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ネクストライフ 作者:相野仁

六章「ターリアント大陸擾乱」

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十二話「攻防戦4」

 マリウス、アルベルト、フランクリンの戦いの場は空中であった。
 マリウスは常時飛行魔法と呼吸補助の魔法を使う事を強いられていたが、地上に降りて戦おうとは思えない。
 アルベルトが巨大な体躯をいからせ、超高速で突撃をしてくる。
 魔法使いであるマリウスでは捕捉が困難な速力の為、正確な狙いが必要でない広範囲魔法を選ぶ。

「<炎よ全てを蹂躙せよ>【エクスハラティオ】」

 「神言の指輪」の効力で無詠唱発動である。
 しかしアルベルトが白い業火を浴びそうになった時、フランクリンの詠唱が響く。

「【ハイドロヴェール】【アクアシールド】」

 水系の補助魔法「ハイドロヴェール」は霧状の水で全身を覆い、炎攻撃を著しく減殺し、水系防御魔法「アクアシールド」はやはり水で全身を覆って盾代わりにする。
 どちらの魔法も白い業火に消滅させられたが、その威力を半減させる事には成功した。
 アルベルト程の魔人であれば、それで大ダメージは免れるのだ。
 炎に身を焼かれながら、暴風を纏って突進してくるマリウスは「ワープ」で回避する。
 そうすると再びフランクリンが魔法を使う。

「【キュア】【ハイヒール】」

 アルベルトの「火傷状態」は一瞬にして回復し、傷も癒えてしまう。
 これを何度か繰り返したのが二対一の攻防である。
 さすがのマリウスも転移すると同時に魔法を繰り出すのは不可能で、どうしても半瞬程度の時間は必要だ。
 下をチラ見すれば、地上が戦いの余波で荒れている。
 マリウスが地上に降りる気になれない最大の理由だ。
 空中戦を繰り広げているのにも関わらず地上に被害が出るのに、もし地上に降りたらどれだけの被害が出るのか。

(何とかしないとな)

 戦いが始まってまだ大して時間は経過していないから、まだどの戦線も崩れてはいないだろうが、あまり手こずってもいられない。
 この場で厄介なのはアルベルトよりもフランクリンである。
 マリウスが捕捉しにくいように空中を高速で移動しつつ、複数の高位魔法を効果的なタイミングで同時に発動し続けているフランクリンは実に厄介だった。
 おまけに回復系魔法も使ってきて、マリウスの攻撃魔法が何度命中しようとも大きく回復させてしまう。
 かと言って標的をフランクリンに変えると、今度はアルベルトの突進が脅威になる。
 マリウスの肉体の耐久力は並みの魔法使いと変わらないので、一発でも貰うとそれがそのまま致命傷となりかねない。

(さすが魔王に近い上級魔人か)

 侮っていなかったと言えば嘘になる。
 彼が勝つには先にフランクリンを倒す、フランクリンの支援をぶち抜いてアルベルトを倒す、二人まとめて葬り去るの三択だ。 
 他にもあるのだろうが、短時間で勝てそうな案をマリウスは思いつけなかった。
 二人をまとめて倒そうと思ったら火力を上げる必要があるが、今は二種類の魔法を常時発動させ続けているせいで落ちている。
 何とかしなくてはならない。

(……待てよ?)

 マリウスはふとある考えを思いついた。
 地上から空中に向けて攻撃し、二人に反撃を許さなければ地上に被害は出ないのではないか。
 とっさに閃いたのだが、なかなかの名案に思える。
 地上に降りれば飛行魔法や呼吸補助魔法を使わなくていいし、一時的にせよ二人が一魔法の射程距離に入るかもしれない。
 その瞬間ならば最高火力での一撃を繰り出せる。
 やるだけやってみようと思い、地上へとワープする。

「む」

 アルベルトは一瞬見失ったが、フランクリンは正確に捉えていた。

「下です」

 アルベルトは大きく翼を広げ、一直線に下降する。

「逃がさん」

 アルベルトにすればマリウスが己の不利を悟り、空中戦を諦めたように見えたのだ。
 フランクリンは何か嫌な予感がしたが、アルベルトを見殺しにするわけにもいかず、補助魔法を二人分重ねがけをする。

