変態だよ!林田くん!(2/12)PDFで表示縦書き表示RDF


前話までのあらすじ:林田が完全な変態になったようです。
変態だよ!林田くん!
作:高橋うがい!!



第二変態「友情だよ!林田くん!」


 林田が引ったくり犯を捕まえ、市長から感謝状を受け取った翌日、林田の通う太宰高校の雰囲気はいつにも増して喧騒に溢れていた。林田が教室に入るや否や、「林田くん、すごいね」とクラスメイトにはやし立てられた。クラスメイトたちは口々に、林田の勇気ある行動を褒め称えたが、林田自身は昨日ついに「変態」になってしまった為、素直に喜ぶことが出来ずにいた。
 誰もが自分勝手に喋るため、声と声が重なり合い、言葉が言葉で無いように聞こえていたが、その中を弓矢のようにまっすぐに通り、林田の鼓膜を揺らす声があった。「林田」財前の声だった。
「財前、俺さ・・・」財前は林田の異変を察したのか、頷き、クラスメイトに林田は疲れてるから少しそっとしておいてやろうぜ、と林田の机に群がるクラスメイトたちに訴えかけた。そこで初めてクラスメイトたちは林田の異変に気付き、名残惜しそうに各自の机へと戻っていった。
「ありがとう、財前」
「いいってことよ、後でゆっくり二人だけで話そう」
「おう」林田が首肯すると、朝の朝礼の始まりを告げるチャイムが鳴り、教室前方のドアが開き担任の教師が入ってきた。「みんなおはよう。さて、朝の挨拶を始める前にまず一言だけ言いたいことがある」担任の岡部は一度、溜息交じりに俯き、そして勢いよく前を向き林田のほうを睨むように鋭い眼光で見た。「林田、よくやった!」

 道端に落ちていた石を蹴りながら、林田はある場所へと向かっていた。ある場所とは、財前とよく待ち合わせ場所にしている街外れの廃ビルであり、放課後はよくそこで教室では出来ないような思春期特有の下品な会話をしたり、週末の予定を決めたりしている。
「すまん、遅れた」
「おせーよ」財前は強い口調ではなく、茶化すように言った。「まああれだけ、クラスの奴らに詰め寄られたらしょうがないだろ」とも付け加えた。
「困ったよ、本当」集合時間に遅れたため、少しでも誠意を見せようと持ち前の部活で得た脚力を使い、走ったので額には汗が滲んでいた。
「部活は?」
「顧問の岡部が今日は疲れてるだろうから休め、ってさ」
「あ、そうなんだ」財前は納得したようで、地面に落ちている小石に手を伸ばした。小石を拾い上げながら、「それで話って?」と言った。トランプの大富豪で八を出したかのように空気が一瞬にして切られた。財前にだけは昨日のことを全て洗いざらい話そうと思い、ここに呼んだのだった。

「・・・お前かあああああああああああああ!」話を終えた後、財前が掴みかかってきた。土ぼこりの舞う、汚い地面に押し倒され、揉みくちゃにされる。「それは俺の姉貴のパンツだ!」盗んだパンティが財前の実姉だったことの驚きよりも、初めて聞く財前の怒声には想像以上の迫力があり、こちらに対する驚きのほうが強かった。
「知らなかったんだ」財前を振りほどき、立ち上がった。
「昨日、姉貴がお気に入りの黒のパンツが無くなったって言ってギャーギャー騒いでたが、まさか犯人がお前だったなんて」財前は怒りを通り越したのか、呆れたような口調で言ったあと、「お前それじゃ変態じゃん」と核心を突く言葉を吐いた。
「そうだよ、俺は変態なんだよ」今日一日、心中、罪悪感で溺れそうだった。自分に向けられるクラスメイトの眼差しが、えぐるように心に刺さり、吐き気がした。「自分は他人から、敬意を賞されるような大層な身分ではない、ただの変態なのだ」と声を大にして叫びたかったが、小汚い自尊心が邪魔をし、出来なかった。
 財前はまた地面に落ちている小石を拾い、それを廃れた壁に思いっきり投げた。小石は少しばかりの損傷を壁に与えただけで、力なく、また地面へと還っていった。

「俺が変態だって知って幻滅しただろう」唯一の親友である財前にだけは、包み隠さず全てを言いたかった。だが、その代償は親友を失くすということに直結していることだった。
「お前は変態だ」残念そうに、財前は口を開けた。
「俺は変態だってこと、お前だけには言いたかった。罪悪感で死にそうだったから」
「まあ、人は少なからず変態だろうよ」空気中に浮かぶ土ぼこりが、ガラスの割れた窓から射してくる光によってはっきりと見えた。
「こんな変態の俺も、幸せになっていいのかな」目の前に立つ親友の視線を受け、涙腺が緩み、いまにも溢れそうになる。財前は顎に手をついて考える仕草をとった。
「お前は変態の前に、一人の人間だろ。幸せになっちゃいけない人間なんていないだろ」財前は真面目な表情で言った。真面目な顔した人から「変態」という単語が口から出てくるのが、なんとなく可笑しかった。
「そうかな」
「そうだよ」
 間を置いた後、財前は思い出したかのように、笑いながら言った。「でも姉貴のパンツは返せよ」と。
 窓から射しこむ光が、はじめは深夜に犯人を追うサーチライトに見えたが、すべてを話終えた後は、優しいお天道様の光に見えた。



―──続く。


引き続き読んで頂きありがとうございます。
・・・残念なお知らせです。まだ続いてしまいます。
ではでは、また次回。






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