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星祭りの夜

作者:風梨凛
 上弦の月が少し太り始めた三日目、今年の大晦日はちょうど、その日に当たっていました。
 雪のように白い子猫のキディは、わくわくと心を弾ませて夜空を見上げました。

 こんな明るい月、瞬く星。今年の大晦日はきっと、星祭りの夜になるわ!”

 その時、こつん、こつんと窓をたたく音が聞こえました。
「子猫のキディ、早く行こう。今夜はきっと星祭りの夜になるぜ!」
 窓の外には、右耳が欠けたキジトラの野良猫がいました。
 白い子猫は、少し困った様子です。なぜなら、いつもは家人の誰かが扉を開いたすきにさっと外へ出てしまえるのに、今日はお父さんも、お母さんも、小学生の智ちゃんも朝から外にでる気配がないのです。 
「どうしよう? これじゃあ、外に出れそうにない」
 白い子猫は小さくベソをかきました。
「駄目だよ! キディが来ないと、みんなが、どんなにがっかりすることか」
雪みたいにふわふわで、この辺りの猫の中でも一番綺麗な青い瞳を持ったキディ。
「でも、外に出れなきゃ、星祭りにはゆけないわ」
 キディが見上げた夜空には、満月が斜めに欠けたような月が明るく輝いていました。
「今夜のお月さまは、本当にきらきらしてて、“星の猫”の瞳みたい」

 “星の猫”! それは、この辺りの猫たち、すべてが憧れてる星祭りの夜の主催者。

 と、その時の事です。
 キディの目の前の窓硝子が月の光を吸い込むようにこうこうと輝きだしたのです。
「星祭りが始まったんだ! 月影の窓が開くよ!」
 キジトラの猫は驚いたように、後ろに2歩ほど下がりました。わざわざ、月影の窓を開いてまで、キディを外に出そうとするなんて、それは、星祭りの主催者がキディを星祭りに招いているということなのです。
 ゆっくりと開いてゆく窓の影に目をやると、キジトラは大急ぎで開いた窓の影の向こうからキディに手を差しのばしました。
「行かなくっちゃ! みんなが待っている公園の広場へ!」

 この日の夜空は満天の星空。冷たい冬の空気が辺り一面に広がっています。
「こんな都会の真ん中なのに、この空のきらめきはどう?」
 寒さでひきしまった空気を胸いっぱいに吸い込みながら、キディは空を見上げました。
「大晦日と重なる星祭りの夜だから、今夜は特別なんだ。だって、今年、亡くなって天にかえっていった猫たちの命が一斉に空にまたたいているんだから」

 四丁目の三毛、河原のクロ、それに赤い屋根の下の兄弟も……。

 とても仲の良かった赤い屋根の下の兄弟が病気で死んでしまったのは6月の雨の日のことでした。そのことを聞いて、智ちゃんと一緒に泣いたことを思い出すと、キディはとても悲しくなってしまいました。
 すると、キジトラが、心配げにキディの顔をそっと、のぞきこんできたのです。
「そんなにしょんぼりするなよ。だって、あの兄弟たちは、あんなにきれいな光になって空に昇ったんだぜ」
 乱暴者で名をはせているキジトラでしたが、本当は優しい猫なのです。キディは、にこりと顔をあげました。
「そうね、そして、今夜の星祭りが終わったら、来年、生まれてくる子猫たちが流れ星にのってやってくるのね」
 キジトラとキディは、そうしてしばらくの間、空を見つめ続けました。
 やがて、風がちりんとキディの首につけられた金の鈴を鳴らしました。
 すると、公園のあちらこちらの物陰から仲間の猫たちが、姿をあらわしたのです。
「こんばんは、いい夜だね」
「こんばんは」
「星祭りが始まるよ」
「なんだか、わくわくしちゃう」
「あっ、空に“星の猫”の瞳が輝き出したよ!」

 上弦の月に、緑ががった黄金きんの縁取りが浮かびあがった時に、猫たちは、わぁっ! と、歓声をあげました。それが、一匹の猫の姿を形どっていったからです。夜目のきく猫たちにさえ、おぼろげにしか姿がみえぬほど眩しく輝いて、それは夜空から彼らをみおろしていました。

“星の猫だ!”