「【ハイドロヴェール】【アクアシールド】【サンドウォール】」

 マリウスがこれまで使ってきたのは炎系の「エクスハラティオ」と雷系の「トニトルス」のみ。
 もちろん他の系統も使えるのだろうが、自分達相手では得意な系統に絞っているのだろう、とフランクリンは推測していた。
 それこそが下級と上級である自分達の差なのだと。
 それは大間違いだとすぐにも判明する。
 アルベルトとフランクリンが射程距離に入ったのを見たマリウスは「狙い通り」とほくそ笑む。
 フランクリンは巧みに距離を保ち続けいて、二人とも直撃を食らわないような、何かされて即座に魔法で対応出来るような、絶妙な位置取りを心掛けている。
 確かに「一級魔法なら」この上級魔人達に一撃で致命打を与えるのは困難だ。
 しかし、生憎マリウスは一度も上限を見せた覚えはない。

「<万物は流転する。必滅の理、無常の風よ、我が敵に終焉を>【アニヒレーション】」

 マリウスの全身から黒い五条の光が渦を巻き、烈風の如く吹き荒れる。
 上級魔人達の生存本能が最大級に警告を発するが、黒い光の奔流は二人が回避する暇もない程の速さで襲いかかった。
 フランクリンが慌てて展開した「ディメンションシールド」二枚を黒い光の奔流は容易にぶち抜き、アルベルトとフランクリンを飲み込む。
 黒き光の奔流が消え去った時、アルベルトとフランクリンは完全に消滅していた。
 あらゆる防御魔法、上級魔人の耐久力を無の如く葬り去った破滅の黒風。
 術者の魔力が及ぶ限りという縛りはあるが、触れし全ての存在を消滅させる、特級魔法最強にして最悪の魔法……それが「アニヒレーション」だ。
 禁呪の中でも最悪と言われる所以は、フランクリン達の遥か上空に浮かんでいた雲さえ消え去っている点から伺える。
 術者の魔力が及ぶ限り、触れた存在全てを無差別で消滅させてしまうのだ。
 さすがに太陽まで届くはずはないが、もし届いたら取り返しのつかない事態が起こらないなどとは言えない恐ろしさがある。
 マリウスは大きく息を吐いた。
 飛行魔法と呼吸補助魔法を常時発動させ続けながら、高位の攻撃魔法、転移魔法を使い、挙げ句の果てに特級魔法も発動した事でさすがに消耗したのだ。

(禁呪は……アニヒレーションだけは使いたくなかったけど)

 何せ責任が取れない。
 ただ、人類の命運を懸けた戦いが起こっている以上、そんな事をぬかしている場合かという開き直りに近い思いもあった。
 時間をかければ一級魔法でも倒せただろうが、人類軍はどうなるのか。
 彼らの一員として行動すると決めた以上、一人でも多くを助けるべく行動する義務があると思うし、それから逃げたくはなかった。
 念の為、バーラから貰った疲労回復用のポーションを飲んでおく。
 魔力の方は賢者が持つ「消費魔力軽減」と「魔力回復大」スキル、更に装備品の効果と重複する事で更に上がっている為、既に使った分の大半は回復した。

(それにしてもほんとバランスブレーカーだよな)

 エクストラアイテムの方はほぼ反則に近いと思う。
 アウラニースが「最終ボス」とされた際、「運営はそろそろサービスを終了させる気になったのでは」と騒ぐプレイヤーが少なからず出たのだが、それも無理ないと思った。
 もっともアウラニースのせいでイマイチバランスブレーカー感はなく、プレイを止めるプレイヤーの数はあまり増えなかったのだが。
 数秒後、疲労もほぼ回復する。
 まだ大して時間は経過していないはずだが、それだけに残り三人の魔人と連戦する可能性は高いとマリウスは考えている。
 疲労回復を今の段階でしておいたのはその為だ。
 マリウスが自分が人類の希望の星的存在と見なされ始めている事を自覚し、あまり無様な様子を見せない方がいいだろうと密かに思っていた。
 もちろんバーラやロヴィーサ達にあまりかっこ悪いところを見られたくはない、という男性的考えもある。
 まず、ランレオから助けに行くべく転移した。


