本命同士の対決
久しぶりの投稿です。
二人の戦いを中心に書いたのですが、どうでしょう。
楽しんでいただけると嬉しいです。
時は遡る。
竜はサイゾウと鍔迫り合いをして追い詰められた時から話は始まる。
「竜よ」
「師匠」
「わしの話を聞け」
「話ってなんですか!?」
今にも力まかせの押し込みで斬られるかもしれない場面だというのに。
「よいか。わしが今から話すことは今お前と刃を交えているそこいる者が手にし、お前さんを斬ろうとしている刀の話だ」
「まさか!?」
さっきまで戦っていて、今でも鍔迫り合いの真っ最中である刀の話に驚く。
「あの刀は、お前さんがサンガの里まで振ってきた二振りの魂が一つとなって誕生した一振り。わしが刃を当てて感じたのは、拒絶じゃった」
「拒絶」
「お前さんを傷つけたくない。という強い意志をわしは感じ取った。その証拠にお前さんはあの男から受けた短剣による傷以外目立った外傷はないじゃろう」
確かにそうだ。自分は大きな傷といったものはそれだけだ。
「その意志表示ともいうべきものがさっきまで刃を止めようとしてお前さんを吹き飛ばしてきた衝撃波じゃ」
それを聞いた竜はハッとする。
あの現象は刀の力を使ったサイゾウによるものだと思ってきた。でも、あれを逆に考えると自分は助けられているようにもとれる。
今までの刀の行動に言葉が出てこない。
「そこで向こうさんから提案があるらしい」
「提案?」
そういって囁くように竜之心が提案を口にした。
その数秒後に刀からあふれ出た涙が竜の全身に振りかかった。
その時竜は感じた。自分が負っていた傷が涙が掛かるのと同時に洗い流すように消えていくのを。
すかさず行動に移す。
鍔迫り合いをし押し込んできて来るサイゾウが力を入れた瞬間を見逃さず、こちらも一気に力を抜いて受け流す。
サイゾウは力を入れた方向へと倒れていく。竜は懐へと入る。丁度竜の背とサイゾウの腹が当たる。竜は刀を持っているサイゾウの両手首を掴む。そして、前へ押すような感じに力を加えた。
サイゾウは面白いように簡単に前へと転がってゆく。
手にしていた刀はするりと手から離れた。
まるで本来の持ち主の元へ帰るかのように。
遂に竜は刀を手にした。
柄に触れた瞬間。活力のようなものが湧き上がってくる感覚を感じる。
不思議だ。初めて触れたのに前から持って、振っていたような気にすらなる感じだ。
しかし。竜はそんな感想を抱いている場合ではない。
目の前にはまだ倒すべき相手がいるのだから。
竜は刀を持ち直し、サイゾウを見据えた。
「へ。ようやく手にしたか」
「随分な物言いですね。残念そうには見えないのですが」
「けっ。武器集めは趣味の副産物だ。俺の本命は殺すこと。その時の相手が持っていた武器を使うようになったことから言われるようになっただけさ」
「そうですか」
「どうだ?少しは俺を殺す気分にはなれたか」
挑発的に言葉を投げかける。
「そうですね。確かに、殺すべき、だと今思いましたよ」
そして。かつてサンガの里で放った殺気を剥き出しにして言い放った。
「はははははっ!!」
その言葉を聞いたサイゾウは笑い出した。
「いいぜ!いいぜ!いい殺気だ。やっぱこうでねえと」
背中に差してある身の丈もある槍を出した。
「そっちも本気。だったらこっちも本気じゃねえとな」
槍を構えるサイゾウ。
槍は長さが四メートル。先の刃の形は西洋剣の刃に近い。
「槍が本命でしたか」
「背中は飾りじゃねえのさ。それにあんたも本命はそっちだろ」
「そうですね」
それを最後に二人の会話が終わった。
そして。誰が合図したのかもわからないまま同時に地を蹴り、両者は再び衝突した。
サイゾウは槍を竜にむけ、突き刺すための一撃を出す。
竜は小太刀でそれを軌道をそらし、彼の間合いに入り込む。
「しゃっ!」
入り込んできた竜をサイゾウは槍から手を離し、まだ腰に差してあったダガーを二本抜いて待ち構えた。
二人が持つ刃がぶつかる。
「流石だぜ」
「そっちも」
距離をとる。
サイゾウは地面に落ちた槍を足に引っ掛け、空中にあげる。その間にダガーをしまい、落ちてくる槍を掴む。
「俺の間合いに死角はないぜ」
「どうかな!」
竜は走る。そして寸前でサイゾウの視界から消えた。
「それが話に聞かされていた。高速移動か。本当にスキルなしか。てめぇ」
周囲に目を配るサイゾウ。
「よく言われるよ!!」
右薙、左薙。
サイゾウは槍を防いでいく。
すかさずサイゾウは槍を突き出す。しかし、竜と違い槍は長いために時間がかかっていた。
小回りがきく竜の方にぶがある。
そしてついに竜の動きがサイゾウを凌駕した。
サイゾウが小太刀を横に弾いたために大きな隙をつくってしまった。
止め!
竜はここで渾身の一撃を抜いた。
しかし。斬られたサイゾウは霧散して消えた。
「!?」
「残念だったな。本命は〝こっち〟だ」
背後に聞こえた声と同時に竜は脇腹に何か太い物が貫通していったのを感じた。