。
家に着いたらすぐに書き始めるつもり
なのだろう。
あの、頭は冴えるのに自分の周りの事はさっぱり分かっていないメガネの探偵さんの顔が浮かぶ。
哀はクスリと笑って、さあ自分の作文はどうしようかと考えつつ帰路についた。
後日、作文の発表が行われた1-Bの教室が大騒ぎになったのは言うまでもない。
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