 マリウスがランレオのカヴィール砦に「テレポート」を使って戻ると、人類が圧倒的優勢に立っていた。
 死傷者はそれなりに出ているようだが、その割には士気がマリウスでもひと目で分かった程に高かった。
 よく見るとゾンビ兵の動きが不自然なまでに悪く、人類は一方的に攻撃を加えている。
 数が違いすぎるので全滅させるのには時間がかかるだろうが、事実上の勝敗は決したのかもしれない。
 と空から思っていると、ゾフィが空を飛んで近寄ってきた。
 彼女は回復してから砦に戻ってきた時、マリウスを見つけたので急いでやってきたのだった。

「ご主人様! パルは私が倒しました」

「おお、それでか。ご苦労さん」

 マリウスは意外感を禁じえず、アイテム「オニキスアウルの魂」を受け取った。
 ゾフィは武闘派っぽいとは言え、淫魔である。
 戦闘特化してそうな魔人相手だと苦戦は必至だと思っていたのだが。

「正直、レーザーを会得していなければ危ないところでした」

「なるほど。知っておいて損はなかったって感じかな」

 ゾフィの報告にマリウスは感想を述べたが、のんびりしている余裕はないので切り上げる事にした。

「私はこれから他の場所に加勢に行くが、お前はまだ戦えるか?」

「はい。私も参ります」

 ゾフィの返答に淀みはない。
 人間どもはさておきアルとエルは心配だし、活躍すればするほどマリウスからの評価も高くなるという打算もある。

「マリウス様はボルトナーのウプサラ城へ向かわれるべきかと。エルは時間稼ぎに徹すれば、ガスターク相手でも持ちこたえているでしょう」

「ふむ。じゃあそうするか」

 マリウスはゾフィの意見を入れ、まず彼女をセラエノのアパラチア砦へ転移させ、次に「アタッチ」を使ってバーラの側へ転移する。
 「アタッチ」とは知り合いの側へ移動する転移系魔法である。
 行った事のない場所でも知り合いさえいれば移動出来る、ゲーム時代では重宝した魔法だった。


 マリウスが転移した時、バーラがレーベラの剣圧に吹き飛ばされて飛んできたところだった。
 とりあえずマリウスは黙ってバーラを受け止める。

「え……?」

 制止系魔法を使って着地しようとしていたバーラは驚いて振り向く。
 そして表情に喜色が漲った。

「マリウス様!」

「お待たせ」

 マリウスはやや芝居がかって返事をする。
 アルもアウグスト三世も城兵もマリウスの存在に気づき、大きな歓声が沸き起こった。

「見ろ、マリウス様だ!」

「という事は魔人達を倒したのか!?」

「勝てるぞ!」

 味方のマリウスが上級魔人二人を倒して駆けつけたとなれば、城兵達の士気は百倍にもなる。
 一方、人間達と正反対の心理になったのが魔人のレーベラだ。

「ば、ば、馬鹿な……アルベルト様やフランクリン様が……に、人間に負けたと言うのか?」

 思わず大剣を取り落とし、両手で頭を抱えて呻く。
 マリウスはそんなレーベラの周囲に誰もいない事を確認して

「【コンゲラーティオ】」

 氷系の一級魔法を叩き込んだ。
 レーベラは両手で頭を抱えたまま瞬時に凍りつき、そのまま砕け散った。
 「コンゲラーティオ」は「エクスハラティオ」とは違い、対象限定のみ攻撃出来る優れものである。
 レーベラが消滅した後、大剣の側に小さな指輪が転がった。
 マリウスはそれを確認すると周囲をそれとなく観察し、思った以上に人類は善戦していたらしいと思った。
 特にバーラ、アウグスト三世、アルが三対一で魔人に善戦していたのはいい意味で計算違いである。
 確かに早めに救援には来れたのだが、それでも人類側の死傷者は少ない。

(俺、思い上がってたのかもなぁ)

