第七変態「困難だよ!林田くん!」
財前の姉さんが姿を消し、二週間が経とうとしていた。俺、望美、そして財前の三人は放課後と休日を使い姉の捜索に懸命を尽くしたが、一向として手掛かりはなく、毛の一本すら見つけずにいた。
「やっぱ無理なんだよ」頭を抱え込む財前。「手掛かりねえしさ」
「まあ焦るな、焦って見つかるんなら焦ってもいいけどさ」宥めるように財前の肩を軽く叩く。
「姉貴、なにやってんだろ・・・」
「手紙には『好きな人が出来た』って書いてたからなあ。男と一緒にいるのは間違いないな」財前宅に残された置手紙には、『好きな人が出来た。ごめんね』と達筆な字で簡潔に書かれていた。なんてあっさりとした女性なんだ、と思う。そして不意に黒のパンティを思い出し、にやけた。横に立つ望美が嫌な顔をしているのに気が付き、自分はなんて不謹慎なんだと反省した。
「適当に歩き回ってもラチあかねえよな」
自分も同じ考えだ。ここ一週間の間、自分たちのやってきた捜索活動を思い返してみる。『街を闇雲に探し回る』だけだった。これでは見つかるはずもない。存在するかも分からない鬼の角を掴むことと同じくらいに困難だ。
「ビラでも作ってみるか?」乗らないだろうと分かっていながらも一応提案してみる。
「いいね、作るか」予想外の返答に困った。「でも姉貴、写真嫌いだし。たぶん写真は無いから無理だ」
「そうか」
「変わってんだよ」
「俺も写真嫌いだから分かるよ」
「魂抜かれるってまだ信じてるのかよ」財前は鼻で笑った。若干だが元気を取り戻しているように見える。でもこれは空元気であることは分かっていた。
「抜かれるんだ。こないだもテレビで言ってたしな」
「馬鹿だよ、お前は」
「馬鹿とはなん───」
「あの・・・!」望美が二人の会話を遮った。
二人の「何?」と言う視線を浴びながら、望美は提案する。「岡部先生に頼ってみてはどうでしょうか」
なぜ岡部なのだ。なぜよりによってあの岡部なのだ。
三人の担任である岡部は陸上部の顧問でもあった。パンティ泥棒に部活で得た力を使ってしまったことへの後ろめたさと財前の姉捜索のこともあり、陸上部を去ったばかりのため気まずい。
岡部は生徒諸君からの信頼も厚く、同僚からも頼られているらしかった。
人望のある人なら人脈を辿って何か手掛かりを見つけだしてくれるかもしれない、と望美は早口に述べた。
望美の頼りない説明と財前には悪いが、この提案には乗ることは出来ない。
断りを入れようと口を開こうとすると、それよりも早く財前が口を開いた。
「岡部は駄目だ」きっぱりと言い放った。
「な、なんでだ?」自分ならまだしも、てっきり財前は担任の岡部を頼るのではないかと勝手に想定していた為に声が詰まる。
「岡部は駄目なんだ」断固として、という表情をする財前。
なぜここまで拒絶するのか、と考えていると、ふとある事を思い出す。「そういえばお前、今日の昼休み岡部に呼び出されてたよな」
財前の表情が曇ったように見えた。「ああ、成績のことでちょっとな・・・」
「だから後ろめたくて頼めない、ってか」なら、自分と同じだ。
財前は肯首し、望美の方を見る。「つうわけで、岡部は駄目だわ」
「そうですか・・・」望美は残念な顔・ザ・アワードをあげたくなるような素晴らしい残念な顔をした。
「振り出しだな」
その後しばらくは沈黙と提案、そして却下を繰り返した。これでは意味がない、と思い、惰性で街に繰り出し捜索をした。
分かっていたことだが、この日も財前の姉を見つけることは出来なかった。
三人は解散し、帰路につく。「明日もこの調子だとマズイな・・・」呟きは夜の闇に込みこまれていった。
―──続く。 |