変態だよ!林田くん!(9/12)PDFで表示縦書き表示RDF


変態だよ!林田くん!
作:高橋うがい!!



第九変態「訪問だよ!林田くん!」


「着きましたよ」
 学校から歩くこと十分弱。団地と一軒家が立ち並ぶ住宅街に斉藤の家はあった。表札を見てみると男女二人ずつの名前がしっかりとした字で縦に並び書かれている。父親、母親、弘樹、望美の順だった。
「どうかしました?」望美は黙りこくったままの林田に尋ねた。「気分でも悪いんですか?」
「いや、考え事をね」弘樹は病弱だったが、陸上部に入部してから変わったように思えた。人並み…とまでは残念だがいかなかったが、陸上を始まる前と比べれば劇的に身体は強くなっていたように見えていた。社交的な性格で交友関係は広かった、いじめなどを受けていた様子もなかった。どこにでもいる普通の高校生…引きこもる理由は見当たらない。見当もつかない。岡部のことも含め、複数の疑問が林田を黙らせた。
「上がりますか?」家を指差しながら望美は言った。
「弘樹とは会える?」
「お兄ちゃん、部屋から出てこないんで…たぶん無理かな…」望美は目を伏せた。
「そっか…」
「でも…林田さんが呼びかけたら返事ぐらいはくれるかも…!」
「そうかな?」はっきり言って自信はなかった。引きこもる理由すら分からず、友達として呼びかけるなど白々しく思え、後ろめたかった。
「はい」
 望美は制服のポケットから女子らしからぬ可愛らしいキーホルダーの一つもついていない素っ気無い鍵を取り出し、玄関のドアをあけた。
「どうぞ」
 ただいま、という望美の声を聞き、林田は「おじゃまします」と斉藤家に足を踏み入れた。

 斉藤の家は不気味なぐらいの静けさに包まれていた。物音が一つもなく、綺麗に整えられており、生活臭が皆無だった。
 望美についていくとリビングに運ばれ、ソファーに腰掛けてくださいと言われ、林田は言われた通りソファーに腰掛けた。
「落ち着かないですよね。この家」平テーブルを挟み、向かいのソファーに座りながら望美は苦笑を浮かべた。
「綺麗だな」林田は部屋を見回す。改めて綺麗だと再認識した。「綺麗すぎると落ち着かない」自分の家が落ち着く理由が分かったような気がした。
「そうですか」望美は笑った。
「ところで、弘樹はどこに?」
 望美は笑うのを止め、天井を指差した。「二階です」
 ふう、と林田は一度大きく息を吐き、立ち上がった。「じゃあ行ってくる」
「もうですか?」望美も困惑しながら立ち上がる。
「そのためにあがったんだ」
「そうですけど」望美は納得したようで、「じゃあ私も一緒に行きます」
「うん。もちろん」
「…行きましょうか」
 望美に案内された二階に続く階段は、それまでいた部屋とは打って変わって埃っぽく少しだけ汚れていた。自分の家に比べれば綺麗な方だが…と林田は思った。
「ここです」
 階段を登り終えると、短い廊下があり、『トイレ』と書かれた札のドア。その斜め向かいには何も書かれていない味気ない、もっと言えば物置のような扱いのドアがあった。どうやらこれが弘樹の引きこもっている部屋らしい。
「…お兄ちゃん。林田さんが来たよ」ノックをし、望美がそう言った刹那──。部屋の中から物音がした。望美はそれを弘樹が驚き、たじろいだ音だと判断したようで、「ごめん、言っちゃったの」と申し訳なさそうに呟いた。まるで罪を告白したような、そんな呟き方だった。
「斉藤…いや、どっちか分からなくなるし今は弘樹って呼んだほうがいいかな…。ええと、あれだ。ほら──」上手く言葉に出来ない。そもそも何と言えばいいのか。引きこもるなよ? 学校に来いよな? 悩みがあるなら聞いてやる? 全てが嘘臭く思え、口に出す勇気はなかった。
「林田さん! 大丈夫ですか!?」
 無意識の内に酷い表情をしていたらしく、望美が慌てた。
「大丈夫、大丈夫だから…」自分は弱い、大丈夫などと言っておいて本当はこの場から逃げ出したくてしょうがなかった。
「今日はもう…」
「…ごめん」望美、弘樹。どちらにたいして言ったのか分からなかった。声は擦れ、射程内には二人の人間がいる。それなのに届いていないような──。『友達』だとか調子の良い自分に嫌悪感を抱く。それも、じめじめとどろどろの中間のような中途半端な嫌悪だ。圧倒的に覚悟の足りない生ぬるい感情。
 結局、部屋の中にいると思われる弘樹は何のアクションも、反応も起こさなかった。
 この日、斉藤の家を後にし、帰宅した林田は夕飯も取らずに部屋にこもった。そして、枕に蹲ったまま一睡もしなかった。ただただ、『どうにかしないと』そう思うばかりだった。


―──続く。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
「五月中には書き終えたい」そんな風に考えていたときが僕にもありました…。
最低でも一週間に一度は更新したい。難しくないのにそれが出来ない。体たらくの極みです。

ではでは、次回。






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