 期待はされているという自覚が、無意識のうちに「この世界の人間は自分なしで何も出来ない」という思いになっていたのかもしれない。
 マリウスが思うより、この世界の人々はずっと強くて逞しいのだ。
 現にマリウスが来た事には喜んだものの、「もっと早く来れなかったのか」といった反応は誰も見せなかった。
 改めないと恥ずかしいなとマリウスが反省していると、バーラが軽く咳払いをして注意を促した。
 マリウスはバーラの肩に手を回したままだったのだ。
 バーラ個人としては大歓迎なのだが、衆人の耳目がある場所ではランレオ王女としての行動を心掛けなければならないのだ。
 ましてや今はまだ戦争中である。

「これは失礼」

「い、いえ。危ないところをありがとうございました」

 戦場であるのに奇妙な雰囲気になってしまった。
 初心な少年と少女が醸し出す、甘酸っぱくももどかしいような空気を壊したのはアルであった。

「ご主人様、申し訳ありませんが、アンデッド兵どもは何とかならないでしょうか?」

 その言葉で我に返ったマリウスは頷き、今後の方策を考え始めた。
 バーラは非常に残念だったが、時と場合を弁えない少女ではなかったのでとりあえず近くにいるゾンビの浄化に取りかかった。
 城兵達も礼儀正しく見なかったフリをしてゾンビへの対応を行う。

(ガスタークを倒せばいいわけだが……魔法使い相手だと逃げに徹されたらやばいかもな)

 フランクリンも高速移動に「ワープ」を織り交ぜてきて、捕捉するのに苦労させられたのだ。
 ガスタークは出来ないと考えるのは楽観的すぎるだろう。
 マリウスからは逃げ回りつつ、アンデッドを多方面に同時攻撃させるというのは悪い策ではない気がする。
 出し惜しみをしなければ、意外とやれなくはないかもしれない。

「バーラ様、地理の事を教えて欲しいのですが」

 マリウスはボルトナーのウスプラ城、ランレオのカヴィール砦、セラエノのアパラチア砦がどのような位置にあるのか、バーラに訊いてみた。
 バーラは怪訝そうな顔をしていたが、マリウスの役に立てると思ったのか、どこか嬉しそうに教えてくれた。
 マリウスは教わった事を頭に叩き込むと魔法でウスプラ城の北西よりに移動する。
 そして「神竜の杖」を道具として使う。
 神竜の杖を道具として使った時の効果は魔法の射程距離の向上である。
 「そこまでやるのか、運営」と叫んだ人もいるとか。

「迷える魂よ、導きの光に従いあるべき姿へ還れ【イクソシズム】」

 マリウスは浄化魔法を選択する。
 アンデッドを浄化するだけの魔法ならば、万が一味方を巻き込んだところで問題ないからだ。
 不死者を浄化する白き清浄な光が大洪水の如くアンデッドに襲いかかる。
 ウスプラ城を囲んでいたアンデッド兵達を飲み込み、そのままランレオのカヴィール砦方面へと押し寄せる。
 ボルトナー方面軍が分かったのはそこまでだった。
 カヴィール砦に到達した白き浄化の洪水は、その周辺丸ごとを通過し、セラエノのアパラチア砦へ向かう。

「な、何だ今の?」

「天変地異か?」

「天罰?」

 ランレオ方面軍が混乱する中、唯一ゾフィだけがマリウスの浄化魔法だと気づき驚愕していた。
 やがて光はアパラチア砦まで到達し、押し寄せていたアンデッド軍団を覆い尽くした。
 光が消え去った時、数百万のアンデッドは消滅していた。

「な、何だ、今の光?」

「天罰?」

「魔王の攻撃か?」

 アパラチア砦の兵士達は混乱し、キョロキョロと周囲を見回しながら、次々に思った事を言葉に出す。
 どこもかしこも何が起こったのか、とっさには理解出来る者はいなかった。
 いや、ウスプラ城の面々については目の前で起こった事は理解出来たが信じたくはなかったと言うべきだろう。

「す、凄い。マリウス様、神様みたいなお力ですね!」

 一人だけ例外はいたようで、バーラは凄い凄いと無邪気にマリウスを大声で称えた。
 もっともバーラとてマリウスがやった事を全て理解していたわけではない。
 ここウプサラ城からカヴィール砦は数十キロも離れているし、カヴィール砦とアパラチア砦も同様なので、そこまで魔法が届いたなど俄かに信じられるはずもない。
 ただ、目の前にいたアンデッド兵約百万が消滅したのは厳然たる事実で、バーラはその点は理解していたのだ。
 次にアルが正気に戻り、バーラのマリウス万歳に乗っかった。
 こうなると他の人々もつられたようにマリウス万歳を唱和する。
 当の本人は疲労を覚えたのでポーションを飲んでいた。

