サイゾウの能力。竜の笑み
久しぶりの投稿です。
短めな文章ですが、楽しんでいただけたら嬉しいです。
「ぐ!?」
脇腹に激痛を感じた。
「まずは、先制」
槍を引き抜いたサイゾウは血で濡れた刃を払った。
竜は距離をとる。
やられたのは右脇腹。そこから布を赤く染めて出血していく。
(参ったな)
予想以上の出血だ。短期戦でいかないと。不味い。
だが、竜が考えているのは自分の出血ではなかった。
「〝今〟何をした」
サイゾウを見る。
「さあ。何をしたんだろうな」
サイゾウは、誤魔化す。
竜は見ていた。サイゾウに斬りかかった時、煙のように消えたのを。
そして、それと同時にサイゾウの気配が消えたのを。
その消えかたはまるで、遮断されたかのように感じだった。
気配が消えた。変な感じだった
竜は出血をお構い無しに俊足を駆使し、サイゾウの間合いに入る。
ここで竜は眉を潜めた。
サイゾウが今度の一撃には何も反応していなかったのだ。
そして竜の袈裟懸けはサイゾウを切り裂く。
サイゾウは再び煙となって霧散した。
「!」
突如として出現した気配を察知。
振り返るのと同時に右手の刀で槍を払う。
左凪ぎが迫る。
今度は両手に持つ二本で受け止める。
「反応がいいな」
「随分とえげつないですね。その能力」
ここにきてサイゾウの表情から余裕が消えた。
「気配遮断。霧化。その2つの能力があなたのさっきまでの攻撃の正体ですね」
槍の一撃が重くなった。
正解ってことか。
「まさか。こんなに短時間で見破るなんてな。つくづく考えさせられるぜ。お前が無能力なのかって」
「それにしては随分と余裕ですね」
「へ。見破られたくらいでやられてたら世話ないぜ。それに、てめぇは無能。何を恐れる」
無能という言葉を強調するサイゾウ。
「話しはしまいだ。さっさとくたばってもらうぜ」
「そうは、いきませんよ」
再び剣劇が繰り広げられる。だが、さっきまでとは違うところがある。
竜の一撃がサイゾウに当たることはなく。サイゾウ自身が霧化して受け流しているところだ。
竜の一撃に決定打はなくなった。
逆に竜の方はサイゾウの槍につけられた傷が増えていった。
竜の培ってきた反射神経によって一撃を的もに受けてはいないがだんだんと刃が掠り、傷をつくっていたのだ。
形勢は振り。
周囲でミツスケ達を取り押さえ、竜の戦いを見ていたヤススケ達は思った。
だが
「お前。やっぱり」
サイゾウが突然、何かを悟った感じになり、そして笑った。
「どんなに言葉で形作ろうが。無理ってわけだな。日陰」
「何が」
「自分だ表情を見ろ。〝笑っている〟ぜお前」
そう。追い込まれてはずの竜が笑っていたのだ。
まるで、余裕があるように。
「笑っている・・か」
「お前。楽しいんだろ」
突きつけるように竜に言葉を掛けた。
「戦いが」
「・・・・・」
竜は反論できなかった。
自分が確かに笑っていたからだ。
自分の中でこの戦いを楽しんでいる節がある自分。
「確かに。僕は、お前との戦いを楽しんでいるのかもしれない」
認めた。
「だけど、僕はお前みたいにはならない」
それを踏まえてサイゾウを否定した。
「へ。まあいい。こっちは、楽しめればいいんだからよ!」
槍が竜に迫ってくる。
右手の刀で弾く。
「そのパターンはもうわかっているんだよ!」
サイゾウは自分を霧化させる。
これで斬られることはない。サイゾウは思った。
「ガッ!?」
しかし。サイゾウの胸辺りに斜めに赤い線が掛かれ、そこから出血した。
「斬れましたね」
「!」
サイゾウの赤い血が付いた小太刀の切っ先を払う。
「次は、斬ります」
竜は宣言するように呟いた。