 すると、その時です。

 “雪の毛並みをもったキディ、この町で一番、美しい子猫。今年のプレイヤーはお前に決めた。私と、ゲームをしよう。もし、勝てたなら、どんな願いでも叶う”星の欠片“をお前にあげる”

 聞えてきた天からの声に、公園の猫たちはわぁ! と、また歓声をあげました。

「やっぱり、今年はキディがプレイヤーに選ばれると思った!」
「キディ、いいな!」
「がんばれ。キディ!」

 胸が小躍りしてたまりません。“星の猫”に名前を呼んでもらえるだけでも、光栄なことなのにプレイヤーに選ばれるだなんて。
「でも、どんなゲームをやるんですか」
 キディは首を傾げました。ゲームって、飼い主の智ちゃんが、3DSでやってる推理ゲームみたいなやつなのかしら(そんなの、とても無理)
 ちょっと困った顔をして、キディは前に進み出ました。

 その時、風に吹かれたキディの首輪の鈴がちりんと音をたてました。その瞬間、その鈴は雪が溶けるように夜の空に消えてしまったのです。
 空から“星の猫”の声がまた、響いてきました。

 “これから、千の鈴が空から降ってくる。その中から自分の鈴を探し出せたら、キディ、お前の勝ち。間違ったなら、私の勝ち。どうだ? 勝てる自信はあるのかな”

 これは、難しいぞ。とあちらこちらから声があがりました。けれども、キディはにこりと微笑んで空を見上げました。これなら3DSでやるゲームより、ぜんぜん、簡単だわと。

 すると、満天の星空から、次々に銀の星々がおちてきました。公園に集まった猫たちは、夢を見ている気分で星の一つ一つに目を向けました。

 ちりん、ちりん、ちりん、ちりんと、

 夜空に何千個もの銀の光が落ちてきます。

「鈴だ! 鈴が降ってくる。千の鈴が落ちてくるよ!」
 煌びやかな鈴の音色と銀の輝き。雨とも雪とも違った不思議な景色。
 ところが、
「大丈夫、わかるもの。私にはわかるもの!」
 そう言うと、キディは顔いっぱいに笑みを浮べて降ってくる鈴の中へ駆け出していったのです。

「違うの、違うの。あれじゃない」
 ちりん、ちりんと鳴りながら落ちてくる千の鈴。でも、空を見上げるキディの視線の先にあるのはたった一つの銀の鈴。
「もっと上、もっと上。あっ、見えてきた。あの夜からこぼれ落ちた星みたいな……」
 キディは、ちりちりとかわいい音をたてて落ちてくる小さな鈴を見つけると、それに向かって高く手を差し伸べました。
「間違ったりしないわ。これが私の銀の鈴!」
 その瞬間、千の鈴は真っ白な雪の結晶に姿を変えました。

 音は何も聞こえてきません。ただ、降り続く雪がしんしんと囁くように空から舞い降りてくるのです。

 キディは耳元に落ちてきた雪が冷たくて、ふるんっと首を振りました。すると、いつもの聞きなれた音がちりちりと、響いてくるではありませんか。
「あれ? 鈴が首にもどってる」
 確かに手には鈴の感触があるのです。キディはそっと自分の手に目をやりました。

 ―“星の猫”の瞳? それは、まぶしく輝くその欠片 ―

 わあっ!と、あたりは、一斉に猫たちの大歓声に包まれました。
「やったね、キディ!それは、“星の欠片”。キディは“星の猫”とのゲームに勝ったんだ!」

 キディが手にした“星の欠片”の光は、公園の猫たちを優しく包み込んでゆきました。寒風をすべて払いのけてしまうほどの暖かい光です。
 夜空は星のような雪のような、銀の鈴のような、極上の煌きで覆いつくされていました。

 これが星祭り、星祭りの夜!

 思い思いの声で鳴き声をあげながら、猫たちは好き勝手な歌を歌い続けました。この日ばかりは手に届く星たちの輝きを掴み取ろうと、公園の近くの屋根に登って、落ちてくる星屑に手を伸ばしました。

 ひとしきり遊び続けたその後で、キディは、星の猫からもらった“星の欠片”を取りだしました。
 傍にいたキジトラがいいました。
「何でも願いが叶うなんてすげぇけど、キディはそれに何を願うんだよ」
 その時、白猫の手の中できらりと“星の欠片”が輝きました。キディは、そんな願いをしていいものかと、ちょっと、戸惑いましたが、ぎゅっとその輝きを手に握るといいました。
「どうかどうか、あの赤い屋根の下の兄弟がここに戻ってきて、私たちと、また、一緒に遊べますように!」
 すると、辺りが突然、暗闇に包まれてしまったのです。空に瞬いていた星は、一斉に姿を消し、しんと公園の広場が静まりかえってしまいました。