「やっぱり、超広範囲攻撃は疲れるな」

 ぼそっとつぶやいたのをバーラ、アウグスト三世、アルだけは聞えた。
 バーラとアルは素直に感心したが、アウグスト三世は「疲れただけか」と顔を引きつらせたものの、辛うじて声は抑えこむ。

「じゃあちょっとガスタークを倒してきます」

 マリウスは一言断ると「アタッチ」でエルの下へと飛ぶ。

「つくづく味方でよかった……」

 勇猛果敢な豪傑と謳われ、魔人レーベラ相手でも勇ましく戦ったアウグスト三世さえ、全身から冷や汗を垂れ流した。



 ガスタークにとっては衝撃的すぎる光景だった。
 白い光の奔流が突如自分の配下のアンデッド達を飲み込んだかと思うと、アンデッド達は全滅してしまったのだから。

「ば、ば、馬鹿な……そんな馬鹿な……」

 ガスタークは呆然とし、うわ言のように同じ言葉を繰り返している。
 魔法使いだけに浄化魔法が打ち込まれたのだと嫌でも理解出来た。
 でなければ人類軍も飲み込まれたというのに、無傷ですむはずがない。
 問題は視界の外から魔法が飛んできたという点だ。
 一体どれほどの力量ならば、こんな事が出来ると言うのだろう。

「あ、ありえないんだ……ありえてたまるか……」

 ガスタークの魔法使いとしての知識が、現実を認める事を拒絶している。
 魔人であるガスタークが見えないような超遠距離から、威力を維持して魔法を放つなど、到底人間業ではない。

「お前がガスタークだな」

 だからマリウスが来たのにも気づかず、反応が遅れた。
 マリウスにしてみればアパラチア砦から離れた場所に一人、ぽつんと魔法使いらしき者が空に浮いているのだから、実に分かりやすい。

「そ、そうだ……貴様がマリウスか?」

 ガスタークは声を震わせながら、何度も生唾を飲み込みながら、それでも気力を振り絞ってマリウスを睨みつける。

「そうだよ。死んでもらおう」

 有無を言わさず攻撃を仕掛けようとするマリウスに待ったをかける。

「ま、待ってくれ! お前は聖人セイントか? それともウォーロックか?」

 ガスタークは訊かずにはいられない心理だった。
 このような規格外の力を持った輩が、単なる人間だとはどうしても思えない。
 自分と同じウォーロックか、それともその対極である聖人か知りたかった。
 こればかりは余人には計り知れない事である。
 マリウスも理解出来なかったが、ガスタークの質問には軽い驚きを覚える。
 聖人もウォーロックも、聞き覚えがあったからだ。
 魔法使い系ユニットの頂点に当たる職業が聖人とウォーロックなのだ。
 転生前のマリウスが目標としていた一つが聖人への転職なのである。

「どちらでもない。その手前の“賢者”さ」

 マリウスは自分でも不思議な事に、律儀な返答をしていた。
 ガスタークは想定の範囲を超えた答えに目を白黒させる。

「賢者……? 何だそれ?」

 ガスタークの困惑が偽りでないとマリウスは直感したが、これ以上話すのもよくないと思い、攻撃魔法を放つ。

「【エクスハラティオ】」

 ガスタークは回避も防御も出来ず、白い業火に飲み込まれた。
 彼の死をもって人類の勝利が決まったのだが、この日マリウスがやってのけた出来事を周囲が把握するには、少なくない時間が必要となる。
 三カ国の国境は距離がありすぎて、すぐに情報が共有出来なかったのだ。
 マリウスがやった事を人々が正確に知った時、マリウス伝説の一頁に「マリウス、魔軍数百万を撃退する」の項目が付け加えられたそうな。

「マリウスはメリンダ・ギルフォードさえも凌駕しうる、英傑だ」

 この評価が初めて出たのがこの戦いであったが、誰も異は唱えなかったという。
+注意+
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