 光がまったく消えうせてしまった広場に、びゅうと冷たい空っ風が吹き抜けてゆきます。
 怖いような暗闇に、広場に集まった猫たちは、ぶるぶると震えだしました。
「キディが罰あたりなお願いをするからだよ! 天に召された命をもう1度、呼びもどしていいわけがないのに」
「きっと、星の猫がお怒りになって、星の瞬きを全部消してしまったんだ」
「ここにいたら、きっと、酷い目にあうぞ。みんな、早く家に帰るんだ」
 だが、そそくさと猫たちが家に逃げ帰ろうとした時、キジトラが大声をあげて、みんなを呼びとめたのです。
「馬鹿野郎っ! だから、飼い猫ってやつはいやなんだ。お前ら、1年に1度くらいは野生を取り戻してみろよ! 猫なら誰でも夜目がきくだろうっ! 目を凝らして空を見てみろ、俺にはすご~くいいもんが見えるぞ。これが、“星祭りの夜”のクライマックス、一番大切なところなんだから。これが終わらなきゃ、午前0時の鐘が鳴って、新年がきたって、ちっともめでたくなんかないぞっ!」
 猫たちははっと目を見開き、空を見上げました。もともと、どんな猫にも暗闇の中に光を見つける力が備わっています。だから、彼らの誰も彼もが、きらりと空の彼方で輝く小さな光を瞳で捕えることができました。それは、空の向こうから長い光の尾を引きながらやってくる光の帯でした。
「あれは……?」
「流れ星だ!」
 真っ暗な空を流れてゆく2本の光は、きらきらとした銀の軌道を描きながら、赤い屋根の家の方向へ落ちてゆきました。

「あの流れ星を見た? きっと、来年は、あの赤い屋根の家に子猫が2匹生まれるんだわ!」
 それは、何にもまして美しい命の輝きだったのです。白猫の言葉に、キジトラは歓喜きわまって、泣きそうになってしまいました。でも、そんな顔を白猫に見せるわけにはゆきません。キジトラは大急ぎで、一つ、咳払いをしていいました。
「へへん、“星の欠片”は伊達じゃなかったな。子猫はじきに大きくなって、みんなと一緒に遊べるようになるぜ。ってことは、赤い屋根の家の兄弟と遊びたいっていったキディの願いは叶ったんだ」
 そんな野良猫の顔を白猫は不思議そうにのぞき込み、
「キジトラ君? あんた、少し泣いてる?」
「馬鹿いうなっ、目にゴミが入っただけだいっ」
 キディは、大慌てで目をこすったキジトラを見て、くすりと笑顔を浮かべました。けれども、
「もっと遊ぼう」というキジトラの誘いをううんと、断りました。
「なんでだよ! 楽しい夜はこれからがたけなわだ。新しい年が来るって時に!」
「だってね、家できっと、智ちゃんが心配して待ってるから」
「あ~あ、これだから家猫ってやつは、つまらないんだ」
 生まれながらに野良のキジトラは、ぷんっと口をふくらせました。キディはそんなキジトラにちょっと遠慮しがちに言いました。
「だって、“星の猫”とのゲームに勝てたのは、智ちゃんがくれた鈴のおかげなんだもの。私はあの鈴の音がとても好き。どんなに道草をくって帰ってきても、あの鈴がなると、いつも智ちゃんか家の誰かがドアをあけてくれる。だから、わざとちりちりと鈴を高くならして家に帰るの」

 お帰りキディ! どこに行ってたの!?

 その時の怒ったような、安心したような、あの笑顔がとても好き!

 キジトラはちぇっと、舌を鳴らしましたがふふんと鼻を鳴らして言いました。
「なら、いいや。でも、俺はお前の事、ちっとも、うらやましいなんて思ってないからな。それより、ほら、午前0時の鐘がなるよ」

 遠くから聞こえてくる鐘の音に、公園の猫たちは静かに耳を傾けました。

「新年おめでとう!」
「おめでとう!また、今年もよろしくね」

 陽気に笑う猫たちに、再び空に現れた満天の星が瞬きを返します。
「また、次の星祭りで!」
「そう、また会いましょう!」
「今度は赤い屋根の家に生まれた子猫たちも一緒にね!」

「キジトラ君、次は、初夢の話をしようね」
 キディは、キジトラに手を振ると大急ぎで家路をかけて行きました。
 小学生の智ちゃんは、眠くて寝てしまったかもしれません。
 それでも、キディは家の玄関の少し手前で、とりあえず、首の鈴をわざと大きく鳴らしてみようと思うのでした。

                   【星祭りの夜】 ~完~

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